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ひとりぼっち-2-
店の看板娘が両手一杯に大ジョッキを持って走った。歩く、というにはずっと速い。かと思えば次の瞬間には、追加の注文を受け、それを厨房へとおしながら食器を洗い片ずけた。忙しそうだ。一人で何人分も働いているようだ。
ーーまるで手が何本もあるかのように。
……鏡太郎の目には、そのように写っていた。つまり何本もの腕がある姿にだ。実際にこの看板娘の姿が、人間とはまったく違うものに見えていた。そしてその手は人の手と明らかに構造が違いーー類似する生物としては頭足類の手足だーー肌も体もその手に『合わせた』ものだった。