7.祭りの前の
若干の暴力シーンがあるので注意。
「おっやん、どうしたのかな凛たん」
「ちょっと色々と考える所があったので」
すこしギクシャクしたまま翌週になり、私は学校車で先生の実家である旅館に来ていた。 …岡本先生28歳独身彼氏は何度か居たことはあるもののあまりにも酒癖が悪いと言うことで別れたそうな。…先生が酒を飲んだ時は注意だな。
「そんな暗い気持じゃせっかくのお祭りもつまらないぞ!」
「佐野…」
「冬華でいいって言ってるのに~」
まぁ、込み入った事情は一旦置いていた方がいいのだろう。
…楽しもう。
「と言う訳で海行こう、海!」
「…行く先海のすぐ近くって聞いてなかったので水着なんて持ってきてませんよ?」
「そこに……レンタルがあるじゃろ?」
「意味深に言うのはやめてください」
そう、先生の実家の位置を完全に聞くのを忘れ、乗り物が得意でない私は出発後30分で睡眠していた。
で、気が付いたら海である。
…事前に言ってもらえれば水着を買ったのだけど。プールに行く前には水着買おう。
「でも、その準備とかあるじゃないですか」
「え、4時からすれば問題ないよ。って、ほらみんなもう海行ってるよ?」
あの人たち事前に海に行くことを知っていたのか。
そう言えば、朝7時に出発したので、現在10時。遊ぶには十分な時間だ。
いや、そう言えば学校車で移動することの同意書にも行先が書いてあった気がする。
自業自得であるのは認める。
腕をつかれるままに海辺の更衣室近くのお店でレンタル用の水着を選ぶことに。
「そう言えば凛たんの私服初めて見たけど、何か新鮮だね」
「そうですか?」
基本家ではジャージの場合が多いが彩希の姉の店に立ち寄ったことを皮切りに色々と私服が増えて行った。「着て一枚写真撮らせてくれればいいから!」と懇願されたりしたのが主である。
「いやー、黒髪ショートの凛ちゃんならこんな感じの胴よ」
「スポーティーな感じですね。主にビーチバレーな感じの」
「普段おとなしい凛ちゃんだが運動神経はそうでもない。だがあえての活発なイメージを!」
「あえてとは…」
「凛ちゃんが髪伸ばしてたらこんなの似合いそうだよね、黒のビキニ!」
…そう言ってどんと渡されるのは黒のビキニ。
海行ったらどうせ濡れるんだろうから、ウイッグ取らないとだよな。
「じゃあそれにします」
「そ、そうなの?まぁ、布地が極端に少ないとかじゃないからいいかもしれないけど…」
長い髪だったらいい感じに似合うと助言を頂いだので、これで良いだろう。
借りるために、カウンターへ向かった。
引きずられている時に財布の入った鞄を持って行ったのが正解で、ウイッグの収納ケースが入っていたので極力丁寧にしまい、長い髪をどうしたもんかと思いながらたまには髪で遊ぶのもありだろうと思い、サイドポニーなるモノに変える。
後、ビキニのサイズ表記的に若干大きいはずなのだが、ごく普通につけることができた。女性のビキニのあの腰結んである奴って、良くラノベで引っ張って外れてしまう、なんてあるがこれは縫いつけられた紐があるパターンの物だった。
…男の事の夢が最近崩れ去ってゆく。
ブラをつける時もそうなのだが、あの肉を寄せる作業でいったいどれほどの女性がπ値を上げているのだろうか。
それとパットってパッと見判んないことに驚いた。まぁ、そうしないとニプレスでもしないと突起が浮き出てしまうとかあるからありだとは思うが。
ここで防水用のメイクとかするタイプの人間ではないので、精々日焼け止めを塗る位だ。…塗ろうが塗るまいが日焼けしてもすぐに色戻る体質なんだよな。
視界に入るは軽さに負け、メガネケースの中のサングラスをかけながら待つこと8分。
ツインテール属性のある佐野は片手に鞄を持ち出てきた。
確かああ言う水着をタンキニって言うんだっけ。
あたりをキョロキョロと見渡しているが、どうしたのだろうか。
もしかして髪が長い状態の私が分からないか。
…少し悪ふざけをしよう。
「どうしたんだい?」
ちょっと声を低めに。
イメージ的には姉御肌な岡本先生をイメージした声を出す。
「え、あの着替えてる友達を待ってるんですけど…」
身長163㎝の私に対して佐野は150㎝前半。
ちょっと小さい小動物に見える。
「キミみたいな可愛い子がナンパなんかに絡まれたらアレだから一緒に待っていてあげよう」
「あ、ありがとうございます」
…本気で気づいていないようだ。
佐野の隣で腕を組んで立っている状態で待機。
「あの、御姉さんは地元の方なんですか?」
「いや、ここからだいぶ離れた所で学生をやっているよ。私はここの祭りの手伝いでここに来ていてね」
「同じですね!」
「そうなのかい?」
あかん弄るの楽しくなってきた。
「はい!部活の活動の一環で来ました!」
年上にはこう言った素直な態度を取るんだな。
後でからかうネタが増えていく。それからちょっとした世間話をしていると、
「遅いな…凛」
「それなら携帯で連絡を取ってみたらどうだい?もしものことがあったら大変だからね」
「はい、そうします!」
私がスマホを出しながら提案すると、佐野もその提案に乗っかり、荷物からスマホを取り出し連絡を始める。
「あ、そう言えば御姉さんのお名前お聞きしても良いでしょうか」
携帯の呼び出し音がかかったところで、佐野がちょうどいいタイミングで聞いて来たので、私はサングラスを外しながら電話に出ながらこう答えた。
「萩本凛と言います」
ちょっとした時間差でステレオになり、佐野のケータイから音が漏れる。
「へっ?」
「いったいどの段階で佐野さんが気づくのか試してみたのですが案外気づかないものですね」
「り、りりりりりん!?」
「そうですよ、御姉さんこと凛です」
「わ、忘れて!今すぐに忘れて!」
「嫌です」
楽しい。
いやー、自分に謎の演技力があってこれほど面白いと思ったことはない。
先輩をからかった時よりも面白かった。
「何で髪が色が変わっている上に長くなってるの!?あ、もしかして鬘?」
「普段の方がウィッグです。ほら」
そう言ってカバンからウイッグケースを取り出す。
「な、なにそれぇ。私の御姉さま萌え返せ!」
「残念ながら私にはそのような高等テクニックは行えませんよ」
「うわあああああああ!」
…人と言うのは自分の隠された一面を見れられると発狂したくなる生き物なのだろうか。
ちょっとしたボケや佐野をからかっているうちに、気が付けばお昼。
佐野に買ってきてと命令されたので、普段からしみ込んだパシリ精神が揺さぶられ、気が付けば買っており、ビーチあるあるのどこに戻ればいいのか分からない状況に陥っていた。
ちょっと買いに行くからと言って財布だけ持ち、他を佐野に任せたのが仇となったようだ。
「ねえ、キミちょっと暇?」
「見ての通りこれから昼食なんだ。暇じゃない」
後々面倒な展開に巻き込まれるのは勘弁なのでこれまた姉貴肌ボイスの登場である。
「1人でいっぱい食べるんだね」
「友人に頼まれて少し買い出しに行って来ただけだ」
「奇遇だね、僕もちょっと女の子一人捕まえにパシリに出されてるんだ」
「そうか、他の人に当たってくれ」
「えー、どうせなら御姉さん見たいな綺麗な人連れて行きたい~」
…面倒なナンパだな。
でも、手を出したらこっちの負けである。
「お、ケンちゃん上玉捕まえてんじゃん」
「でしょ?」
「捕まってない。帰らせろ」
「ダメ」
くっそ、仲間が数人来た上に逃げようとしたら腕を掴まれた。
自分で言うのは何だが女になってから運動能力が著しく落ちているんだ。
「離せ!」
「ちょっとあっちで相手してくれるだけでいいからさ」
「こんな水着着てんだからちょっと期待とかしてたんだろ?」
「していない!」
「ほらほら、行こうぜ」
集団で囲って有無を言わせず人気のない所へ運ぶ…セオリー通りと言えばそれまでだが、こいつらの相手をする趣味は無い。
「キャァァァァァっ!」
「く、黙れこの女!」
…ちょっとショックを与える、つもりでやったらまさか顔を殴られるとは。
しかもグーとか容赦ねぇな。ヤバい、一瞬視界真っ白になった。
殴られた時尻持ちをついたのだが、平衡感覚がおかしくなっているのか野郎に腕を引っ張られても立ち上がることができない。
「おい、そこの兄ちゃん、それは立派な暴行罪だ」
物語よろしく、パーカーにサングラス海パン。
「ちっ、邪魔かよ」
「かまって行くぞ」
「行かせるかボケ」
そう言って行うのは何処か見られた綺麗なフォームの足蹴り。
「~~っ!」
「後そこの--り」
「--め---!--」
途中途中聞こえる会話といつの間にか集まった周囲のざわめきの中、意識を失った。
一応、簡単な現時点での人物名(一部抜け有)
主人公:萩本凛
大学生:近衛雅也
大2 :相羽圭
大3 :佐藤優子
同級:佐藤武
親友 :天野彩希
店長 ;天野美空
編集 :葛原太郎
部長 ;アリシア・ブリエストラ
部員(同):佐野冬華
部員(後):綴帆乃夏
部員(男):五十鈴翔
顧問 :岡本清華
人物名は思いつきなので深い意味はありません。