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からのなか‐10‐

鏡太郎は笑いをこぼしてしまった。それを聞いた椛が、形の良い眉をしかめた。何故ならば、椛の飼う狼たちが半分はキョロキョロと周囲を警戒し、もう半分の狼らが鏡太郎を囲う。守っているのだ。それは椛が、鏡太郎のことを心配していることなのだと見て取れた。


「あの時の男は誰だったんだ? ほら、椛さんが連れてた、逃げていった男だ」

「…………私を買った男だ。ふん、尻軽女と思えよ」

「思わないよ。そうか、じゃ、俺は椛の邪魔をしてしまったわけか。すまない、悪いことをした」

「軽蔑してくれていい」

「しないよ」

「嘘だ」

「本当だ」

「……ふん」


椛の吐いた息は白く広がった。春の風は近づいていたが、今だ夜は身が凍る寒さだ。今でこそ走りきったあとで体が温まっているが、じきに冷めてしまうだろう。いつまでも外にはいられなかった。


(それに俺はともかく、椛の顔を蜥蜴頭らに覚えられたのは不味かった。目の前で椛の手を引いたのは失敗だ)


問題はこれからだ、と鏡太郎は確信していた。子供でもあるまいに。無茶をやったものだ。ヤクザの組事務所に突撃かますヤンキーなみだ。

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