こころのちぎり‐2‐
(痛ッ)
ないはずの足。いないはずの狼。その群れの牙。エナメル質でコーティングされた、最も固い部位が、鏡太郎の柔らかい表皮を裂き切り、筋繊維へと届きどこかの血管を傷つけた。全ては鏡太郎の見る幻──だが痛みは本物だ。
鏡太郎は耐えた。
別に痛みを感じるのは初めてというわけでもない。それに彼は自分のことよりも、椛のことのほうを気にかけた。
顔色をうかがう不安そうな表情が見上げていた。痛みを忘れてしまう。大丈夫。痛みなんてどうということはない。それ以上に、椛に安心してほしい、そう思えたのだ。
「俺を頼れ椛。一人で背負うのと、二人で背負うのでは、二人のほうがずっと楽だ」
返事はなかった。だが少しだけ、体が重くなった気がした。不快な重みではない。頼られ、またそれを支えたいと思う重みだ。
「……」
この部屋には、鏡太郎と椛の二人だけというわけではない。小雪がいる。小雪と目があった。清清しいまでの微笑みだ。彼女も満足しているようだ。
人間のようなものが一人。
青肌で狼群れの足が一人。
羽根つきで小妖精が一人。
三人で見ている映画はファイナルレッド。
肌を刺す痛みは、まだ引かない。だがじきに痛みは無くなることを知っている。
──ただし。
“この先”のことはわからなかった。
鏡太郎の目のこと。
椛のこと。
小雪のこと。
未来にはいつも霞がかかっていて、確かなものへは何一つ手を触れることはできない。
しかし──それも、そんなことはわかっていたことなのだ。
椛の心の扉を、ちょっとだけ開けられた。
充分に、上出来だ。




