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第27話 始まる文化祭

 翌朝。

 文芸部の部室で起床し、身支度を整えた後。

 俺は教室で、クラスの出し物であるコスプレクレープ喫茶の準備をしていた。


「あ、わたる~」


 男子を中心にテーブルや飾り付けを配置していく中、接客担当の女子は、仕切りの向こう側にあるバックヤードで衣装に着替えていたのだが……どうやら終わったらしい。

 バックヤードから出てきた陽奈希ひなきが、呼びかけてきた。


「まずはこれを着てみたんだけど……どうかな?」


 陽奈希の衣装は、大正ロマンが漂う感じの和装だ。

 特に印象的なのは、銀髪をかんざしで飾り付けているところだろうか。

 和と洋のハイブリッドみたいな感じがして新鮮だけど、見事につけこなしている。


「わたしとしては、けっこう自信あったりするんだけど……」


 両袖をつまみ上げながら見せびらかしてくる陽奈希の仕草は、正直言って。


「めちゃくちゃかわいいと思うぞ」

「うぇっ……!? そ、そうかな?」


 ……魅力的すぎて、つい沙空乃みたいな発言をしてしまった。

 自信があると言っていた陽奈希も、流石に動揺している。

 けど、俺にはそれくらい衝撃的だった。

 陽奈希の書類仕事を補佐したり、陽奈希のクレープ食べ歩きに連れ回されてきた経験からキッチンの責任者に任命されてしまったりと忙しかったせいで、どんな衣装を着るのか今日まで知らなかったんだから。


「えへへ。わたしも一番お気に入りだったから、最初はこれにしたんだ」

 

 最初は俺のストレートすぎる発言に戸惑いの表情をしていた陽奈希だったが、すぐに照れ笑いに変わった。


「最初は……ってことは他にも衣装を用意してるのか?」

「うん、メイド喫茶と違ってコスプレ喫茶はその辺の自由度が高いからね。せっかくかわいい衣装が着れる機会だから、一つだけじゃもったいないと思って!」

「なるほど……それなら沙空乃さくのも喜びそうだな。金払うから好みの衣装に着替えてくれ、とか言い出されたら流石に厄介だけど」

「あ、う、うん……そうだね……」


 冗談半分だった俺の言葉に、陽奈希は微妙に浮かない顔をした。

 双子の姉を小馬鹿にされたと感じて怒っている……とかではなさそうだけど。

 何か、様子がおかしいような――


「おいおい~! 二人とも、朝っぱらから皆の前でのろけすぎじゃね~?」


 陽キャの常陸ひたちが、いきなり肩を叩きながら、冷やかしに来た。


「……って、別れたんだったか」


 が、すぐに気まずそうな顔をする。

 するとその隣にいたもう一人の陽キャ、塔柴とうしばが疑問を唱えた。


「でもさ。だったらなんでこの二人は、教室のど真ん中でイチャイチャした雰囲気を漂わせてたんだ……?」

「どんな雰囲気だ、大袈裟に盛るなよ」

「今の伊賀崎いがさきと委員長みたいな雰囲気だから、盛ってないから」


 俺がツッコむと、真顔で言い返された。

 いちゃいちゃって、そんなあからさまな感じ出してたか……?


「ま、なんでもいいけどさ。そろそろ文化祭始まる時間だし……その前にいっちょ、委員長から盛り上がって気合い入る一言よろしく!」


 元々そっちが目的だったのか、常陸はすぐに話しを切り替えて、陽奈希に無茶振りした。

 

「え、ええっ!?」


 委員長として人前に立つことに慣れている陽奈希も、少し困惑気味だ。

 クラスメイトたちの視線が、陽奈希に集まり始める。

 女子たちもコスプレ衣装に着替えてバックヤードから出てきたところだったので、音頭を取るには良いタイミングだった。


「じゃあ、こほん……」


 陽奈希もそのことを理解したのか、やる気になったようだ。

 クラスの皆が陽奈希の方に耳を傾ける。


「今日から二日間、美味しいクレープをいっぱい食べられる夢のようなお店をやっていくわけだけど……皆が楽しめるように全力で頑張るから、皆も一緒に頑張ってくれると嬉しいです!」


 陽奈希がぐっ、と小さく握り拳を作りながら高らかに言うと、教室内が「おおーっ!」と気合いの入った声で溢れ返る。

 少しして、掛け声が収まったところで。


「あ、でも……食材を全部使い切ると、わたしが食べるクレープがなくなっちゃうから……程々にしてくれると嬉しいかも……?」


 陽奈希がぽつりと、そんな本音を漏らした。


「ははは!」

「陽奈希ってば、ほんとクレープ大好きだよねー」

「しっかりしてくれよ委員長ー!」


 すると盛り上がっていた教室内の空気が、程よく緩み、笑いに包まれる。


「む、むぅ……」


 皆から笑われて、陽奈希は照れ半分、拗ね半分みたいな顔をする。

 そんな様子を、隣から生暖かい目で見守っていると。


「あ……」


 ちらりとこっちを見てきた陽奈希と、目が合った。


「…………」


 すぐに目を逸らし、そのまま無言で恥ずかしそうにしていた陽奈希だったが。

 やがて気を取り直したように微笑を浮かべると、またこちらを見て。


「いつも通り、君のこと頼りにしてるから……よろしくね?」 


 ぎゅっと俺の手を握りしめながら、上目遣いで目配せしてきた。

 

「お、おう……」


 相変わらずめちゃくちゃかわいい仕草で、首を縦に振るしかなかった。

いつもありがとうございます!

お陰さまで1000ブクマ到達しました!

これからもどんどん伸ばしていきたいので応援よろしくお願いします。

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