理不尽な選択
つまり、この二つの箱のうち一つは貴方の大事なもので、
もう一つは私が大事なものなのですね?
その問に笑顔が印象的な貴族だろうか、正装した紳士は声を出さず頷いた。
差しだされた二つの箱。まるでシュレディンガーの猫を彷彿とさせる選択を迫られていた。
前振りも意味深だが、特に深い事情も無ければ、
私が彼氏との待ち合わせの道程を歩いていたら、
この仮面の笑顔が印象的な知り合いじゃない紳士に声をかけられ、箱を差しだされ、質問されたということだ。
私は少し考えると、質問を二三掛けてみた。
貴方は答えをご存知なんですか?
紳士は少し思案したのか数秒後に頷いた。
貴方は中身もご存知?
紳士は直ぐに頷いた。質問されるとわかっていたからだろう。
誰にでもこんなことしているのか?
会話中に私の知り合いの可能性を辿っていったが、彼氏はこんな頭使う系の人間じゃないからありえない。
まして、奇っ怪なことする友人となると皆目検討もつかない。
では、真っ赤な他人になる。
私は考えていると無性に腹が立ってきた。
あんたね!フェアじゃないよ!?選ぶのは私だけれどかけた品わかんないって筋が通ってないよ!
仮面は意外な答えに驚き、後ろに数歩たどたどしく後退すると、箱を落とすせば一つは空っぽ。
もう一つからは彼氏の写真が出てきた。
えっ、あんた!私のトモくんになにかしたの!?てめぇ!
猛獣のような気迫に仮面は尻餅をつき、慌てた様子で両手を大きく振り無抵抗をアピールするが、胸ぐらを掴まれ、仮面は意気消沈。
仮面を取ると彼氏の顔が出てきたものだから沈黙する私。
そこに、二人の間を遮るように声が入る。
ちょっ、咲ちゃーん!なにしてっ、うわっ!
身動きしないのびた彼氏の顔をした仮面の男と、不味ったという表情のこれまた彼氏。
仮面の男の胸ぐらを掴んだままキョトンとする私とそれを脇に通りすがる冷たい目線があった。
彼女が僕なんかに釣り合うのか不安のあまり他県から上京していた双子の兄さんに相談した所。
俺にまかせとけ!
彼女に兄がいることを伝えておけばよかった。
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