13.プール 前編
展開がどんどん逸れている自覚はありました。
如何にかこうにか戻していければ…と。
翌日、待ち合わせのために駅前に集合していた。
行先のプール自体は電車を取り次げばさほど遠くない位置にあるのだが、先輩が車を出してくれると言うことで、駅にいったん集合して移動と言うことになった。
「俺はここで待てるから、その二人を呼んで来い」
朝から何故か落胆したようにテンション低めの先輩は気だるげに運転席に座りながらそうつぶやいた。
朝、彩希たちとの待ち合わせ場所が駅前になったと言ってからである。
そう言えば、あの口ぶりからは二人で行こうと言う風に受け取ったのかもしれない。
…それで嬉しがるのか普通?
スマフォで連絡を取りながら、件の二人を探す。
彩希の彼氏は特徴的なのですぐに見つかるだろう。
「おーい!」
私が見つける前に彩希が私を見つけたらしく笑顔で手を振ってくる。
小柄で美少女な彩希の隣には二度見してしまうヤーさん顔負けの厳つい顔をした長身の男がいた。
傍から見たら幼い子に甘えられるギャップ萌で微笑ましくなるヤーさんの図と言ったところ。
二人は生まれた病院と日時が同じで従兄弟同士と言うこともあって兄弟のように育てられ、TSした彩希と過ごすうちに気が付けば恋仲になっていたとか。
「凛、今日はありがとね」
「いいえ、問題ありません」
「ぶー、また敬語状態!」
「はいはい、目立つから移動しましょうね」
あの敬語崩壊の日から連絡をするたびに敬語を取れと命令をしてくる。
一見真面目っぽい私と、年齢以上に幼く見える背伸びしているように見える少女と、到底カタギには見えないヤーさんっぽい人が並んで歩くと言うツッコミ所満載であった。
「ひっ」
「……よろしく、おねがいします」
車に着くと、私と彩希が後部座席に座り、ヤーさんこと武内愁が助手席に。
「よろしくお願いしまっす!」
何故、こうなったかと言えば、先に昨日のモノを私に渡しておきたかったらしい。それ以外にも、車の中で多少メイクをしておかないかと言う彩希の案であった。
先輩は武内に少し怯えつつ、車を走らせるのであった。
「はい、お姉ちゃんからのコレね」
「ありがとうございます」
「…カップのサイズだけ見ると少し大きい位にしか感じないのに何でこんなに大きく見えるの?」
「そう言ったことは慎んでください。健全な男子がいるんですから」
「え、ここにいるの元も居るとはいえ全員男だよ」
「それは禁句です」
よく考えれば、私と彩希は元男。二人は健全な青年。
変化がないままならきっと801の御姉さま方にとってもアレな妄想をされていたのだろう。
先輩、動揺して蛇行運転しないでください。
そんなこんなで20分ほど移動をするのであった。
室内温水で波の出るプールまであると言ういかにも入場料高そうな場所ではあるが、武内が早朝の新聞配達のバイトで年配の方に無料招待状頂いたそうだ。
本来なら二人でイチャイチャと行けばいいものの、すでに海に行ってイベントは消化してきたそうだ。
そんなことで、前々から私と行く話があった事を彩希から聞き、ではそのために使えばいいと思ったのだが、渡したチケットはペアものが2枚で、どうせだったら皆で行こうと彩希が決め、現在に至るそうだ。
先輩は少し疲れたようにフラっと更衣室に消えて行ったので、私たちも移動をすることにした。
既に、服の下に水着を着ていた彩希に小学生か!?とツッコミを入れつつ、自分も着替える。
「私たち姉妹はまな板なのに、何で凛はそんなモデル体型なのかな…」
「望んでこうなった訳じゃないよ」
「うぅ、凛に虐められたから髪型弄らせて」
「別に構いませんが」
…最近髪弄られ流割合が多い気が。
可愛らしく編み込みをされ、いかにも可愛らしいを詰めたような、二次キャラにいそうな髪型にされたのだが、不思議と似合っていたので何も言うまい。
「よっし、これでお淑やかな女性像完璧だね」
「…中身は男ですけどね」
「それは禁句だって自分で言ったよね」
両手を膝の前で重ね、ピンと立っているとそんな風に見えなくもない。
「って後ろから揉まないでください!」
ふっと後ろに回られ、そのまま乳房をカップごと持ち上げられる。
…地味に痛いからやめてほしい。
「質量感がすごい…これぞおっぱい!って感じ」
「はぁ」
謎の疲れを感じながら、貴重品以外をロッカーのカギをかけ、プールへと向かうのであった。
「写真取っていいか」
「お断りします」
合流後の一言目がこれである。
そもそも撮影機材持ち込み禁止のはずなのだが。
「ねーねー、愁君どう?」
「似合ってるぞ」
完全にあっちはバカップルをやっている。
取りあえず武内が居ればナンパの心配はないと思われる。
「それにしても、見事な体系だな」
「必要以上に見ないでください」
「…すまん」
特に意識をしたわけでもなく自然と言ったと思われる言葉なのだが、それに冷たくツッコミを入れる私は、随分と女になってきたらしい。
「凛ちゃんご機嫌斜めだね~」
「そんなことはありません」
「本命の例の子と来れなかったから?」
「ち、違います」
ひょこっと現れ、からかい始める。
「本当に可愛いな~凛は。ま、ちょっと愁君と遊んでくるね~」
友情より恋愛を速攻取り、さっと去っていった。
…何がしたかったんだ。
「…先輩、行きますか?」
「ああ」
何故か少し不機嫌気味の先輩と共にプールに進んでいくのであった。
「こっちこないのか?」
「私はここら辺で良いです」
少し空いていた大き目のだんだんと深くなっていくプールのだいぶ深い所の縁に座り、足を場だ場だと涼むだけで私は満足をしている。
それに対して先輩は満喫するかのように水中に潜ったりして深くに移動をしている。
「そんなに本命の子とやらと来れなかったのがつまらないのか?」
「違います」
「じゃあ、なんで…」
「あいつは関係ありません」
「俺とじゃ不満なんだろ!」
何故か、先輩はすこし切れたようにそう告げる。
「先輩に関係ない事じゃないですか」
「それは---」
「先輩が好きなキャラにたまたま私が似ていた。それだけでしょう?」
何度か否定したが、先輩からの好意の気持ちがあることは分かっていた。
けれども、それは、自分の妄想を都合よく、くっ付けているだけだ。
「違う!」
「それに、私の交友関係なんて自由でしょう?私は先輩の人形じゃ、きゃっ!?」
少し強く手を引っ張られ、水中にドボン。
足がつかない深さだったが、先輩に抱きしめられる形で沈むことはない。
「俺は、お前のことが好きだ!」
「そうですか、無理です。ごめんなさい」
必死に逃げようと、付きはなそうとするのだが、先輩に片腕を掴まれる。
「凛」
「やめて!」
必死に水から出ようとするも、腕は捕まれたまま。
抵抗の声を上げるも、一向に離してはくれない。
「ホント、離して、水、やだ!」
「は?」
「私、泳げないんです!金槌なんです、今すぐ離してください!」
幼少期のトラウマから私は足のつかない水中が嫌いなのだ。
しかも、元々泳ぐこともできない金槌なので、極力水辺からは離れておきたかった。
海だって、砂場で砂遊びをしていれば満足だから、必死に水着を持ってきていないと嘘をついてまで海辺から逃げていたと言うのに!
仮病と言う最終奥義を使って授業からも逃げていたと言うのに!
そう言うと、先輩は呆気取られて、手を離してくれた。
「大っ嫌いです!」
頬にビンタをかまし、逃げて行った。
先輩やらかし2です。
此処から好感度を戻すのにはとても大変です。
続きは後編で。