メイン部分
オゲェッオゲェェ…
バチャバチャと水面が揺れる。トイレの水は黄土色に染まって、頭はクラクラし、口の中は酸い感じになる。最近はいつもこうだ。吐き気がする。気持ち悪い、ただただこの一生付き合っていかなければならない、水に映るこの一番嫌いな顔が。見ているだけでまた吐き気が…
ウブゥ…オゲェェッ!
跳ねた反吐によって便座カバーが少し汚れる。目の前が涙で滲んで見えにくい。
「醜い…なんでここまでして生きなきゃならないんだよ…」
腕には切り傷、首にはさっきコードできた跡がある。
死にたい
ここ数日の行動は全てここに収束する。
この吐き気もすでに数日続き、食べては吐き、飲んでは吐いていた。
ことの発端は数日前、感情の堰が決壊した日から始まる。
ある夜、唐突に涙が溢れた。嗚咽が止まらない。むしろ大きくなる一方だった。心配した親が見にくる。でも止まらない。
「ちょっと大丈夫?」
そんな言葉も耳にはその時届かなかった。ただ何かが、自分の中の何かが壊れていくのを感じた。プライド、自信、勇気、そんなものが無かったかのように崩れ消えていった。
こうなる前は学校で心をズタズタにされ続けていたから、その時でもこうなるのは目に見えていたはずだった。でも誰も気づかなかった。自分自身ですら。
そもそも、学校という環境はみんな同じように活動すると言うことを目標にしている。それは少し変わった人たちにはとてつもなく苦痛である空間を構成している。また人間はどうも、特殊な人たち、多くの人と異なる人間をいじめたり迫害するのが好きらしい。出過ぎた杭は打たれるとはよく言ったものだ。そんな状況下で自分はいじめられていた。それは大切な時期や性格をねじ曲げ、多大な苦痛を味わせ、死に至らす可能性がある行動だ。
だから感情の決壊した夜からは地獄だった。
もうそこには巨大生物などのファンタジー、ロボットなどのSF、恋愛などの夢にうつつを抜かせれるような可愛くて素直、それでもって性格の良い自分は存在しなかった。
毎日死に方を考える。学校も長期間休みことになった。何もできない無気力生活。イジメていたのはまだ子供だからこうなった責任なんて取れない。取る気すらない。取って欲しいとすら思えない。こんなこと考えても無駄。早く消えたい。そんな日々。
「もう死にたい…生きてる理由なんて…」
そんな言葉を言い尽くした。
「なんで、生まれたんだ…こんなに辛いのに。」
そんな言葉で恨み尽くした。
カーテンを閉め切った部屋で過ごしていた。光を見るとまた「生きていたい」って思う。でも辛いから、もう苦しいから「死にたい」って思い続けるために光を遮断して自分の殻の中に閉じこもっていた。
そのあと、数日後の夕方。
自分でも驚くほど無性に外に出たくなった。久々に着替えて、カバンを持ち、家を出た。
「眩しい…」
これが外に出た時の第一声だった。夕方のもう日も傾きかけの時間だったが、その時の自分には夏の朝くらいの眩しさに感じた。そして、気が向くままに歩いた。行動に不自由だった、不自由にしていた自分が久々に自由に歩いている。
「この花の花言葉はなんだろう。」
少し前までは気にしなかった事が気になった。
「この店、こんなに品揃え良かったんだ…」
いつも来ていた店がいつもより良く見えた。
「空ってこんなに綺麗だったんだ…」
俯いて歩く癖があってこんなに空を見たことは今までなかった。
「自分はこんなに色々見れるし、感じれるじゃないか…」
自分が少し好きになった。
なんて自由なんだろう。不自由だからこそ別の面で自由になれた。学校などで人の顔色ばかり伺う生活からの解放。苦しみからの解放。こうして僕は自分の意思を持ち、それを自分自身で認めれる一人の人間になれた。
その日の夜、家族と一緒にご飯を食べる事ができた。嬉しかった。楽しかった。それに吐き気に襲われなかった。
そして一日の汚れを落とし、疲れを癒す。湯船に浸かるのはとても気持ちが良かった。久々の感覚だった。そして今日あったことを思い返す。
「風呂は命の洗濯」
と言うワードが自分の好きなアニメに出てくるが、まさしくその通りだ。今日あった良い事、悪い事を思い返し心と体の汚れを落としてまた明日のために整える。
ふと、目の前が滲んだ。
今まで全然気にしなかった事がなぜこんなに美しかったのだろう。これまではなんでもない事がなぜこんなにも幸せなのだろう。家族、友達、自分。何故こんなにも大切なものを見失っていたのだろう。情けなくて、悔いて、辛くて、でも嬉しくて、楽しくて、愛しい。意味のわからない感情の塊が心の奥底から湧き上がってくる。
「そうだ、明日学校に行こう」
こんなことを湯船の中で思い、決めた。
次の日の朝。
朝起きる。朝食を食べる。学校に行く準備をする。そんな何気ない行動が自分にはとても凄いことだと思った。そして、
「行ってきます。」
全ては順調に行く。はずだったのだが、この一言の後、事件は起きた。
足が震える。動かない。それどころか涙が溢れ頭痛がする。
気持ちは晴れていても心に負った傷はそう簡単には癒されず、自分自身の体が学校に行くことをよしとしなかった。
心と体の乖離
これが自分の現実だった。
行けなかった
この事実が自分の心を酷く傷つける。
また、ダメなのか…?
そんな気落ちが自分を支配する。
その日は結局行けなかった。
次の日、やはり気持ちは前を向いても体は後ろ向きだった。
「車で学校まで送ってあげる。」
親の好意に甘えて車で学校に向かった。
緊張とストレスが自分を襲い、涙が出てくる。それを堪えつつ車に乗っている。
そして学校に着く。しかし、親が学校まで自分を送ってくれたのにもかかわらず、車から降りることができず帰ってきてしまった。
それから毎日学校に向かい、立ち止まり、崩れ落ち、戻ってくる。そんな「行けない」日々が続いた。
また、自己嫌悪から再び吐き気がしていた。そして遂に、
オゲェッオゲェェ…
また、吐いた。
「逆戻りしてしまった。」
その一言、それがどんなに重たい事か他の人はわかるだろうか?わからない人が多いと思う。
しかし、あの時と変わったところもある。
いじめていた奴らに対する感情だ。
あの頃は何も感じなかったが、この時、
「あんな奴らが消えれば良い、許さない。犯した罪の罰を受ければ良い。」
と思っていた。
そんなこと出来るはずもなかった。
傷つけられた側はずっと苦しみ、傷つけた側は何も被害を受けず、傷つけたことすら忘れていく。そんな現実のせいだ。
「目には目を、歯には歯を」
の、同害復讐法を掲げたハンムラビ法典に守られたい気分だった。
数週間経ったこの日ようやく学校入る事ができた。ここまで来るのにいろいろなものを消費してしまった。時間、精神力、体力、お金。これらは戻ってこないし、自分のせいで消費したものではない。しかし、少しでも取り戻す事すらできない。親には多大なる迷惑をかけてしまった。そればかりか、傷つくような事を山ほど言ってしまった。病んでいたとは言え言ってはいけない事を何個も言った。
「生まれなければ良かった。」
「死にたい。」
「何も考えてないくせに。」
そんな言葉を本来なら言うべきではなかった言葉達。なぜ自分はこんな言葉をなんの抵抗も持たずに言えたのだろう。これは言い訳に過ぎないが、それぐらい辛くて何も見えないような状態だったのだ。
そして、これらのお陰で自分は学校に入ると言う一歩を踏む事ができた。まだ、保健室登校で、歩数や他人すると少ないものだが、自分の精神面や成長面からすると大きな一歩だった。もしかするとこの一歩が体感的に一番大きな一歩かもしれない。
保健室登校を数ヶ月続けて、徐々にクラスに上がれるようにもなっていた。それでも過度のストレスで過呼吸になったり、倒れたり。吐くことはなくてもしんどい時は山ほどある。それでも学校には行き続けた。それが親への感謝につながると信じたからだ。そして、
※エンドは3パターンあります
エンド1 普通に出れるようになるend
エンド2 再び引きこもりそこから抜け出すend
エンド3 転校end
それぞれ違うエンドになります。是非良ければ全てお読みください。