表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/94

こころのちぎり‐2‐

(痛ッ)


ないはずの足。いないはずの狼。その群れの牙。エナメル質でコーティングされた、最も固い部位が、鏡太郎の柔らかい表皮を裂き切り、筋繊維へと届きどこかの血管を傷つけた。全ては鏡太郎の見る幻──だが痛みは本物だ。


鏡太郎は耐えた。


別に痛みを感じるのは初めてというわけでもない。それに彼は自分のことよりも、椛のことのほうを気にかけた。


顔色をうかがう不安そうな表情が見上げていた。痛みを忘れてしまう。大丈夫。痛みなんてどうということはない。それ以上に、椛に安心してほしい、そう思えたのだ。


「俺を頼れ椛。一人で背負うのと、二人で背負うのでは、二人のほうがずっと楽だ」


返事はなかった。だが少しだけ、体が重くなった気がした。不快な重みではない。頼られ、またそれを支えたいと思う重みだ。


「……」


この部屋には、鏡太郎と椛の二人だけというわけではない。小雪がいる。小雪と目があった。清清しいまでの微笑みだ。彼女も満足しているようだ。


人間のようなものが一人。


青肌で狼群れの足が一人。


羽根つきで小妖精が一人。


三人で見ている映画はファイナルレッド。


肌を刺す痛みは、まだ引かない。だがじきに痛みは無くなることを知っている。


──ただし。


“この先”のことはわからなかった。


鏡太郎の目のこと。

椛のこと。

小雪のこと。


未来にはいつも霞がかかっていて、確かなものへは何一つ手を触れることはできない。


しかし──それも、そんなことはわかっていたことなのだ。


椛の心の扉を、ちょっとだけ開けられた。


充分に、上出来だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ