3章-7
「颯馬がいたらなんか都合悪いのか?」
「颯馬にあんなこといった手前、僕も同じ夢を語ったらばかにされるだろう?」
J.Wは苦笑いしながら頭をかいた。
[同じ夢?]
「てことはまさか?」
「そうだ、僕もこの世から魔恐を滅ぼさせるのが目的だ。だから禁忌を犯してまでこんなに長生きしているんだ」
「でも、自然の摂理だから仕方ないって…」
「僕は颯馬にまで同じ目に遭ってほしくないんだ。だからこんな思いをするのは僕だけでいい。自然の摂理でもなんでもそんなのぶっ壊してそれで世界が崩れるなら僕が世界を作り直してやる」
[そんな話聞いたことないぞ?]
「そりゃそうさ、誰にもいったことがないんだから」
「どうしてそんなに魔恐にこだわるんだ?颯馬もJ.Wも」
「慎弥くんには分からないだろうね、とても大切な人が目の前でいなくなる悲しみを…僕は婚約していた女性がいた。でも、自殺したんだ。結婚式前日に。遺書もなにも残っていなかった。僕は屋上で見たんだ。10体以上の魔恐を。それから僕はせめての罪滅ぼしに創造力と死ぬことを許されないことを引き換えに破魔器を作り続け魔恐の数を減らしてきたんだ。失敗作もあった。こいつみたいにね」
J.Wは憎々しげに小瓶にはいった黒いオーラを睨み付けた。
「魔砂はほんとに魔恐を滅ぼせると思った。だけどこいつは力を手にいれたとたんに魔恐になったんだ。さすがに僕もその時は諦めかけたよ。でも魔砂だけは倒そうと考えたんだ。今回それが達成できたんだ。大きな進歩さ」
「魔恐を滅ぼせたとしても世界を作り直すってどうするんだ?にたような存在がまたできるんじゃないか?」
「そうかもしれないね、でも僕はそんなこと知ったことじゃない。魔恐を滅ぼせば僕の役目は終わりだ。罪滅ぼしも終わるんだ。魔恐がいなくなったあとの世界なんて僕は知らないしこの世から速やかに消え去るよ」
J.Wは空を見上げ両手を大きく広げた。
俺はこのときJ.Wが一番の悪人に見えた。
それと同時に悲しみも襲ってきた。
「お前も魔恐に取りつかれてるのと同然じゃないか…」
「そうだね、そうともいえる、皮肉なことに今生きてる生き甲斐が魔恐なのだから…。でもそれでも僕は魔恐にこだわるよ?それだけ許せないだ。この感情は颯馬でさえ理解できないさ。僕一人で達成しなきゃならないのさ」
しばらくの間変な沈黙が続いた。
「もうひとつ面白いことを教えてあげようか?」
[まだなにかあるのか?]
「慎弥くん、宗康の名字は知ってるかい?」
「いや知らないな」
「宗康は?」
[ガキの名字なんて興味ねえよ]
「じゃあ二人一緒に名字をいってみようか…せーの」
「[貭霧]」
俺の心臓がいつもの二倍ほどテンポが早くなったような気がした。
「まさか…?」
[いや、たまたまだろ?]
「たまたまじゃないよ、慎弥くん、君は宗康の子孫だ。宗康もやることはやってるんだからあきれるよ」
J.Wは肩をすくめながら首をふった。
[このガキが…俺の子孫だと?]
「確かに不思議じゃないけどこんな偶然ってあるのか?」
「あるんだから不思議だよね、人生って。でも、宗康もいつもと違ったんだろう?質がいいんじゃなくて二人の相性がめちゃくちゃよかったんだよ。そりゃそうだよね、微々ながらも血が繋がってるんだから」
[そうだったのか……]
俺は宗康がいるであろう数珠に手をかけた。
「命ちゃんと繋がってたよ」
[これからも繋げるんだよあほ。お前の息子は俺似だと強くなるぞ、お前は失敗作だ]
「失敗作だっていうなよ、うちの家系で強いのはきっと宗康だけさ」
[じゃあこれから強くすればいい、お前が強くなれば子孫ももっと強くなるさ、血の繋がりってそういうもんさ]
「そうだな、じゃあ…頑張るよ」
俺が数珠から手を離したとたん数珠はバラバラになり地面に転がりやがて消滅した。
「!?…まさか?」
「あいつ、封印といちゃったよ、自分が消滅するって知りながら」
「あとは俺だけで頑張れってことか」
「そういうことだね、はてさて宗康を越えられるかね?」
「越えてみせるさ、宗康の血は俺が受け継いだ」
俺には目の前に宗康の照れ臭そうな不器用な笑顔が見えたようなきがした。
「あー…颯馬に何て説明しようかな」
「第一関門だね」
一週間後、俺の筋肉痛は完全に治り颯馬と決闘することになった。
「聞いてないぞ、宗康が消滅しただなんて、お前と戦ったって意味がない」
「いってなかったからな、戦ってみなきゃわかんないだろ?宗康はいなくても俺は宗康の意思を受け継いでる、それに俺には新たな目標ができたんだ」
「目標?」
「お前らの魔恐滅ぼすの手伝ってやる。それで、滅ぼしたあとJ.Wにちゃんと世界を作り直させる。作り直す前にいなくなるなんて俺が許さない」
「あちゃー、それは参ったね、慎弥くんに話すべきじゃなかったかな?」
そういうわりにはJ.W、ジョナ・ワトソンは嬉しそうに微笑んでいた。
「なんの話か知らんがお前ごときに魔恐を滅ぼせるか、まず俺に勝ってからいえ」
「だからやってみなきゃわかんないだろ?」
俺はニヤリと笑った。
「「展開!」」
慎弥と颯馬は互いの全力で刀を交差させた。
ここまで、読んでいただきありがとうございました
いかにも続きそうですが「破魔」はこれにて完結でございます
慎弥は一人の少年から一人の青年に
J.Wは一人の悪人から一人の善人に
颯馬は一匹狼から仲間を手にいれ
それぞれが成長できた物語になったのではないでしょうか?
偶然にもきりのいい20話目で完結できてびっくりです
次回作も考えておりますので「破魔」を越えられる作品を作りますので読んでいただければ光栄です。
「破魔」が皆様の満足のいく作品であればいいなと思います。
あとがきまで丁寧に読んでいただいた皆様に絶大なる愛を…訂正…絶大なる感謝と愛を送ります!!
ありがとうございました!




