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わからないきずかない‐18‐
不思議な気持ちで落ち着けた。彼女は鏡太郎に手を添えたまま、こてん、と倒してきた。布団へと沈み込む。眠りへと戻されてしまった。
「ここ、俺の家なんですけど。椛に主導権を握られている気がする」
「気のせいだろ?──女性にリードされるのは苦手だったか」
「気の強い女性には慣れています。後を追うのは得意です」
「その気の強い女性というのは、少し気になるね」
「あなたもその一人だ」
「なんだ、結構嬉しいものじゃないか」
椛の声が遠のいていく。彼女の手はとても、温かかった。他人が目の前にいるのに、寝れそうだ。まどろむ意識の中で、鏡太郎は久方ぶりの“何か”に包まれていた。
──そして。
朝……鏡太郎が目を覚ましたとき、椛の姿はすでにどこにもなかった。約束が守られることはなかったのだ。その日を最後に、鏡太郎が椛と接することがなくなった。電話もできず、データメールもできず、会うこともまた、なくなったのだ。




