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わからないきずかない‐16‐
影が揺らめく。正体はわかっていた。椛以外にありえなかった。おおよそ人間ではない姿をしたものが、すぐ隣で蠢いていた。上半身はほぼ人と同じだ。しかしその下半身はやはり違う。狼群れの足。その首がもたげているのが、薄い影の揺らめきから見て取れた。月の光を封した狼群れの瞳らが、鏡太郎の身を射抜く。到に打ち付けられた人形だ。
「俺は……人も、関係も、……ゆっくりと育てる派だ」
「キミは気の長い男の子なのだな」
「男の子というのはやめてください。何となく男の子ってのは、子供っぽい」
「良いじゃないか。キミの顔はどちらかといえば童顔よりだ。ガツガツした男らしさよりも、今の時代のニーズにあっているはずだ」
「それでも、男らしく、とは考えるもんだ」
「男らしくだって?」
ケラケラとしかし忍んだ笑いのあと椛は、「そんなものくだらないだけだぞ?」と──その言葉はとても、とても平坦なまま言い切った。




