プロローグ
まずい
これはまずい
初っ端からまずいとか言ってること自体よろしくないとはつくづく思うが、そんなことにいちいちツッコミを入れている場合じゃない。
とりあえず、まずい
「…終わんないぞコレ」
目の前のパソコンのディスプレイに映る文字の羅列を睨み、唸り声をあげる。
その間にも手を休めることはなく、頭に浮かんだ場面を言葉に変えてはひたすら打ち込んでいく。
「ホントついてないな…」
そんな独り言を繰り返しながら作業し続けること2時間半。
全くもって終わる気配が見えない。
要するに
「まずいな…」
目にかかるほどの長さまでになった髪を掻き上げ、何度目か分からないため息をつく。
そしてこちらもまた何度目かわからない回想をする。
遡ること4時間前
「終わったー」
画面とにらめっこして8時間、悪戦苦闘の末に完成した明日提出分の原稿を見つめながら達成感に浸っていた。
「いやー久々に疲れた」
いつもなら原稿は締め切り3日前にはほぼ完成する。キャラ作りやシチュエーションなどに詰まることもほとんど無く、むしろ有り余るほどのネタをまとめるのに苦労することの方が多い。
しかし今回は異例。普段の逆でキャラ作りの時点で納得いくものが思いつかず今日に至るまで原稿に手をつけるまでに至らなかった。
とはいえ完成した。かなりギリギリだったがとりあえず提出出来れば問題ない。
「あとは提出して…っとその前に保存だな」
この時マウスを動かしていた自分はさぞ有頂天だったであろう。既に3日連続の徹夜だ。身体に安らぎのひとときを与えることしか頭になかったはずだ。
バツン
「…え?」
ここまでタイミング良くブレイカーが落ちるなんて最早奇跡なんじゃないかな。
その後慌てて電気を戻してパソコンを立ち上げ直したが、こういう時に限ってこまめに保存するのを忘れている自分を全力で呪いたくなる。
そして今に至る。
「…まずいよなぁ」
時刻は午前3時を回ろうとしている。
タイムリミットは限界までやっても7時だろう、明日は平日だ。
「これじゃ別の意味で安らぎを得ちゃうかもな…それも永遠に…」
こんなことで眠りにつくのは流石に御免だ。
念のために買いためておいたエナドリを1缶開け、一気に飲み干す。ここまでくると誤魔化し程度にしかならないが、ひとまず朝までは保つだろう。
「…よし、もうひと頑張りしますか」
空き缶をゴミ箱に投げ入れ、再び画面を睨み直した。
一応自己紹介くらいはしておこう。
俺は灯暮 麗華、見た目は女、頭脳は男という要らぬ決まり文句を与えられた少し変わった高校2年生だ。
変わってるのはこの性格じゃない、そうじゃないと信じたい。
ひとつは今、高校生でありながら作家として執筆していること
そしてもうひとつは
俺を取り巻いてる、もしくは取り巻くことになるであろう少しばかり特殊な環境