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LGBTQUEST  作者: Ayesha
1章 黒髪金眼の悪魔
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2話 ロー・ヘルメという男

この世界を構成しているのは、元素と魔素の二つだ。

元素は形を創り、魔素は魔を創る。


魔素は空気中に滞留しており、生物はそれを吸い、自身の魔力の基としている。

魔力とは魔素から構成される力であり、元素のルールに当てはまらない異能だ。


人の顔が千差万別であるように、魔力にも無数の型が存在する。

火を生み出す者、水を生み出す者、はたまたあらゆる属性を満遍なく扱える者。


俺の型は、男のケツを無尽蔵に追いかける型・・・・・・冗談だ。


魔力の型については初等部では分からない。

中等部以降で魔術関係の学科を専攻した際に検査される。検査用の機械はけっこうな高級品らしく、国の方針で中等部以降にしか設置されていない。経費削減もあるし、そもそも初等部は誰でも扱える簡単な魔術しか習わないから型を知る優先度は低い。


なので、初等部を卒業してそのまま山籠りした俺には自分の魔力の型は不明だ(この国は初等部までが義務教育だ)。ちなみに初等部は6年、中等部と高等部はそれぞれ3年だ。


そんな俺は特に大賢者の血を引いた家系だとか、父が国防魔術師団長だとかそんなものはないごく普通の家庭で育った。兄と姉が一人ずつの三人兄弟だ。


成人した兄は魔術の研究機関に努めており、姉は中等部で戦術学科の3年生だ。


父は農家、母は酒場を運営している。


俺が山籠りすると言った時は、両親は人に迷惑をかけないなら好きにして良いと言ってくれた。

研究施設にいる兄からは電話で頑張れとだけ言ってくれた。

姉からは猛反発を受けたが、半ば強引に俺は家を出た。


心残りがあるとしたら、姉と喧嘩した状態で出たことだ。

もし万が一帰った時には・・・・・・。いや、考えないようにしよう。


山籠りするに当たって、どの山を選択するかだが、基本的に人の気配が無い場所は危ない。しかし、俺にとっては人の気配が無い場所の方が好都合だった。


兄がこっそり教えてくれた遠視魔術で、”ある程度の範囲内で”人の気配がなく”強い魔物の気配が感じられない”山を唯一発見した。


山へ到着すると、複雑な術式が施されてあった。封印術式だ。しかし、そのまま素通りできたため、結界の類では無いだろう。


入った瞬間、あまりの魔素の濃さに吐き気が出るほどだったが、数分すると慣れてきた。血流に魔素が溶け込んでいく感覚に心地良さすら感じる。


ある程度山を登っていくと、少し拓けたところに小さい猪の子供が寝ていた。ウリ坊だ。


子供が寝ているんだから近くに必ず親がいるはず。警戒しつつその場を離れようとするがーー


「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


ーーやはりいた。親猪だ。それも大きい。

いや、大きいというより巨大。魔物図鑑で見たことがある、化け猪だ。


体長6mはあるだろうか。身の丈並に発達した双対の角を向け、荒々しく俺に突進してくる。


「ちっ!羽ばたけ、タラリア!!」


スニーカーから黄金の羽が生え、上空へ飛ぶ。


化け猪は速度を緩めず俺の下を過ぎ抜く。

バキバキッと大木を何本もなぎ倒したところでようやく止まり、上空の俺を睨み付ける。


・・・・・・なんつー破壊力だ。なぎ倒すというより吹き飛ばすと言った方が良いかもしれない。

あんなのまともに喰らったら全身バラバラだ。列車にぶつかるようなものだ。


しかし、流石に空に飛んでる俺には突進できないだろう。


「ヴァオオオオオオ!!」


化け猪は足踏みを始める。


なんだ・・・・・・?他の誰かをターゲットにしたのか?

いや違う。化け猪は俺をしっかり睨み付けている。


ーー嫌な予感がする。その前に片付ける!


「壱の火球!」


手のひらサイズの火球を創り出し、化け猪に投げつける。

爆音と共に火が化け猪を燃やす。

獣は火に弱い。これで決まりだ。


「ヴゥウウウ!!」


ーー化け猪が高速で痙攣し始めた。

振動が風を伝わり俺の五感を揺さぶる。

全身を包んでいた炎がみるみる萎んでいく。


・・・・・・マジか、消化しやがった。


「ヴァアアアア!!」


再び足踏みを始める化け猪。

うーん、これは逃げた方が良いな。


「ふ、ふん!決着はお預けにしてやるよ!」


タラリアを使い、直ぐその場を離れる。

その瞬間ーー。

化け猪が跳躍し、先ほど俺が滞空した場所を過ぎ去り、


ドオオオオオン!!


壁に激突した。


全身の血の気が引く。あと少し判断が遅ければ間違いなく死んでいた。

逃げないと!死ぬ!


生まれて初めて感じる死の恐怖。初等部の授業とはまるで違う、これが現実。


化け猪の鳴き声が聞こえなくなるまで離れたところでタラリアを解除し、地に降り立つ。


暫く足の震えが止まらなかった。



「ーーと、まあこんな感じで化け猪から逃げてきたわけだ」


「へえ」


黒髪金眼の女の子は指に止まったトンボを眺めている。


「・・・・・・なんかあまり興味無さそうだな」


「そうね」


「は、はっきり言うじゃん」


「ウリ坊との小競り合いはどうでも良いもの」


「いや、ウリ坊は寝てたんだ。親の方と戦ってたんだよ」


「うん?だからその子もウリ坊よ」


・・・・・・え?

あれが、あの大きさで、子供?


「親はもっともっと大きいわ。『獅子の子落とし』って知ってる?」


「獅子は子供を谷底に落として、這い上がってきた子だけを育てるって話だっけ」


「そう。親は山頂付近にいるわ」


あれよりヤバいのが上にはいるわけか・・・・・・。そして、そんな情報を知っているこの子も相当強いはずだ。

魔力量も桁違いだし。


「そんな話はどうでもいいわ。それより、あなたの『タラリア』というもの、見せてくれない?」


「タラリア?良いけど・・・・・・」


スニーカーから金色の翼を生やす。


「ふうん、やっぱり・・・・・・。その力を何処で手に入れたの?」


「何処で?これは兄が教えてくれた魔術だよ」


「魔術の研究をしているお兄さんだったかしら」


「ああ」


・・・・・・そういえば、タラリアは命の危険が迫った時以外は使うなと兄から口酸っぱく言われていたことを思い出した。

ついうっかり見せてしまったが、何故だろう。この子には不思議と警戒できない。


「大体把握したわ。何故”私”を感知できたのか、何故結界を通り抜けることができたのかをね」


女の子は俺の眼前まで迫り、人差し指で俺の胸をつつく。


「ねえ」


「なんだよ」


「私をここから出してほしいの」


艶のある撫で声が頭の中で反響する。

多分、魅惑(チャーム)だろう。先生から習ったぞ。


「やだ」


「わ、私の魅惑(チャーム)が効かないの!?」


初めて見せる動揺の表情で後退りする女の子。


「残念だが君は俺のタイプではない」


「そんな訳がないわ!あなたの思う最高の美少女に見えるはずよ!」


そういうことか。どうりで俺の考えた一番の美少女とそっくりなわけか。


「・・・・・・分かったわ。あなた、実は」


しまった。俺がホモであることがバレてしまう。


「いんp」


「そうではない」


「むう・・・・・・」


女の子は口をすぼめる。


「分かった、条件付きで出してやるよ」


「え!?良いの!?条件飲む飲む!」


そう言ってぱあっと表情が明るくなる。そんなに出たかったのか。


「一つ目は君の正体を教えてほしい。二つ目は俺のタラリアについて話してほしい。三つ目は山の頂上に行ってみたい。四つ目は山から出た後に俺に稽古をつけてほしい。五つ目は外に出ても絶対に人に迷惑をかけないこと」


「け、けっこうあるわね。まあいいわ、とっとと外に出たいし」


「交渉成立だな!名乗ってなかったな、俺の名前はロー・ヘルメ。ローで良いよ」


「私の名前はヴィル。姓はないわ」


お互いの手をがっしり握る。




ーーこの口約束が後に世界を大きく動かすきっかけになるとはこの時の俺は思ってもみなかった。

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