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秘められた紅い血  作者: 志野実
10/14

十、出発は薄明に

 そう、俺チェスワフは、ユキさんや長老たちと同じ時にここに来た。

 

 ここに来る前、俺は友人グループと故郷ポーランドからイタリア旅行に来ていたのだ。


 何ヶ月も前から計画を立て、いろいろな観光名所を回る予定だったのだが、楽しみにしていたイタリアについた矢先に、地震に遭ってしまった。

 イタリアも割と地震が起きるとは聞いていたけれど、まさか自分が巻き込まれるなんて——


 そして——


 気がつくと、こんなところにいた。

 一緒にいたはずの友人たちは、誰もいない。


 その後いろいろ皆と話したが、地震との因果関係もはっきりとはわからない。

 わからないが、一緒にここに来た十三人が十三人とも、あの地震にあったそうだ。

 ただ、ザブロンたちは違うし、日本人たちも日本で海難事故にあった後ということらしいし——

 結局のところ、何なんだろう?……


 まあ、今しなければならないのは、とりあえず生きていくこと。

 元いたところに戻る方法を探すのは、とりあえず後回しにするしかないのだ。

 


 出発は、よく晴れた日の早朝だった。夜明け前に起きだして、薄暮の中持ち物を確認する。


「気をつけてね」


 気がつくと、ユキさんが心配そうな顔で立っている。


「一応、たくさん持って行ったほうがいいと思うから」


 と、かなりたくさんの携帯食を渡してくれる。


 よく見ると、この朝も早いのに、みんなが見送りに起きだしてくれていた。


「危ないことするんじゃないぞ」


「本当、気をつけてね」


 皆、口々に言ってくれる。


「チェスワフ、ザブロン、あ、アテンション・プリーズ」


 普段あまり口を開かない日本人の若者たちも、拙い英語で心配そうに言ってくれる。


「大丈夫大丈夫! みんなの代わりにいくんだし、気をつけて行ってきます。いろいろ情報集めてくるよ」


「そうそう、大丈夫!」


 ザブロンも笑いながら言う。


「世界を見てくるぜ」


「さあさあ、早く行かないと陽が昇ってしまうぞ。気をつけて、無茶はしないようにな。軽く様子を見てくるだけでいいのだから、早く帰っておいで」


 カルロ長老が微笑んで、握手をしてきた。

 その握手した手の中に、何か固いものを感じたので、そっと見てみると……

 

 カルロ老人がいつも身につけている、聖母マリア像が彫られたメダルのついたペンダントだった。

 そしてザブロンにも一つ。

  

 ザブロンはそれを見て泣き出した。俺が初めて見た彼の涙だった。

 

「ありがとう、カルロ」


 ザブロンの涙に打たれた皆も、俺たちを取り囲んで暖かい抱擁をしてくれた。

 そして、俺たちは皆に見送られ、うっすら白んでくる空の下、元気に出発した。

続く

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