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■エピローグ 『そして始まる』

 死神はエントランスの吹き抜けに、魔法の手紙を投げてみた。

 鳥のように旅立つはずの手紙は、翼を失ったようにふわりと落ちてくる。

 相手の居場所が見つからないか。

 もしくは――


「ここが居場所、か」


 帰ってきた手紙を、まるで見えざる手に払い叩かれたかのように。

 死神は困ったように笑った。


「不思議なお手紙なんですね」

「死神特製の怪しい物さ。いつかシエラにもあげるよ」

「はい、ぜひシエラもお手紙の交換をしてみたいです」


 死神としては気の利いた文章も送ってやれそうにないが、わかったと頷いた。

 そして再び手紙の内容を一瞥して、笑顔をこぼす。

 まさか司書子から、このような手紙が送られるとは夢にも思わなかったからだ。

 


 ――……――……――……



■魔法の手紙


 師匠へ

 これを見たということは無事に会えたんだと思います。

 この子のこと、私だと思って育ててあげてくださいね。


 最期までワガママな弟子でごめんなさい。

 師匠がいてくれたから私は幸せになれました。


 もしも落ち込んでたとしたらごめんなさい。でも、笑ってくれると嬉しいな。

 そして最後にもう一つだけワガママを言わせてください!


 師匠のことが大好きでした。男の人として。


 追伸

 これから高くなるらしいアクアリウムの土地に投資してみました。

 渡す人もいないし、師匠の場所もわかんないから、呪いをかけておきました!


 プレゼントだと思って、いつか受け取っておいてね。

 場所:西部C-1-54

 

      ワガママな司書より



  ――……――……――……



「偶然なんだか、偶然じゃないんだか……むちゃくちゃな事をする子だ。呪いで家を守り続けるなんて……」

「の、のろいですか……?」

「けれど、私達にとってはお祝いかな」

「えっ、おいわいなんですか?」


 寝転ぶフェンリルの傍で、談笑を交わす死神とシエラ。

 死神は一枚の手紙を懐にしまい込んで、天井を仰ぐように笑っていた。


「そうだ、ファミリア・ギルドが正式に受理されたんだ。これからは公式に人を集めることだって出来るようになった」

「ほんとうですか! お疲れさまです、お兄様」


 

 フェンリルは耳と尻尾だけを動かして、二人の会話を特等席で楽しんでいた。

 あの学舎にも負けない居心地の良さは日光浴でもしているような気分だ。


「今夜はストレンシアやリナリアでも呼んで、また小さなパーティーでも開こうか」

「ではシエラもお作りします!」

「ん、んん……いや、その」


 意気揚々としたシエラに対して、死神は歯切れが悪く言い淀む。

 心地よく眠っていたフェンリルも眉根を寄せた。

 ――シエラが用意したものは奇抜な味だった思い出が過ぎる。


「むしろリナリアの料理でもご馳走になる予定なんだ。ほら、まだエーデルウッドにいた時、サクサクのシチューを持ってきた時があっただろう」

「はい! とても美味しかったのを覚えています!」

「あれはリナリアに作ってもらったんだ」

「そうだったんですね! じゃあ……ご馳走になってみたいです」

「よし、じゃあ今日はそれでいこう」


 二人の会話を特等席で楽しむフェンリル。 

 自分をソファーにして、いつも本を読んでいた司書子の笑顔が浮かんでくる。

 「尻尾を振りすぎ、急に起き上がらないで、お前は落ち着きがないな」――フェンリルの記憶に残る司書子はいつも笑っていた。


「はい! 楽しみですね……。シエラにできることがあれば何でもやります!」

「う、うん……配膳のマナーなんかを教えようかな……」

「お任せあれです!」


 シエラは両手をグッと握りしめて意気込んだ。


「……さて、これからもやることは増えていく」


 ふと、フェンリルは心地よさを感じて目を開けた。

 二人が体を撫でていたらしい。顔を上げたフェンリルの視線に気づくなり、二人は微笑んだ。


「私達3人で、頑張っていこう」

「はいっ。お兄様、リルリルさん、これからもよろしくお願いします」


 二人の笑顔が、フェンリルの琥珀色の瞳に映る。



――『……できればりるりるにも、師匠にあってもらいたいな……。きっと師匠なら、あなたのことも幸せにしてくれる……よ。ぜったい』


――『だからつらかった時もあったけ、ど……しあわせだった。心から。……でも、リルリルが幸せにできないことが……心残りかな』


――『「……りるりるも幸せに、なって……ね。生きて、ぜったいに……」』


 フェンリルには返すための言葉も、笑顔もない。

 だが、溢れんばかりの感情だけは、彼らのようにある。

 そして伝える手段があった。可愛らしいね、と彼女も褒めてくれた言葉が。


「ワンッ!!」


 『幸せだよ』。エーデルウッドに眠る、愛しい人へ。

 二人の笑顔に答えるように、そして亡き人へ届くように、フェンリルは己の声を響かせた。





 ――その日、ファミリア・ギルドは正式な幕を開ける。


 後日、その屋敷では初めての入団希望者が訪れるとの報告があった。

 初めての妹弟子に騒いでいたシエラを余所に、死神はまだ募集の張り紙を出していないことに気づいてしまう。

 そして来訪者とはセシリアであったことに、また騒動が起こるのは別なお話。





第一章:ファミリア・ギルド、完結です。

突っ走るように小説を書き出して、まだ一ヶ月なのですね。


皆様の応援のおかげもあって日間ランキングにも入れさせて頂き、より多くの方に読んでいただくことができました!


2章からについてですが、じ、実は未定です……。

本来はこのまま終わりへと突っ走る予定でもありました。

明日になるか一週間後になるかはわかりません。それでもよろしければ、またお願いします。


改めて、閲覧、ブックマーク、評価、感想から後日脱字報告、ありがとうございます!

作者にとってはこれ以上ない励みでした!またいただければ幸いです。

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