10話 2日目の3
トラック程の大きさの黒い狼が、フミ達3人の前に現れた。急いでステータスを確認してみる3人。
ウルフエンペラー:Lv146 状態:激怒
説明:ウルフロードの中でも最強の存在に付けられる名前。とても怒っており、怒りの原因を探し治まらせない限りは暴れ続けるでしょう。
「Lv146ってなんじゃそりゃあああああああ!!!」
紅の叫びは、フミとサクラの思いでもあった。146と言う普通のゲームならカンストしている数値も、何故そんな化け物がこんな所に、という気持ちもある。だが、フミはすぐに怒っている原因を思いつく。
『わん!』
自分の両腕に収まっているこの子狼だ。この子を探していたのだろう。そう思いついたら、あとは行動あるのみである。
「…君の親かい?」
『わん!』
「多分そうなんだろうね。ほら、親が心配しているから、行きなさい」
そう言って狼を放す。親も子供が帰ってくればきっと帰るだろうと思ったのだ。実際、フミが子狼を放したら唸るのを止めたのだ。だが…
『わん!わぅうん!』
「ほら、早く行きなさい。親が待っているよ?」
『わんわん!わぉん!』
子狼が離れないのだ。ずっとフミの周りをグルグルと回って吠えており、親のところへ行く気配は無い。それどころかフミから離れたくない、と言いたいのか親に向かって唸り始める。そうこうしていると…
『…そこの人間の雄、頼みがある』
「え、喋れたの?」
『そこは今はどうでも良い。我が子がお前の事を気に入ったようだ。我が子の世話を頼んでも良いか?』
漆黒の大狼がなんと喋ったのである。意外と渋い声で。
「そうしても良いなら…と言いたい所なんですがね、職業上無理なんですよ」
『…そうか、お前がこの世界の人間共が言う『外の人』という奴らなのか。『スレッド』とやらを見た事はあるが、お前達が噂の…」
「え、狼も見れるんですか?」
『ボス、と呼ばれる存在だけだがな。でだ、お前みたいな奴らでも仲間に出来るようにする道具と言うものを私は神々から授けられているのだ。お前達の言葉で『運営』と言うらしいな』
「なんとメタな…」
そんなメタな話が、よっぽど先に進まないと会えないだろう敵のボス、しかも人型でなく狼のモンスターから聞くことになると、誰が想像出来るだろうか?
『で、お前でも我が子の面倒を、お前が良ければ見ることも可能なのだが、どうだ?』
「ちょっと相談しても良いですかね?仲間にも迷惑をかけるかもしれないので」
『まぁ良いだろう。しかし急げよ。我の姿をお前達以外の人間が見たら、面倒事に発展する』
「それもそうですよねぇ…では」
いまだに固まっている2人のところへと駆け寄り、相談することに。
「おーい、どうするかね?」
「あ、えぇっとフミちゃん。大丈夫?悪いことされてない?」
「いや大丈夫だよ、サクラ。紅さんは?」
「え、あ、はい!あぁっと掲示板に書いたほうが良いですかねこれ!?」
『それは止めてくれ。というか、信じてもらえないぞ』
「SSを取れば良いんです!」
『どちらにしろ止めてもらえるか?目立つのは面倒だ』
「だそうだ。で、あの子狼を受け入れるかどうかなんだけど…」
「私はフミちゃんに任せるわ」
「私もおじいさんがそうしたいならそれでも良いと思いますよ?でもテイマーなんて職業居たかなぁ…あ、10人位がテイマーになれたってスレが合ったような…」
「じゃあ受け入れよう。うん、その方向で。狼さんもそれで良いかね?」
『狼さんは止めろ。私はこう見えてもウルフエンペラーのシンゲツと言うのだ。まぁ、シンゲツという名前はお前らには知られないだろうがな』
「えっと、じゃあシンゲツさん。私はその子の世話をするよ。懐いてくれてるし、貴方も良いと言ってくれたからね」
『感謝するなら我が子に言え。あの子がお前達を庇ってくれなければすり潰して虫の餌に変えていた所だったぞ。お前達が人間の罠から解放し、傷を癒し、飯もくれたから、と』
フミが子狼を見ると、『わん!』となく子狼が。どうやら救われたらしい。頭を撫でてあげると嬉しそうに目を細め、顔を擦り付けてくる。
「えっと、で、その道具とやらは?」
『そうだったな。これだ』
どこから取り出したのか、ネックレスを地面に置くシンゲツ。それをフミは手に取り、アイテムボックスの装備欄で確認する。
狼帝の首飾り:レア度10
Def10 Agi5
耐久300/300
説明:ウルフエンペラーが認めた人物に送られる首飾り。装飾品としての性能は最上級で、この装備を付けている間は動物系のモンスターのテイムが可能となる。最大で3匹まで可能。また、装備している間は装備者に対して友好的な動物の話していることが分かる。
素早さも上がる事も驚きだが、自分の付けている防具よりもDef数値が高いこと、そしてレア度に驚く。
『それをしていれば、獣のモンスターならテイム出来るようになる。我が子に試してみろ』
「あ、はい。えっと、『テイム』」
『ウルフロードLv1をテイムしました。名前を付けてください』
「名前かぁ…黒いし親がシンゲツだから、夜に関係する名前が良いかね?月光でどうだろうか?」
『月光、か。良い名前だと我は思うぞ、我が子よ、いや、月光よ、どう思う?』
『良い名前だと思うよ、ご主人!名前を付けてくれて有難う!』
「うぉ!?あ、この首飾りの効果か」
『はい!ご主人のおかげで私は生きられます。本当に有難う御座います!』
「うーん…ご主人、って言うのは止めてもらえないかな?おじいさん、で良いよ」
『は、はい!おじいさん!』
『うむ、我が子を、月光を頼む。では、我は縄張りに帰らせてもらおう』
「それじゃあまた会えたら」
『お父さん、またねー!』
『元気でな、月光よ』
そういうとシンゲツは来た道を猛スピードで戻る。手を振っていたフミは、彼の姿が完全に見えなくなった後、月光に向かってある事を聞く。
「ねぇ月光、君は雄か雌かどっちだい?声が高く聞こえるけど、年齢からして声変わりしていない可能性もあるからね」
『私は雌です』
「おや、じゃあ月光ちゃんって呼んだほうが良いかい?」
『月光で大丈夫ですよ、おじいさん!』
「そうか、じゃあ、今後宜しくね、月光」
『はい、こちらこそ宜しくお願いします、おじいさん!』




