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わからないきずかない‐3‐
鏡太郎の目では、椛の姿は、青い肌に狼の群れの足、だった。そうだったはずだ。形は変わりない。しかし違ったのだ。表情のない仮面。何かが椛の心を殺したのか、と鏡太郎は予測をたてた。無貌が椛にとり憑いていた。
「……」
鏡太郎は何も聴かず、ただただ風呂の準備を進めた。豪快に溜め込まれるお湯、そこから立ち昇る湯気が肌を温かく濡らす。
椛は一匹の狼に引かれながら、するりと風呂場へと消えていった。服が崩される音が聞こえた。小さな、獣のような声を聞いた。雨に流れた汗の匂いに混じり、湿った鉄の臭がした気がした。脱がれたスーツと下着を見ても不思議なもので、情欲というものが湧きあがることはなかった。




