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秘められた紅い血  作者: 志野実
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四、そして、ユキさんの涙

 しばらくして私が泣き疲れ、大人しくなったのを見ると、ユキさんが言った。


「まずは、……何より食べ物のことを考えなければ。アリーチェも手伝って」


 立ち上がり、周囲の建物や植物を調べ始める。

 放心状態でボソボソと会話していた他の人たちも、ユキさんのそばにだんだんと集まってきた。


「何やってんだ?」


 虚ろな目で聞く男たちに、ユキさんは気丈に言った。


「食事よ、食事。私には何がどうなっているかわからないけど、このまま黙っていればみんなで仲良く餓死でしょ。状況を考えつつ、食べれるものを探すの。とりあえず考えるのは後回し。……怪我をしている人はいる?」

 


 そこから少しずつ、皆の協力が始まった。

 

 この状況がさっぱりわからないながらも、さらに最悪の事態を避けるために。


 水と食べ物を探し、壊れかけた田舎家をできるだけ修理し、怪我人の手当てをし……。皆、無我夢中で働いた。


 日が過ぎるにつれ、各々の能力に応じて、狩りに行ったりする者も出てきた。


 力仕事が出来ない人々は、冬に向けての衣類に代わりそうなものを考えたり……田舎家の中にあるものから、ここがどこなのか知る術はないか、探したりした。


 田舎家が大きい作りだったので、女性と男性の寝室を分け、なんとかベッドらしき物を作ることもできた。


 一旦この状況に慣れてしまうと、ユキさんを手伝って食材を見つけたり料理をしたり、店番をしたりする生活も、何だか妙に楽しくなってきた。

 楽しくなってきた、というよりは、皆とのいい関係が築かれていくうち、悲しみをやり過ごしやすくなってきたのかもしれない。


 夜は皆で集まって、話をするのが日課になった。

 まるで大きな家族のように、お互いにいたわりあう空気ができて。


 食べられるもの、食べられないもの、誰かが見つけたもの、気がついたこと、などなどを報告し合う。

 私はみんなの会話をユキさんに簡単な単語で言い直してあげたり、ということもした。

 

 些細なことだけれど、何かの役に立っていると思えるのが、しょっちゅう挫けそうになる私には重要なことだった。

 それにママの花屋で、時には花草とハーブの本を見ていたおかげで、その知識も役に立った。


 そんな風に始まった生活の中、私はいつも同じことを考えていた。


 ここは一体どこなんだろう、どうしてこんなところにいるんだろう……。

 ママは、みんなはどうしているんだろう……。


 きっとみんなも同じことを考えているに違いない。

 でも、今は心の中にしまっておいて、毎日を生きていくしかないのだ。


 確かに最初のうちは泣いて、泣いて、無気力になっていたけれど。 


 ある夜、あの前向きなユキさんが、隣の寝床で息を殺して泣いているのを聞いてしまった。


 その時、私も強く、現実的になろうと心に決めたのだ。


 頑張っているユキさんの力に、少しでもなりたい。


 そしてこのわけのわからない状況が、少しでもなんとかなればいいな、と思う……。



続く

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