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魔王と弓と法皇と  作者: 美音 樹ノ宮
9/11

ギルド証

~再生された英雄譚~







正装に着替えた二人はさっそく外に出た。

宿屋の中では後のことを別の人原亜種(リール)に任せるため声をかけていたリル。

彼女の慕われようはかなりの者のようで、それと比例して見える彼女の良い経営者としての顔。

会話にかかった時間は一瞬だけであったが、それでも十分すぎると言えるほど彼女の面倒見の良さがうかがえた。

そして今、その彼女と一緒に店を出た(あい)はこれでもかと深呼吸を行っているのだ。



「何してるの。」


「独特の空気だな!

 特に変なにおいもしないがいい匂いもしない、それに恐らく温室効果ガスがないおかげか、澄み渡って素晴らしい。

 こんな賑わいのある場所でも、おいしい空気なんて、感動だ!」


「変なことしないでよ。」



(ジトッとした視線を送ってくれるな、今ちょうど最高の気分なんだ。)


ようやく放たれたゲームの世界。

部屋から見ていた下の景色。

歩道とおそらく車道に分けられている石畳の道は、特に目立って凸凹しているようなこともなく、しっかりとした歩きやすい道へ舗装されている。

歩道は人が数人すれ違っても大丈夫なほどの間隔があり、逆に車道はというとこれまた珍しく一車線しか用意されていないような狭さだ。

しかし普段そこは人原亜種(リール)の歩道になっている。

この街での公共交通機関の主流と言えばもちろん馬車。

車のようなものの開発も進んでいるらしいのだがまだ初歩も初歩な段階なのだとか。

だからこそ、馬車が通るときはきちんと道を開けることを条件とした、歩道のような使われ方がされている。

そしてその上を歩く者たち。

そうそれこそが何度でも言おう心躍らせる冒険者たちだ。

フルプレートの鎧を着ているものや、ところどころに鉄を纏った軽装備なもの。

メウさんと同じようにローブに杖を持ったいかにも魔法使いらしき人原亜種(リール)の姿も見える。

そして街並みはというと、大体異世界では店先に商品を出し、店内丸ごと吹き抜けになっているような店を想像するだろう。

しかしここはしっかりとしたガラス張りの陳列窓が建設されているタイプらしく、どの店舗にも看板や出入り口の扉、そしてそこを照らす灯りがかけられていて、そのお洒落さと言っては千差万別。

細かな部分まで行き届いた作りこみ、このゲームを作った人はさぞ異世界に思い入れのある人なのだろう。

そう思いながらとある女性科学者の顔を思い出す、御古都(みこと)さんグッジョブ。

現実世界で祖母が亡くなり、一人で暮らすため引っ越しをした後のことを思い出す。

あの時の自分は、まだ見ぬ場所を散歩することが心の拠り所だった。

知らない景色を見る、それは人生と自分に絶望しかけていた(あい)に、唯一好奇心という好感情を思い出させてくれたもの。

今まさにその時のことを思い出し、さらに記憶の上書が行われている。



「やっぱりいいな、こういうの。」


「ねぇちょっと、聞いてる?」



と物思いにふけって足だけ無意識に動かしていた(あい)の元に、隣で歩く可愛らしい声が飛び込んでくる。

気が付けば大分歩いてきたみたいで、すでに『青銀(せいぎん)都宿(みやこやど)』の看板どころか、店構えも見えなくなったところまで歩いていた。

そんな場所でリルの声に立ち止まった。



「え、なに?」


「聞いてなかったでしょ。

 大丈夫?

 やっぱりまだ体調が回復しきっていないんじゃ?」


「いやいや、そこは大丈夫。

 ただ、なんかいい光景だなって。」


「そう?

 私にとっては見慣れたものだけどって、危ないわよ。」



彼女に何度心配させれば気が済むのか。

ちょっとしっかりしなければ、と思った直後に、後ろから迫る地槌種(ドワーフ)騎系族(きけいぞく)にいち早く気が付いたリルが、腕を引いてくれた。

危ないわよ、小声で言われたその声にちょっとドキッとした。



「あぁ、ありがと。

 それで、何の話だっけ。」


「よく聞いておいてね。

 あなたの、絲璃(いとり) (あい)って名前、私は元から知ってたから、なんとも思っていないけど。

 こっちの人原亜種(リール)からすればわからない文字だから。

 あなたは今後イトリ アイとして行動して。」


「要するに、漢字を使うなってこと?」


「か、漢字、ってなに。」


「あぁいや、気にしないでくれ。」



そこまでの話を聞いて、改めて違和感を感じたアイは視線を辺りに巡らせる。

看板に書かれている文字、それは今まで普通に読めていたから特に気にしていなかったが、明らかに日本語でもカタカナでもひらがなでもない文字であったことに今気が付いた。

そして自分が喋っている言葉が、日本語ではないことも。

...しかし話がややこしくなるうえ、面倒くさかったので特に口にすることなく、「すごッ」と感嘆の声を漏らしてリルとの会話を続ける。



「そう。

 それとこれ、受け取って。」


「なんだこれ、布袋?」


「その中に500ヴェールが入ってる。

 それ、ギルド証をもらう時のお金だからなくさないように持ってて。」



そう言って手渡された肌触りのいい布の袋。

ほぼ道中財布のようなそれは、持っているだけで(さむらい)の精神が芽生えるような心地の良いもので、その中にしっかりと重みのある物を感じる。

それが恐らくヴェールと呼ばれるもので、法定通貨になっているものだろう。

しっかりと受け取ったアイは、教えてもらった通りそれを内ポケットに入れ、盗難に細心の注意を払った。

様子を見ていたリルもそれに頷き頬を緩めた。



「そういえば、ギルドって言った?」


「...そこも聞いていなかったの?

 今から冒険者ギルドに行くの。

 そこであなたのギルド証を作るわ。」


「へぇ冒険者ギルドか。」


「変な気は起こさないでよ。

 冒険者のギルドなだけあって、多少なりとも危ない場所なんだから。」



信用していないとばかりにまたもやジト目を向けてくるリル。



「いやいや、特に目立つようなことは何もしないって。

 それよりギルドとギルド証って方に興味がある。」


「本当に?

 ...まぁ大丈夫だとは思うけど。

 それとギルド証は簡単に言うと身分を証明するものよ。

 そして冒険者ギルドの主な役割は、他国のギルド同士で締結してそのギルド証を通して入国者が信用にたる人物か判断することと、冒険者に仕事を提供すること。

 私もこれから一緒にギルド証をもらいに行くわ。」


「ん、持ってないのか?

 よく『青銀(せいぎん)都宿(みやこやど)』なんか経営できるな。

 身分証明必要だろ?」



説明にさらに疑問を飛ばすアイ。

それを受け取ってコホンと可愛らしい咳ばらいをするリル。

彼女の口から次に聞いたものは、彼女のまだ知らない内情であった。


「あの宿屋は、私の家系の仕事場なの。

 親から受け継いだという事、ちなみに私は4代目よ。

 それに必要な身分証明は、親のこともあるし、そもそもそれがいらないくらいに有名店なんだからね、一応。」


「まぁ有名店なことに関しては疑いようもない。

 俺も忙しい店で長年働いた経験があるが、それを優に超えていた、恐れ入るよ。」


「まぁそれでも、あなたが目を覚ました今、私も宿屋を経営している理由なんてなくなったし、一緒に冒険者になるためにギルド証が必要なのよ。」


「へぇそっかちょっと待て今なんて言った。」



有難いリル本人のことを知れたと同時にとんでもない爆弾発言が聞こえた気がして、息つく間もなく問いただすアイ。

そんな彼にクスッと笑ってリルは言葉をつづけた。



「私の家系の仕事場だって言ったでしょ?

 そしてあなたが長年眠っていた場所でもある。」


「つまり、そういう事?」


「うん!

 そうよ。」



代々伝わる何かしらが関与していることはわかった。

それでも今自分が踏み込んではいけないことなのだろう。

それは早々にこの話を切り上げ、その真意については教えてくれなかったリルの行動自体が物語っているも同然だ。

まだ少しだけ壁がある。

一体それは踏み越えてはいけないものなのだろうか、今のアイにはわからない。

ただ、それを答える前にクスッと笑った彼女の笑顔が、妙に脳裏に引っかかっ―――――



「ま、いっか。

 んで、ギルドってどこにあるんだ?」



るわけもなく、右から左へと抜けていった。

これがリアルであるのなら、そこに対して言及することで、事情を知れても最悪今後の関係に傷が入ることもあるだろうが、残念なことにこれはゲーム。

自由度が高いと言っても、行きつく先はどうせ同じなのだ。

それがわかっているアイは、自分でも不思議に思うくらい能天気で今を過ごしている。

しかしこれも悪くない。

今考えうるすべての可能性を考慮しても、隣で笑っているリルの無駄にした時間は戻ってこないし、その大変さをわかってやれそうもない。

せめて恩返しをするならば、そう考えてはとりあえず彼女を笑わせることにしようと、アイなりに男らしいことを考えているようだった。



「もう少しでつくわ。

 正直、私もワクワクしてるの!」



そうこういう可愛らしい顔だ。

リルの笑顔に笑みを返す。

こういう時間が一番楽しい、それは現世でもゲームの中でも変わりないようだ。








それから数分間か歩き続け、様々な種族の人原亜種(リール)達に出くわしながら、ようやく目的地に到着した。

そしてその光景を見たアイは目を見開いた。



「す、すげぇ...。」



そうそこにあったのは神殿。

のように聳え立つ立派な建造物だ。

大通りを進んでその先にある中心街と呼ばれる場所、そのさらに中心部にそれは存在し、大理石のような柱が何本も立ち、その奥にこれまた同じ材質で作られたようなギルド本部が見える。

もっとこじんまりとしたものを想定していたアイは、その光景に興奮を通り越し恐怖すら感じ、感嘆の声を漏らした。

さらにこの場所もセンスがある。

ギルド本部から目の前を飾る中心街のランドマークである大きな噴水と、それを囲むかなりの広さがある水のたまり場。

そこからのびるのは王都中を駆け巡っているであろう複雑な構造の水路。

それも一切汚れている様子がなく、どういう原理か美しい水が流れ、辺りを外面的にも内心的にも涼しく感じさせてくれていた。

そしてそれらを丸く切り取っているような他の建築物の配置。

聞いたところによると、緊急集会や避難などが行われる際は、ここが安全地帯となることが多いらしい。

事実これほどまで他の建築物との距離も空いていて、舗装された道に目の前には何より頑丈なギルド本部があると来た。

冒険者もたくさん中にいることは間違いないし、助けを求めるならこういう頑丈な建造物に何より心の安らぎを感じるのは当たり前だろう。

それと、ここにもきちんと車道らしき場所も存在しているのだが、案の定人原亜種(リール)達の歩道になっていることは言いようもない。

そんな場所を多種族が行き来する。

人原亜種(リール)でごった返しているというわけではないが、それなりに往来も多い。

さらにここから見えるだけでも屋台のような感じのお店が多いから食べ歩きしている者も、彼らにつられて運ばれるいい匂いも充満している。



「ふふ、アイってほんと、新鮮よね。」


「何が?」


「ここまで思ったことが顔に出る人、連れて歩くの私まで楽しくなっちゃうよ。」


「ならそれはよかった。

 なぁ、なんでここの水ってこんなにきれいなんだ?」


「ん、それはね、あれよ。」



そう言ってリルが指をさしたのはところどころに点在する回収ボックスのようなもの。

表現は悪いが、ゴミ箱と言ってもいいだろう。

しかし汚れた外見を一切浮かべておらず汚いという印象もない、新品同然でさらに景観を損なわないよう配慮されたお洒落なデザインのそれが数多く存在していた。



「この街では不法投棄は重罪になっているの。

 だからこうやってたくさんの処理ボックスをおいて、そこら中に投棄物が散乱しないようにしてるってわけ。

 その延長線上で水も汚れない。

 水生の人原亜種(リール)も多いからね、水が汚れたらそれはもうこの街の終わりを意味しているって王様が言うくらいなんだから。」


「徹底されてるな。

 まぁそっちの方が良好な共存関係を気付けるってわけだ。

 日本国もこういうことしたらよかったのにな。」


「日本国?」


「ああいやいや、気にしないでくれ。

 それじゃ、早速ギルドに顔出しに行きますか。」


「そうね、行きましょ。」



昨日、メウとドールと話た段階ではこんな話聞いていなかった。

しばらくはリルと一緒に行動しておかなければ簡単に捕まってしまうこと念頭に置いて、二人はさっそくギルド本部へと足を運んだ。







「あの、ギルド証の登録に来たのですが。」


「はい、こちらでお伺いいたします。

 少々お待ちください。」


「お願いします。」



中に入ってまず目の前に見える受付へと足を運ぶ。

アイの中でのギルドのイメージ。

それは木質の床に柱、机に椅子などの家具が並び、そこに座るは気難しそうな冒険者たち。

端っこの壁にはたくさんの依頼書が掲載され、もう少し薄暗く、独特の匂いがするような場所だと思っていた。

しかし現実はどう...いや現実ではないのだがここはどうだ。

ギルド受付の人は、イメージ通り可愛らしい人類種(ヒューマン)の女性で荒くれ物の冒険者たちの姿もちらほら見えていることはイメージ通り。

だが、それ以上にしっかりとした冒険者の数も多く、また内装も外装に似通った大理石かの如く美しい素材で作られており、暗いイメージもなければめちゃくちゃいい匂いがするではないか。



「これがギルドなんだな。」


「そうね、私もちょっと驚いたわ。」


「なんだ、ここに来るのも初めてだったのか。

 それはそうともっとこう、なんだ。

 はっきり言って小汚い感じかと思っていたんだが。」


「まぁそういったギルドもあることはあるけどね、この王都にも。

 此処は冒険者ギルド、その本部だからね。」


「なるほど。」


「それにしてもいい匂いね。」


「リルもそう思うか?」


「えぇまぁ―――――」


「お待たせいたしました。」



とたわいもない会話に突如メスが入る。

先程の受付の人が奥の部屋に入った後、短剣のようなものをこしらえて戻ってきた。

その人からすぐに記入用紙のようなものと、黒のインク、羽ペンが二つずつ渡され、記入を促される。

立った状態でへそくらいの高さにあるその受付台を少々拝借、リルと隣同士で見せ合いながら記入をしていく。



「わかってるわね、言った通り、イトリ アイで書き込んで。」


「わかってるよ...。

 なぁこれ別の名前で書き込んでもいいのか?」


「いいわけないでしょ、身分証明なんだから。」


「あぁそうだったそうだった。

 イトリ アイっと...あーこれ出身地ってどうしよう。」


「んー、その項目があるのは知らなかった...。

 仕方ない、事実を書けばいいわよ。

 この世界は広いし、どの大陸にどの名前の地があるかなんて把握しきれないもの。」


「それはこの世界の言葉で書いた方がいいか?」


「...よくわかんないけどそれがいいわ。

 あと、は、大丈夫そうね。」



傍から見ればもうカップル。


(なんかこういう何でもないような会話を小声でしてるのって良いな。)


そんなことを思ったアイもすぐさまこれがゲームであることを思い出して心改める。

これくらい自由度もあって、人原亜種(リール)の肌感やにおい、設定もしっかりしていてその場その場で変わる自分以外のキャラクターの言葉。

本気でこれが現実ではないのか、と今の今まで勘違いしてしまうほどに進歩した技術。

それはもう単純に感動的でしかなかった。

そして手の動きを止めず、情報を細かに記載。

住所なんかは『青銀(せいぎん)都宿(みやこやど)』をそのまま借りたりなんかして、ものの数分で二人とも書き終えることができた。



「はい、できました。」


「確認いたします。

 えっと―――――、はい記入漏れはなさそうです。

 それでは、こちらの小刀を使って血印をお願いします。」


「はい、わかりました。」


「え、分かりましたの?」


「ん、どうしたの?」



とそこで先程、奥の部屋から持ってきたであろう短刀を職員から渡され、さらッとそれを受け取ったリルは了解の返事と同時に何の躊躇もなくスッと指先を切って血を出した。

その光景を引き気味に見ていたアイに不思議そうな目を向けて、先ほどの用紙の定位置に血のついた指を押し当てている。



「け、血印って、そゆことだよな。」


「どうしたのよ、ほら。」


「いやいやいや、え、大丈夫なの?」


「大丈夫よ、治癒魔法が付与されているし、感染症のリスクなんてものもないわ。

 切ったって痛みを感じる間もなく回復するし、指先くらいどうってことないでしょ。」


「へ、へぇ。」



強気なリルの言葉に、出す声が震える。

そういうものなのか、と意気込んではみても、いざ自傷行為をするとなれば勇気以上に何かが必要な気がする。

差し出された短刀を、つかまずにおろおろとしているアイ。

体感そんなに時間をかけた覚えはない。

しかし痺れを切らしたとばかりに差し出した短剣を鞘から抜き取り、リルが空をそれで一振り―――――



「ほれ。」


「へッ―――――」


「ほら、速く血印。」


「―――――...」


「っもう、情けないな。

 別に痛くもなんともないでしょ?」



何とも強気な彼女。

空を切っていたと思ったそのナイフさばきは、綺麗に差し出したアイの中指の先を通り過ぎ、血を出させる。

この異世界住人の見切りというのか、距離感完璧なまでの一閃を食らったアイは何が起こったのか理解できず、そのまま呆然と立ち尽くす。

その様子を見たリルが台に乗せられた用紙を拾って定位置に来るよう差し出した中指に押し当て見事血印完了。

何の気なしにそれをギルド職員に渡し、「受理します。」とこれまたアイの関与しないところで話がどんどん進んでいった。



「...って!

 なにすんじゃてめぇ!!!」


「痛くないって言ったでしょ?

 そんなんでどうするの。

 冒険に出たら、最悪死んだ方がましだと思えるような傷をもらう事だってあるのよ?」


「そ、そりゃそうだけど。

 ...まぁ助かったよ、自分でやるよりはいい。」


「え...他人に傷つけられる方がいいの...まじ?」


「いやまぁ、どっちかというと...なんか変なこと言ったか?」



と続く会話にて、リルの中でのアイの評価がMに変更されたところで、早々にギルド職員が戻ってきた。



「はい、確認いたしました。

 では登録費用の500ヴェールをいただきます。」


「はい、これで。」


「...受け堪ります。

 ではこちらをどうぞ。」



二人でギルド職員に500ヴェールを渡す。

そして彼女から棒状の装飾が付いたネックレスを渡された。

早速首に着けてから、再度職員からの説明を聞くことにする。



「それがギルド証になります。

 申し遅れました、私冒険者ギルド本部、受付のペティア・レルベラと申します。」



そう言って頭を下げるペティアさん。

ギルド本部の職員は、これでもかと精鋭揃いなのかその作法一つ一つを取っても美しく、またペティアさん自身の美貌も相まって感動の域に達する眩しさを放っていた。



「では続けて、説明をさせて頂きます。

 そのギルド証は無くさないよう、どうか常に首から下げての管理をお願いいたします。

 他国へ入国なさる際は、忘れないよう必ず持参していただくこと、また必要情報などは他に多数ございますが、それが貸金庫を開ける際に最も重要になる証となりますので、それも覚えておいてください。

 紛失してしまった場合、さらに破損してしまった場合は、再度ギルドで手続きの上、再発行となります。

 ですが時間とそれなりの費用が掛かってしまいますので、管理は徹底しておいてください。

 それと、紛失された際はいち早くギルド本部へお越しいただき、ギルド証の扱い中断の手続きを即刻行うことをお勧めしています、ご協力お願いします。

 次に、ギルド証本体の説明に移ります。

 他国へ入国する際は、外壁門にて配備されているギルド職員にこのギルド証を手渡し、その場所で本人確認をさせて頂きます。

 ちなみに入国不可能者は、多数犯罪歴のある者や、直近で大事件に関与している者など主に犯罪関係者に該当いたします。

 一度でも犯罪に関与してしまっている場合、許可が下りない国などもありますのでご注意ください。

 そういうことが知りたい場合は隣の窓口へ。

 あと、冒険者稼業にてわからないことや不安に思うことなども隣の窓口で相談に乗らせていただきますので、何卒よろしくお願いします。

 それと、ギルド証にて判明することは犯罪歴、職業、名前、出身地に現住所になります。

 その他個人情報は見られる心配がありませんので、安心してください。

 では説明は以上になります。

 何か不明な点はございますか?」


「いえ、大丈夫です。」


「わかりました。

 ではギルド証認証はこれにて終了です。

 またお困りのことがございましたら、隣の相談窓口の方へお越しください。」


「ありがとうございました。

 じゃ、行こっか!」


「え、うん。

 ありがとうございました。」



「またのお越しを~」と決まったあいさつで見送られたアイは、お礼と手を振る姿を残してリルに連れられギルド本部を立ち去った。

念願のギルド証。

もっとカードみたいな感じとかかと思ったら、想像以上に小さいものを渡されて少々驚いてはいる。

こういうところは元世よりも便利だというのは、流石は魔法の力というものか。

そして先程の短剣に付与されているという治癒魔法。

いざ目にしたことでより安心感と興奮が沸き立つその魔法という存在に、少々浮かれつつも、言われた通りネックレスとして首にギルド証を掛け、紛失しないよう注意してリルの後を追った。


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