12話 3日目の1
「いっちにっさーんしっ!」
「ごーろっくしっちはち!」
昨日の『ドワーフ娘最強伝説』と後に語られる試合を見た後は特に何も無く終わり、3日目の朝7時に起きた老夫婦。朝食もパパッとすませ、噴水広場前でラジオ体操をしていたのだが…
「こんちわー、俺も参加していいすか?」
「あ、私もー」
「俺も俺も」
「僕もー!」
ラジオ体操という、社会人になるとあまりしなくなる行為を懐かしく思い、参加する人が一杯居たのだ。
その数は50を超え、フミとサクラ、他数名が前に立ち仲良くラジオ体操をしている。ラジオ体操第2の最後までしっかりとやり終え、解散となる。
「また明日もやろうよ!」
「良いねそれー、アインズ朝の恒例行事にしたらどう?」
「考案者はあの2人って事で広めよっかー」
「それ良いねー」
明日の朝もやる事が決定し、それぞれ冒険に出る。フミとサクラは、いつの間にか体操に参加していた紅と共に今日の予定を確認している。
「今日は各自自由行動で良いかな?」
「私はポーションの作り方を教えてもらうわねぇ」
「私も裁縫技術を教えてもらってきますよ!」
「鍛冶を教えて貰う約束をしてたから、私はそっちに行くよ。それじゃあ、夜7時にここに集合で良いかな?」
「分かったわぁ」
「了解です!」
――――――――――――
「おはよう、セーラちゃん」
「あ、おじいさんおはよう!思ったより早かったねー」
「こんな年寄りでも、楽しみがあったら朝早く起きれるんだねぇ」
「そうなんだ?こっち来て!お父さーん、昨日言ってた人来たよー!!」
セーラについて行き、工房の奥に入る。幾つもの金槌や金床が並んでいる中、1人の男が立っている。身長は低いが筋肉に覆われたその身体、立派な髭と、いかにもドワーフといった見た目の男だ。
「おうセーラ、そっちの人がお前の言ってた人か?俺はレギルだ」
「始めまして、フミと言います。セーラちゃんにはおじいさんと呼んでくれと言ってますが、好きなように呼んでください」
「ゲーム内では若いけど実際は老人なんだってな、あんた。じゃあ普通に爺さんって呼ばせてもらうぜ。鍛冶に興味があるんだってな?」
「えぇ、あります」
「セーラが気に入る人ってのは意外と少ないんだ、これが。実際良い人っぽいしな、あんた。最近プレイヤーの中には『武器の作り方を教えろ』って高圧的な奴らが多くてよ」
ここでもマナーの悪さ、と言うよりNPCへの接し方の悪さが目立つようだ。もっと丁寧に頼めないのか、とフミは考える。
「まぁ、そこらへんはどうでも良い。そんな奴らは全員ケツ蹴り飛ばして追い出したしよ。ま、プレイヤーの弟子は爺さんが初って事になるな。てかプレイヤーの鍛冶師自体初だな。鍛冶師仲間でプレイヤーを弟子にとった話は聞いたことねぇし」
「私も聞いたことないなぁ…裁縫系とか薬剤系は多少あるけど、鍛冶はおじいさんが初めてだと思う」
「あれま。では、レギルさんの事は親方って呼んだほうが良いかな?」
「おう、それで良いぜ爺さん。んじゃ、この世界の鍛冶の仕方を教えてやるよ。とりあえずこれやるよ」
鍛冶師の金槌:レア度8
Atk72
説明:頑丈に作られた金槌。『鍛冶師』を持っていれば誰でも使用可能。全ての金属を打てる万能な金槌だが、製造法は謎に包まれている。
「これは…?」
「鍛冶師なら誰でも持っている物だよ。噂によると神々の贈り物と言われているがな。普通は貸し出しする物なんだが、うちは弟子も少ないし、やるよ」
「有難う御座います、親方」
「気にすんな。んで、まずは素材を選ぶ。今回は鉄を使うから、それはやるけど、今度からは自分で鉱石を採って来い。そしたら俺がインゴットに変えてやる」
そう言ったレギルから、今度はインゴットを数個渡される。意外と重いそれを、1度アイテム欄に入れて確認する。
鉄のインゴット:レア度3
説明:貯蔵しやすいように形を整えられた金属塊。これを使い様々な物を作る。
「でだ、外の世界で武器を打つとなると、何日も掛かる事もあるらしいが、こっちじゃ違う。長くても半日あれば武器が1つ出来る。まずはインゴットを炉に入れて熱する。鉱石からインゴットにするのも炉を使うんだがよ、加減が難しいからこっちは俺に任せろ。んで、熱したインゴットを叩く。叩き方1つで武器の性能に差が出るから、そこは慣れだな。んで、冷めたら熱して叩いて冷めたら熱して叩いて…繰り返してりゃ武器が出来る。この各工程1回1回の影響が外の世界よりもかなり大きいらしいんだよ。だから作るのにかかる時間が短けぇ」
「なるほど…難しいところだねぇ」
「だな。まぁおかげで1日に出来る武器が多くて儲けが出るんだから俺としてはありがてぇんだがよ!がっはっは!!」
豪快に笑うレギル。それを見ていると此方も笑みが零れる。
「んで、ここら辺は慣れと勘が重要になってくるんだよ。まぁ1回俺が簡単なナイフ作りを見せてやるよ。これくらいなら30分ありゃ出来るからな」
「本当に速いんだねぇ…では、見学させて頂きます、親方」
「おう、よく見ておけよぉ…っしゃ!」
やっとこでインゴットを挟み、炉に入れて熱し、金槌で叩いていくレギル。炉の中で燃える炎が工房内を暑くしていく中、無言で集中し鍛冶をするその姿は、先程の豪快な笑い方をした人と同じとは思えないほどだ。その作業風景を一瞬も逃すまいと見ているフミも、普段ののんびりとした雰囲気からは想像出来ないほどに真剣である。
加える力や叩く角度、炉に入れる時間などを変えながら真剣に鉄を叩き続けたレギルは、彼が言ったとおり30分程経った時、額の汗を拭いながら立ち上がった。
「ふぅ…中々良い出来の物が打てたぜ。こんなもんだ」
彼の持っているナイフを見てみると…
鉄の重ナイフ:レア度2
Atk22:Agi-3
耐久力100/100
説明:他のものと比べ重く作られたナイフ。ナイフを装備できる職業にとって重要なAgiが減少するがその分Atkが高く、好んで使う人は多い。
「インゴット1つ使えばナイフ系なら余裕で作れる。ある程度の大きさで折って使えばAgi減少効果は無くなるだろうが、そのまま使ってナイフを作ると減少効果が発動する。これはどの武器でもありえるから、どんな武器ならどれくらい金属を使うかも把握しておけ」
「…んー、親方。これの柄とかを無くして棒の先に付ければ槍になったりするかな?」
「…なるにはなるが、木の棒だとどうしても耐久力が低下する。長旅には向かないぞ?」
「そうか…やっぱ槍も主体で使いたいとなると総金属製の方が良いのかな?」
「そうだなぁ、やっぱ全部金属で作った方がAtk的にも耐久力的にも良いが…お前、刀と槍、両方使うのか?」
「出来れば両方。弓は使う予定は無いけどねぇ…」
「…ま、今回はサービスだ。さっきのナイフ、木の棒に括り付けて槍にして、お前にやるよ。重ナイフはこの街だとあまり人気が無いんだよ」
「良いのかい?」
「おうよ。なんせ、初めてのプレイヤーの弟子だからな!ちょっとくらいサービスしても罰は当たらないだろ!」
「色々と有難う御座います、親方。今度、料理という形で御返しするよ」
「お、それは良いな。セーラと俺の嫁さんの分も作ってくれねぇか?」
「それ位なら大丈夫さ。では、私も1つ、やってみようかね」
また投稿間隔が開いてしまいました…今後も投稿が不安定な状態が続くと思います。
申し訳ありません…
追記:鉄のインゴットの説明を一部変えました。
これを使い武器を作る。 → これを使い様々な物を作る。




