15話 3日目の4
一方、サクラは…
「えっと、これが薬草、これが解毒草、これが毒草…あってるかしら?」
「正解。この3種は基礎の薬作製に必要。よく覚えておいて」
「毒草と薬草の見分けが付きにくいわねぇ…」
「茎の真ん中辺りが赤紫色かどうかで見分けるしかない。そこは頑張って慣れて」
薬草の見分け方を習っていた。今は基本の3種類の分け方である。
「薬草をすり潰して水を足すとHPポーション、解毒草をすり潰して水を足すと解毒剤、毒草をすり潰して水を足すと毒薬、それぞれの一番簡単な奴が出来る」
「そうなの…思ったよりも簡単なのね」
「そうでもない。水の適量を見極めるのが難しい。少しでも多かったり少なかったりすると失敗する。慣れるまでは難しい」
「どれ位誤差があると駄目なの?」
「爪の先に乗るくらいの水滴1滴分」
「あら、厳しいわねぇ」
そんな事を言いながら、色々と話を聞くサクラ。リリムも丁寧に作り方を教えている。因みに、サクラにこの場所を教えたプレイヤーは、ここまで丁寧に教えてもらっていない。胃袋を掴まれると、人間、弱いものである。
「で、作るのに必要な道具…あげる」
製薬道具セット:レア度5
説明:ポーションなどの薬系アイテムを作るのに必要な道具が纏められたセット。これを使って様々なポーションなどを作る。道具のうち1つでも壊れると買いなおす必要がある為、注意。
「あら、良いの?」
「弟子には渡しているから。これが無いと始まらないからね」
「有難うねぇリリムちゃん。それで、最初は何から練習すれば良いかしら」
「普通にHPポーションから。薬草一枚に対して水はセットに入っているコップ半分で」
「半分ね、それでは!」
ゴリゴリと薬草をすり潰し始めるサクラ。
「出来る限り細かく潰して。水は静かに入れるように。混ぜるのもあんまり激しくかき混ぜないで丁寧にやって、ビンに移す際も静かに」
「やる事が多いわねぇ…」
と、愚痴りながらも従う。こういった作業は意外と好きなようで、段々と楽しくなってきたようだ。鼻歌交じりに薬草を潰し、水を足し、混ぜて瓶に移す。
「これで完成、かしら?」
「うん、出来てる出来てる」
HPポーション:レア度2
HP10%回復
説明:もっとも簡単に作ることが出来るポーション。その分回復量は控えめ。回復アイテムにもクールタイムがあるため、ご利用は計画的に。
「これと同じやり方で解毒剤と毒薬も作れる。やってみて」
「えぇ。それじゃあまずは解毒剤から」
ゴリゴリと草を潰し始めるサクラ。毒薬の方を1回失敗したが、両方とも上手く作れたようだ。
解毒剤:レア度2
解毒35%
説明:もっとも簡単に作ることが出来る解毒剤。その分解毒確率は低め。クールタイムがポーションよりも長い為、状態異常解消アイテムは少し高めでも性能の良い物を揃えるのを薦める。
毒薬:レア度2
毒10%
説明:ぶつけた相手を毒状態にする事が出来るが、簡単に作れる為確率は低め。大量に作ってバンバン当てればいつかは状態異常に出来る。ダメージが相手の最大HPの10%分まで続く為、毒状態に出来れば戦闘が楽になる。
「ふぅ、なんとか出来た…」
「思ったよりも飲み込みが早い。じゃあ、次はちょっと難易度の高い奴。MPポーションと回復丸の作り方」
「回復丸?」
「HPとかMPをジワジワ回復できる丸薬。ポーション系とかとは別のクールタイムになるから、併用して使えるよ。作るのが少し難しいから、値段がちょっと高いけど」
「あら、どれ位かしら?」
「HP用で500G、MP用は800G」
「あら、高いわねぇ」
この世界、食材などは安めだが、冒険に必要な物…各種回復アイテムや武具は高めに設定されているようだ。また、街の宿も料理の方が高い。そのことについてサクラが聞くと…
「私たちはこの世界で死んだらそれで終了…ではないけど、貴方達よりも重いペナルティがあるの」
「あら?てっきり貴方達は亡くなったらそれで終わりかと思ってたのだけれど…」
「そうではない。けれど…3ヶ月復活出来ないし、復活しても6ヶ月はステータス半分。所持していたアイテムは消失、防具は大丈夫だけど武器も消失。お金は金庫に入れてたのも含めて4分の1になる」
「それは…」
「私自身が消えないだけ良いけれど、持ってたお金がゴッソリ減るから、素材は所持金が減った人でも買えるように安く売られている。けど、それを使ったアイテムや料理は儲けが出るように高く売られている。宿も泊まる値段よりも料理の値段の方が高いのはこれが理由」
「そうなの…でも、何で貴方達が消えないような設定にされてるのかしら?」
「なんでも、神々…あ、運営の方の1人が、『俺達が1人1人しっかりと名前まで考えて生み出したのに、キャラクターロストなんてさせてたまるか!!』って抗議したとかなんとか」
「ほんと、このゲームってNPCからメタな話が聞けるわねぇ…」
ウルフエンペラーのシンゲツといい、リリムといい、中々製作者側の話が漏れているらしい。
因みに、抗議をした運営の1人に呼応し、『俺達にとっては息子や娘みたいなもんなんだ!』『○○ちゃんは消させないぞ!』『○○は俺の嫁!』などと製作陣や運営が抗議、承認されたとか。リリムは結構運営にも気に入られているらしいが、本当かどうかは分からない。
「…話がけっこう逸れた。作り方に入る…」
「あ、回復丸の作り方だったかしら?」
「あと、MPポーション。次はしっかり教える。MPポーションは、薬草をすり潰したものをブルースライムゼリーの溶かしたやつに混ぜて作る。回復丸は、薬草を乾燥させてからすり潰して、湿らせて団子状に丸めて作る」
「スライムゼリーって、使い道があんまり無いって聞いてたけど?」
「MPポーションの一番簡単な物に使うか、お菓子のゼリーの材料にするかどっちか」
「それって、結構重要よね?」
「まぁ、それ以外は使えないし」
などと薬草やスライムゼリーの使い方について聞きながらも、サクラの作業は止まらない。現実世界でもフミと会話をしながら料理を作ったりしていたため、ながら作業は得意だったりする。回復丸には3回ほど失敗したが、両方とも無事に作れたようだ。
MPポーション:レア度2
MP10%回復
説明:ブルースライムゼリーを使用するためちょっとドロリとしたポーション。回復量は控えめ。回復アイテムにもクールタイムがあるため、ご利用は計画的に。
HP回復丸:レア度3
HP10%回復(所要時間1分)
説明:1分かけてゆっくりとHPを回復するアイテム。ポーション系とは別のクールタイムを必要とするため、併用できるのが強み。しかし、クールタイムが長めなので過信してはいけない。
「ん、ちゃんと出来てる。次は…あ、結構時間が経ってる」
「そうねぇ、もうそろそろフミちゃん達との待ち合わせ場所に行かないと」
6時半、あと30分である。
ここから20分で着くが、早めに到着しておくのが良いだろう、という考えである。集合時間を設定されたら、5分前には到着しておくように行動している。
「そう…また今度、何時でも来て。次は料理を教えて貰う」
「フミちゃんと一緒に来るわねぇ」
手を振りながら、サクラは集合場所に移動する。