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魔王と弓と法皇と  作者: 美音 樹ノ宮
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今後の方進か

~再生された英雄譚~







ギルド本部から出て、また目の前の噴水の近くまでやってきた。

冒険者ギルド内よりも涼しくなったのを肌で感じつつ、前を歩くリルの後ろをついて歩くアイ。

先ほどもらったギルド証は何ともデザイン性がよく、長方形の小さめなワンポイントの鉄の塊がぶら下がったネックレスになっている。

それを首から下げてやれば、アクセサリーとしての役割も兼ねてくれた。

すれ違う冒険者たちに目を凝らして見ても、皆がそれをかけているようでうなじ辺りにシルバーの鎖が見えていたことに気が付いた。

辺りをきょろきょろと見渡しつつ、次の目的地へ急ぐリル、にその目的地とやらがどこなのかを尋ねるため口を開く。



「それで、次はどこに行くんだ?」


「そうね...武器と防具どっちがいい?」


「んー!

 そうだなぁ、迷うなぁ!」


「あからさまに嬉しそうね。

 じゃあ武器からにしましょうか。」


「了解。

 で、この世界での武器ってどんな感じのものなんだ?」



どちらかと言えばどちらともいえない、そう答えてしまいそうなほど長考の兆しを見せていたアイに変わって、即座に武器屋へと行くよう決定したリル。

それを聞いて相変わらず嬉しそうな顔をするアイの笑顔に微笑み返したのは無意識だろう。



「いっぱいあるわよ。

 大まかなものだと刃物や鈍器、杖に...あとは弓かしら。

 何か経験ないの?」


「ん、弓か。」



この世界の武器、その中で弓と聞いた瞬間、アイの中でとある記憶が思い起こされる。

それは未だ(あい)が学生だった時の話。

部活動で仲のいい連中と一緒に、弓を引いていた時のことだ。



「少しなら経験あるな。」


「弓、ね。

 珍しいものを選ぶのね、難しいわよ。」


「え、お前からその言葉を聞くとは思わなかった。」


「どういう意味よ。」


森召種(エルフ)って言えば魔術と弓じゃないのか?」


「どこの世界線の話よ。

 そんな装備で、生き残れるわけないじゃない。

 弓ってのは、遠距離職だって言われがちだけど、実際は援護職なの。

 それに、それ相応の補助が付いた杖を持っていなければ、魔術に長けている種族だとしてもすぐに魔力が枯渇するし、効果も薄れてしまうものよ。

 バランスの悪い武器構成は、そのまま身を亡ぼすことに繋がるわ。

 確かに森召種(エルフ)は魔術に長けた種族だって言われているけど、それなら剣をもって魔法剣士として戦った方が喜ばれるし生き残れる可能性も高い。

 あと魔法射手なんて聞いたことないし。」


「そういうもんなのか。」



しっかりとご教授願ったところ申し訳ないけど、それを話半分に聞いてからゲームなら必ず直面する疑問を解消しておくことにした。



「装備の枠って決まっているのか?

 例えば、両手剣とか、剣と盾とか。」


「え?

 特にないわよ。

 遠くに行くのにサポーターを呼んで、その子に剣やら杖やら持たせて戦闘中に持ち換える冒険者もいるし。

 まぁ制限って言うなら腕が二本っていうことくらいかしら。」


「へぇ、そうか...」



特に制限がないと来た。

それなら、今しがた聞いたちょうどいい名前と、自分なりに欠点を考慮した構成の武器にしようと、ボソっとその職業の名を口にする。



「魔法射手、いいなそれ。」


「...話聞いてなかったの?」



何度目かのジト目。

しかし未だに可愛いなって思えるのは生まれ持っての特権だと思う、誇っていいぞ。



「いやぁ、それなりに考えはあるさ。

 よし早速武器屋に向かいながらその素晴らしい構成とやらを話してやろう。」



水を得た魚かのように今後の展開をウキウキしながら考察し、その素晴らしいアイデアとやらに花を咲かせるアイ。

自分でもこういうことがしてみたかったんだと。

日本国にいた時にしてたゲームについては、不満はなかったにしろ、希望はあった。

プログラムの制作上、仕方のないことだとは思っていたが、それでも必ずどこかしらで湧くその勿体無さ。

それが今取り払われたかのように広がったこの世界では、自分のしたかったことがお構いなしにできてしまうこの達成感。

このゲームを作った制作者の顔が見てみたい。

そうして思い出すのは一人の女性科学者の顔。

そう何度だって言おう、「ありがとう、御古都(みこと)さん。」

最後のはきちんと声に出しながらお礼を告げ、早速歩き出したアイの後ろをテクテクとついてくるリル。



「それで、素晴らしい構成ってなによ。」


「まず、この役職については弓使いプラス魔術士(まじゅつし)として、弓術士となずけよう。」


「安直ね。」


「う、うるさいな。

 まぁ弓使いにおいて欠点となるのはどこだ?」


「ん、そりゃ火力と近距離戦でしょう。」


「そそ、だからこそ、メイン武器を弓として、少し短めの剣をサブ武器として持っておく。

 いうなればメイン職が弓術士、そして近距離になれば魔法剣士としてジョブチェンジできるってわけだ。」



これは言い考えであろう。

そう思って口にしたアイの作戦を、なぜかバカにしたような声音を含め納得するリル。


「それはいい考えね。

 で、ちなみにこの王都での剣の長さって長剣、短剣、大剣と三種類しかないんだけど、どれを持つつもりなの?」


「え、それだけ?

 んーじゃあ、短剣かなぁ。」


「それだと、魔法剣士というよりはサポーターの役割になるわね。

 短剣と弱魔法の使い手、マッピングや状況把握からの指令に、メインアタッカーへの支援と武器交換のため多数の武器を所持して歩く。

 出来そう?」


「え、んー。

 難しいかなぁ。」


「あと、私は魔法剣士、あなたが弓術士とやらで。

 魔法使い以外の魔術に関しては主に攻撃系ではなく、支援系。

 つまり物理攻撃に耐性のある妖原亜種(リュール)に出会ったときは誰が倒すことになるの?」


「え、んー。

 ...いじめないでくれよ。」


「全く、考えもなしに動かれると、私も一緒に死んじゃうわ。」



と完璧とまで思われた弓術士としての将来を簡単に論破されてしまったアイは、笑うリルにいじめられてしまった。

クスクスと口元を抑え、次には呆れかえったようにため息をつく。

この娘は感情が豊かというのか、ただ単にSなのか...。



「あ、じゃあ魔法職の冒険者とパーティーを組めばいいじゃんか!」


「え゛っ!?」



とそこで、リルの困惑したような驚いたような複雑な感情のこもった声音を初めて聞いたアイ。



「いやー、そんな初歩的なことを忘れるだなんて、全く情けないぞ、俺。」


「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ。」



ものすごい形相で顔を近づけてくるリル。

今度はアイが驚く番でその近さに少し後ろに下がりながら対応を続ける。



「え、うん。

 どうしたんだよ。」


「その、他の冒険者と一緒に行動するの?」



何となく形勢逆転したのは気のせいか?

いじめている側といじめられている側、それが今の一瞬で覆ったことに関して、アイはいくつかの疑問を浮かべながら改めてリルに向き合った。



「ふ、二人っきりじゃなくて?」


「ん、二人っきりがよかったのか。」


「...いや、別にそんなことはないんだけど全くないんだけど。

 他の冒険者って信用できないっていうか、まだアイと二人での冒険もしたことないし、慣れるまでは...みたいな。」



どんどん声が小さくなっているリル。

しかし今が攻め時だ、とは思えなかったアイは、彼女の言うことも考慮して、初心者が経験者に交じって笑われる姿や足を引っ張る姿を想像して、ここは彼女の言うことを立てておこうかと思った。



「あー、それもそうだな。

 とりあえずは二人で行動して、冒険者を募るのは慣れてからでいっか。」


「うん、それがいいよ。

 そうしよ、そうしよ。

 (...はぁ、よかった。)」


最後の小声はアイには届かない。

可愛らしく漏らした息は完全な安心感からであろう。

意識していなくとも、二人きりという言葉に笑みを浮かべてしまっているのは今度はリルにはわからないことだった。


「でも、困ったなぁ。

 弓術士、絶対かっこいいと思ったんだけど。」


「まだあきらめてなかったんだ。」



と、順調に思えた冒険者への道。

その最初も最初、冒険に出る前の自分の役割を決める段階で立ち止まってしまったアイ。

実際はこういうところで意見の食い違いが起こり解散するパーティも存在しているみたいだ。

そのことをリルから聞いて、改めてゲームの世界でのリアルな制限について知ったアイは、大きめのため息をこぼすのだった。







「それで、どこに向かってるのよ。」



そんな声が聞こえてきたのは噴水からかなり移動を始めた街の中。

その道は唯一アイにとっても見覚えのある通りで、『青銀(せいぎん)都宿(みやこやど)』のある通りであった。

武器屋に行く、そう言って歩き始めたアイの後をただただ追うリルは、その景色を見ながらほんの少しの胸騒ぎを覚えながらも大人しくついていっている。



「いやぁ、初めての武器は買うところを決めてるんだよ。」



自信満々に答えるアイの言葉によって、さらに胸騒ぎが大きくなるリルは、すでに顔を青ざめさせていた。



「今朝のこと、見てたんだろ?

 ドールとメウって人原亜種(リール)の事。

 あの二人に、最初の武器はその店でって約束しててさ―――――」


「ッちょっと待って!?

 『炎竈(えんそう)の鍛冶屋』の話してる?」



今朝の事とはあの地槌種(ドワーフ)単瞳種(ナーフアイ)の方たちについてだ。

そして恐らくそれを見ていたであろうリルが、すごい形相で問い詰めてくる。

多分店名なのだろうが、聞いていない者は仕方ない。



「え、隣だって言ってたけど。」


「あそこ、すっごい高級店なんだよ?

 それこそ王城の騎士隊の人たちが好んで買いに来るようなところなのに。」



とそこまで言われ、流石に納得。

王城の騎士隊とやらがどれほどのものなのかわからないが、何となくで高級さは想像できた。

まさかそんなこととは思いもしなかったアイも、いったい自分のどこにそんな自信があったのか、今更無一文のことを思い出しながらあたふたし、リルに返答する。


「え...ま、まぁ。

 見に行くだけ行くってのは?」


「お金ならあるから大丈夫だけど...。

 いい、先に言っておくわよ?」



そこで何をためたのか、少し考える様子を見せて真面目な顔で大事なことを言いそうな雰囲気を醸し出すリル。

「これはお店に来た冒険者の人たちに聞いた話なんだけど...」という喋り出しで、その内容を語った。



「いきなり高級で高品質な武器から冒険を始めると、命を落としやすいってのは冒険者の間では常識らしいわ。

 そしてそういった初心者を見つけたら、経験者がやることは三つ。

 きちんと教えてあげるか、教えずに痛い目を見させるか、最後は奪い取るか。

 で、大体そういう奴って偉族(いぞく)のボンボンが身に着けたりするから、選択肢としては二番が妥当らしいの。

 だから、最初は身の丈に合ったのを装備する方がいいって聞いたわ。」


「まぁわからんでもないが、その偉族(いぞく)ってのは?」


「貴族、帝族、華族、王族、皇族とかのことよ。

 意地っ張りのお偉いさんたちの事。」


「お偉い家族の事ね。

 それはおいておいて、どうしようか。

 約束してしまったしなぁ。」


「まぁあの二人だったら私も仲良しだし、修理とかもすぐに任せられるから好物件なんだけど...。」


「気を付けながら戦えば平気じゃないか?

 それにリルはもうすでに冒険者みたいなことしてるし。」



何とか意見が落ち着きつつあるところで、アイはリルの腰のレイピアを指してそう告げた。



「これは護身用よ。

 ...まぁ経験がないわけではないけれど。」


「ほら大丈夫じゃん。

 僕が気を付けていればいいんだろ。

 任せとけ、なるようになるさ。」


「大丈夫かしら...うん、それもそうね。」



結構無神経だったかとも思ったが、アイの能天気な返しに帰ってきたのは一人何かを呟くリルの聞き取れない返事だけ。

そして何かを決めたかのようにうなずくと、今度はアイに対しての好条件を叩きつけてくる。



「お金のことは気にしないで。

 ほしいものがあるなら何でも買ってあげる。」


「お、本当か!

 って、ヒモみたいだな...

 いつかお金は返すよ。」


「いえ、いらないわ。

 その代わり...私達を守ってね。」


「ん?

 あぁ任せとけ?」



やる気満々でも漢として恥ずかしいところは見せるわけにはいかない。

そして何やら意味深な言葉をもらったことに疑問を抱きながらもとりあえず肯定しておく。

それを見て嬉しそうにはにかんで頷くリルは、本当に表情がコロコロ変わるなと、改めて可愛らしくも面白く思ったアイ。


(ま、これもどうせゲームだ。

 オートセーブくらいかかってるだろうし、死んだらそこからやり直せばいい。)


あくまで能天気なアイは頼もしそうに見せていても心の中ではそんなことを考えていて、そうともなれば先程の疑問は既に忘れ去られていた。

そして二人で『炎竈(えんそう)の鍛冶屋』へと向かって再度歩き始める。

もうすでに、『青銀(せいぎん)都宿(みやこやど)』の看板までは見えていた。

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