1──【宣告】
前まで、暗闇の中を僕はさ迷っていた。
右も左も分からなくて、どっちに進んでいるのかさえ理解できない。
ゴールなんて有るのか。
あったとして、そこに有るものは何なのか。
不思議でならなかった。
しかし、僕はゴールへと辿り着いた。
否…辿り着いてしまった…――
+ + + + + + +
あれは、昨日の事だった。
授業中に、僕の視界が暗くなった。
気づいた時には、僕はベッドで横になって白い天井を眺めていた。
最初は何故ここに横になっているのか理解出来なかったが、保健の先生が教えてくれた。
「授業中に倒れたのよ」
ああ…だから急に目の前が真っ暗になって、保健室のベッドで寝ているんだ。
だが、何故倒れたのかが分からない。
先生は『軽い貧血』だなんて言っていたけど、僕は貧血になんかなったことがない。
小学校から高校の今まで、健康そのものだったんだから。
煙草も吸わない、お酒も飲まない。
未成年ってのもあるけど、成人になってもそれらをやろうとは思わない。
「何だか疲れてるみたいだから今日は早く帰ってゆっくり休みなさい」
僕は言われた通りにした。
教室に戻って、担任の若井先生に理由を話した。
「歩いて帰れるか?」
「大丈夫です。母さんは仕事で居ないから」
バックを持って、学校を出た。
こんなに早く帰るのは初めてだ。
道路を走る車の数は、朝と違って少ないし、僕みたいな学生は歩いていない。
きっと、勘違いされるんだろう。
平日の午前から学生が街中を歩いているなんて、サボったんだと思われる。
僕は、そんな人目を気にしてわざと人の少ない道を選んで帰った。
こんな道なら誰よりも知っている自信がある。
何度も通ってきた道だから。
君達にもあるでしょ?
家に着いて、いつもの場所から鍵を取り出す。
鍵の開く音がすると、中から何か走ってくる音がした。
玄関を開けると、置物の洋に座ってずっとこっちを見つめる犬がいる。
僕の家で飼っている、ミニチュアダックスフンドのマロンだ。
サラサラの栗色をした毛に、短い足、垂れた耳。
僕達の家族だ。
「ただいま。マロン」
頭を撫でてやると、嬉しそうな目をして尻尾を振っている。
そうだ、母さんにメールしなきゃ。
『今日、学校で貧血を起こして倒れたから早く帰ってきた。家でゆっくり休みます』
すると、直ぐに母さんからメールがきた。
『大丈夫?今日、直ぐ帰るから明日病院に行きましょう』
病院だなんて…
大袈裟過ぎるよ。
まぁいいや。
一先ず、寝よう…――
『……う……ゆ…』
ん…
「優!」
「あぁ…母さん」
母さんが帰ってきたってことは、もう夕方か。
少し休む予定だったけど、熟睡してたみたいだ。
窓から茜色の光が僕の部屋に入ってきている。
「体、大丈夫なの?」
「少し寝たから大丈夫だよ」
「明日学校休んで病院に行く?」
「平気平気。テスト近いし、休むわけにはいかないよ」
「無理は駄目だからね」
「うん。ありがとう」
僕の学校は、夏休み前にテストがある。
それで赤点を取れば、夏休みも学校に通わなければならない。
僕はそんなの嫌だ。
そのためにも勉強しなきゃ。
「ゴホッゴホッ…」
風邪、かな?
いいや。
勉強頑張らなきゃ。
時計を見ると、夜の12時を回っている。
気づかないで今まで勉強してたんだ。
「あれ?」
全然進んでない…
確かに僕は今まで勉強してたはずだ。
なのに、ノートには始めた時の問題と答えしか書いてない。
僕は何をしてたんだろう。
「何か体がだるい…」
風邪だなぁ…
明日病院で診てもらおう。
ん…朝、か…
何だか昨日よりだるい…
「優ー。病院行くよー」
「はーい…」
ふぅ…体を動かすのもやっとの状態だ。
完璧に風邪ひいた。
風邪かと思っていたけど、診察した医師から告げられたのは重く酷い言葉だった。
『癌』
余命三ヶ月…
未来をかき消すには十分な宣告だった…
残り…三ヶ月──
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