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14話  3日目の3

フミは今、金床の前に座り、やっとこでインゴットを挟み熱し、金槌で打ち付ける作業を繰り返している。炉の中で燃える炎の熱気が集中力を奪っていく中、ひたすら鉄を打ち続けているのだ。


(うーん…取り合えず長く伸ばしてみたから、後は上手く形を作っていこうか)


作ろうとしているのは刀だ。自分の持っている刀『無銘』を思い出しながら、必死にやっている。しかし、中々上手くいかない。思った以上に打つたびに形が変わる為、彼が頭に浮かべている形と比べると、とても出来は悪い。修正しようと打てば更に形が変わる為、もはやこれが刀を目指して打っていたとフミ自身判らなくなってきている。


「…失敗、ですね、これは」

「だな。誰だって最初は失敗するぜ。むしろ最初から成功すると思ってなかったからよ、気にすんな」

「まぁ、成功するとは思っていなかったけれど…ここまで難しいとはねぇ」

「まぁ俺もこんなもんだったからなぁ…慣れろ、としか言いようが無いな、これは」


因みに、失敗作の情報はこうなっている。


武器になれなかったモノ:レア度1

Atk3

耐久力10/10

説明:武器を作ろうとし打ち続け、失敗し出来たもの。何を目指して打っていたのかも分からないほどに形が変形しており、武器として使うことは諦めたほうが良い。


「で、爺さんこれからどうする?」

「そうだねぇ…練習したいとは思うけれど、熱中してしまうと抑えられない気がするんだよねぇ…」

「はまったら抜け出せないタイプなのか、あんた…まぁ良いや、暇なのか?この後」

「えぇ、夜7時までは今日は暇ですよ」

「ならよ、セーラと街を回ってきたらどうだ?あいつも最近店の手伝いばっかしてたからよ、息抜きさせようかと思ってたんだよ。プレイヤーの一部の馬鹿な野郎共に1回セクハラされたから1人で出すのは不安だけど、お前なら大丈夫だろ?」


またプレイヤーのマナーの悪さが出てきているのか、と悲しくなるフミ。


「…最近の若い者はマナーを知らないのかねぇ…」

「…多分、ゲームの中だから浮かれているんじゃないか?」

「ゲームの中だろうとマナーは大切だよ。やれやれ…まぁ、案内をしてもらえるならあり難いよ。マップはあるらしいけど、実際に回らないと分からないことは多いだろうしねぇ」

「だよな。んじゃあセーラに話しておくから、ゆっくり回ってこいよ。あと、あいつは甘いものが大好物なんだけどよ、爺さんは大丈夫か?」

「私も甘いものは大好きだよ?うん、サクラの料理の次くらいには」

「惚気かよ…まぁ、甘いものがいけるならあいつと回っても大丈夫だな。よし、ちょっと待ってろ」



――――――――――――



「お爺さーん!こっちですよー!!ここのお菓子が最高に美味しいんです!」

「此処かい?たしかに甘い匂いがするねぇ…」


セーラおすすめのお店がある街の西側にたどり着いた2人。この辺りは小物や衣服などの日常品が多く売られており、そんな中一軒、大きなお菓子屋があった。

『ラタリアーナ』と言う名前のお店で、クレープのような『クリュぺ』とパフェのような『パッフィ』の2つをメインに販売している店だ。その他ケーキやクッキー系のお菓子等を販売しており、アインズで最も人気のあるお菓子屋である。


「クリュぺの一杯果物がのった奴が美味しいんですよ~!」

「果物以外には何がのっているんだい?」

「そうですね…スライムゼリーを溶かして、砂糖や果汁を加えてまたゼリーにした奴とかありますね。あれの冷えたのは美味しいですよ~」

「それは楽しみだねぇ。私も甘いものが好きでね」

「やっぱ甘いものは最高ですよねぇ!」


そんな雑談をしながら店に入る。窓際にはテーブルと椅子が並んでおり、今も多くの客がクリュぺとパッフィ、ケーキやクッキー、ジュースや紅茶を頼んで休憩している。


「いらっしゃいませ!ご注文は?」

「セーラちゃん、君と同じもので」

「え、私と同じ、ですか?じゃあ、ナッシュゼリーとラフィンのクリュぺと、コルフィを2つずつ!」


ラフィンとはレモンのような見た目の果物で、味は桃のような味がするという謎な果物だ。というよりこの世界の果物は味と見た目が噛み合っていない。ナッシュも見た目は林檎、味はグレープフルーツなのだから、ラフィンを謎な果物と言うのは今更だろう。


「クリュぺが2つ、コルフィが2つですね。合計900Gです」

「900Gですね、はい」

「え、私の分は自分で出しますよ?」

「まぁまぁ、ここは案内してくれたお礼と言う事で」

「…有難う、お爺さん」


素直にお礼を言うセーラの頭を軽く撫でた後、店員に料金を渡し、窓際の椅子に座って待つことに。5分ほど雑談をしていると、見た目はフルーツ山盛りのクレープなクリュぺと、白いコップに入ったコルフィを店員さんが持って来る。


「ん~!やっぱこれが一番です!」


そう良いながらクリュぺを食べるセーラはとても可愛い。何人かのプレイヤーがスクリーンショットを撮っている。スクリーンショットを撮るときは、四角い枠がプレイヤーの前に浮かび、それに納まっている光景を撮れるらしい。


「これは美味しいねぇ。ゼリーの部分はグレープフルーツみたいな味でサッパリするし、果物の部分は桃みたいな甘さがあって…」

「今度はサクラさん達も一緒に来ましょうよ!」

「そうだね、サクラも甘いものが好きだから、きっと喜んでくれるよ。紅さんはどうだろうねぇ…?」

「どうなんでしょうねー?」


そう言いながらクリュペを食べ続ける2人。フミ…櫻田章雄の若い頃の姿とほぼ一致したキャラクターは、髪と肌や眼の色、身長以外は基本弄っておらず、顔は完全に変えていないがかなり整っている。そのため、とても可愛いセーラと一緒にクリュペを食べている姿は、絵にして飾りたくなるほどだった、と、スクリーンショットを大量にスレに投下したプレイヤー(ロリコン)は書き込んでいる。

そんな事は全然知らず、クリュペを食べ終えコルフィを飲みながら更に雑談を続ける2人。話しながら身振り手振りも使い、自分がこの世界で体験してきた事を伝えようとするセーラと、それを聞きながら微笑んでいるフミ。追加でケーキなどを頼みながら、2人の雑談は続く。



――――――――――――



セーラの話が全て終わった時、時計を見るともう午後6時を過ぎていた。


「あ、あれ?もうこんな時間!?」

「おや、もうこんな時間か…セーラちゃんを工房まで送って戻れば丁度集合時間かな?」

「ご、御免なさい!もっと案内したいとこ一杯あったのに…」

「また今度、一緒に回ろう。なぁに、年寄りには時間が一杯あるんだよ」


頭を軽く撫でながらそう言う。事実、フミはゲームで進む事を余り考えていない。のんびりやれればそれで良いと考えており、今日のようなのんびりとした日があっても良いと思っている。


「…うん!」

「それじゃあ工房まで一緒に行こうか」

「はーい!…あ、手、繋いでも良い?」

「うん?良いよ」



手を繋いで工房まで行く2人。

そのスクリーンショットを撮ったプレイヤー(ロリコン)の一言。


『あ、俺今日半日ずっとセーラちゃんとこの白髪プレイヤーさんのスクリーンショットしか撮ってねぇや。でも、セーラちゃんが可愛かったから良いか。誰か知らないけどセーラちゃんの笑顔を一杯撮らせてくれたプレイヤーさんサンキュー!』

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