6話 1日目の6
「なんの魔法がいいかしら…折角赤い髪にしたんだし、炎系でも使ってみましょう」
使える魔法一覧を開き、選ぶサクラ。
相手は此方が攻撃するまで気付かないのだ。ゆっくりと選べる。
「えっと…『ファイヤアロー』『ファイヤボール』『ファイヤエンチャント』『ファイヤソード』?どれがどういう魔法なのかしら…解説読みましょ」
『ファイヤアロー』
初級火魔法:Lv1:MP3
効果:火で出来た矢を飛ばす。威力は低いが、速い。この魔法で弓用のスキルが一部覚えられる。
『ファイヤボール』
初級火魔法:Lv1:MP8
効果:火で出来た球を飛ばす。着弾地点で小規模の爆発を起こす為、追加ダメージも期待出来るが、ファイヤアローと比べると遅い。
『ファイヤエンチャント』
初級火魔法:Lv1:MP5
効果:他のプレイヤーの武器に火属性を付けられる。火に弱い敵には有効。
『ファイヤソード』
初級火魔法:Lv1:MP5
効果:杖の先端から火の剣を出し、近接武器として使用可能にする。この魔法をかけた杖を使い攻撃した際、剣用のスキルを覚えられる可能性が…
「なるほどねぇ…それじゃあ、これにしましょう。『ファイヤボール』」
魔法の名前を口にした瞬間、杖の先端から、拳大の火球が生まれる。
杖の先端をコボルトに向け、発動!
火球はコボルトの頭と紐で繋がっているかのように、まっすぐ飛んでいく。
コボルトの後頭部に着弾し、爆発!
拳大の火球が一気に直径30センチ程の炎となってコボルトを焼く。
HPバーは半分以上消し飛んだようだ。
「あら、結構威力あるのねぇ…えっと次は…『ファイヤアロー』!」
先端に赤い矢が生まれ、コボルト目掛けて飛んでいく。
こちらを向いたコボルトの額に向けて放ったが、狙いが分かったのか、コボルトが回避。
そしてそのまま突っ込んでくる。結構速い。
涎を辺りに撒き散らしながらナイフを構えて走ってくる、柴犬のような見た目の――但し色は黒っぽい――魔物のその姿は、中々怖い。
「あら、外れ…えっと、もう一回…あら、クールタイム?同じ魔法は連続して使えないのねぇ。なら『ファイヤソード』」
杖の先端に付いた剣を見て、薙刀のようだとサクラは思った。
斜め下に構え、頭と胴をがら空きに見せる。
コボルトのあまり良くない頭脳は、好機と判断に頭に向けてナイフを振り下ろす。
それを下から薙刀で上に弾き、がら空きのコボルトの首を跳ね飛ばす。
「あら?結構弱い…残念ねぇ」
「あの~、一応言っておきますけどね?スライムもコボルトも、この辺りの食物連鎖のあれだと上のほうなんですよ?スライムは物理攻撃が効きにくいし、コボルトは素早いし…」
「核を突いて、水の矢を避けてもう一回で終わったんだがなぁ…」
「あれ、私がコボルト相手に苦戦した日々は…」
「…何か御免ねぇ紅さん。それじゃあフミちゃん、街に戻って料理の準備をしましょうか」
「そうだなぁ、街に帰って、取りあえず食材屋に行って美味しいスープの作り方でも聞けたら良いなぁ」
「料理屋の方が良いかも知れませんね。教えてくれるかは分からないですけど」
「それもそうかねぇ。それじゃあ、帰ろう帰ろう」
――――――――――――
街に帰ってきたら早速、スライムの核のスープを作る為の情報収集をする。
スライムの核のスープはなんと綺麗な青いスープだとか。
味的にはコンソメスープに近いらしい。
スライムが体内に取り込んだ栄養分と魔力の塊が核なのだ。
中に入れる具はニンジン、タマネギなどが一般的で、肉は入れない方が良いらしい。
下手に手を加えると、特に加えずとも整っていた味が崩れる、と言われた。
と言うことで、最初は特に弄らず、シンプルなスライム核スープを作ることに。
落ちる確率は1%あるか無いかレベルの激レア食材なので、大切に使うことにする。
プレイヤー専用作業場に移動、調理場の一つを借りる。
作り方は非常に簡単。
まずは拳大の核を、ビー玉くらいの大きさになるまで砕く。
それを鍋に放り込み、水と一緒に30分程煮込む。
色が綺麗な青になったら、核の欠片を掬い取り、野菜を入れて煮込む。
野菜に箸が簡単に刺さるようになったら完成。
スライム核のスープ
完成度6
説明:スライムの核を煮込んで、野菜を入れただけのシンプルなスープ。基本に忠実に作られている為、十分に美味しい。
色々具材のサンドウィッチ
完成度7
説明:鴨肉をメインにしたサンドや、トマトとレタスのサンド、卵サンドのセット。丁寧に作られており、手軽に美味しく食べられる大きさなのも、製作者の丁寧さが現れている。
スープを煮込んでいる間に、鴨肉を軽く炒めたり野菜を切ったりとして、サラダ代わりにサンドウィッチ大量にを作っておく。
そして、作り終わりテーブルに移動させたので、食べようとした所…
「「「…………」」」
「…どうかしましたかね?」
「あ、いや、その…スープ、売ってくれませんか…?」
「わ、私はそのサンドウィッチ…」
リアルで余り料理をしない人が食料確保をしようとしてたらしい。
目の前には激レア食材を使った料理と、普通の食材ながら美味しそうな料理が。
これは買いたい!と思ってジッと見つめていたらしい。
「フミちゃん、どうするの?」
「売っても良いとは思うけど…紅さん、値段は幾らが良いと思うかね?」
「そうですね…料理店価格で3000Gですから、それを参考にお二人で決めて下さい」
「…1杯2000G、サンドウィッチ各種一個ずつセット500Gで。ただ、量には限りがあるから、ここに居る人以外に『此処でスライム核のスープを売ってくれる人が居た』なんて情報を広めないで欲しい。スレッドに書き込むとしても、『スライム核のスープを売ってくれる人が居た』程度にして欲しい。私達の身体特徴は基本的に書かないこと…まぁ、髪の色位は良いかねぇ?これを守れる人には売りますよ」
そう言い終わった途端紅を含めた三人に殺到するプレイヤー。
スープは10杯、サンドウィッチセットも10セット――10人のプレイヤーが一緒に買っていった――ので、25000Gの儲けとなった。
さて、販売していたので中断していたが、食事だ。
「「「いただきます」」」
スープを飲むことに。
透き通った青いスープを一口、飲む。
見た目に反してとても濃い、コンソメに近い味が口に広がる。
今まで飲んできたスープの中では、一番美味しかった、と三人は思う。
無言でスープを飲み、サンドウィッチを食べる。
どれも美味しく、食事に集中してしまったのだ。
15分後、テーブルに残ったのは空の皿だけだった。