表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

仲良し隣国と孤独な少女

隣国、とは基本的に仲が悪いものです。

私の母国、モフロも、隣国と良好な関係とは言えませんでした。学校ではよく反隣国の主張を耳にしたものです。


しかし、私が今から訪れようとしている国、

スワラル王国とフィノラディア王国はあまり大きな国とはいえないものの、長年友好な関係を保っていることで有名です。


国境地帯を飛んでいると、町でパレードのような催しがやっているのを見えました。

何かの記念日だったのでしょうか?

降りてみましょう


町の入り口はなんと国境を跨いでありました。私は今片足はスワラル、もう片足はフィノラディアを踏んでいるのです。

これはとても驚きました。戦争が日常に存在する世界で、国境警備もなく、解放しているとは…

みんなこんな関係であったなら、あんな悲劇の連鎖はおきなかったでしょうに。


町を入ると、どうやらお祭りの最中だったそうで、祭りの名は「同盟100周年記念祭」とのこと。


祭りでは出店が多くならんでおり、音楽を演奏したり、踊ったりする人がいて、楽しそうな雰囲気です。


「そこの美人の魔女さん!スワラル名物の甘いパンだよ!」


スワラル側の商人に呼び止められました。美人と呼ばれると悪い気はしませんね~。

すると反対側から声しました。

「いやいや、魔女さん!うちのフィノラディア名物の甘いパンの方がいいよ!名産のフルーツをふんだんに使っていて、肌にも良いよ!」


「おい!フィノラディア!邪魔すんな!」

「いやいや、邪魔しているのはあんたでしょ!そっちの硬いだけのパンなんかより、うちのみずみずしいパンの方が若い娘はいいのよ!」

「なんだと!そっちはフルーツ頼みじゃねぇか!

うちは素材で勝負しているんだ!」


あらら、私を放って喧嘩を始めてしまいました。

実はあんまり仲がよくないのでしょうか?


「「んで、魔女さんはどっちを選ぶんだ?」」


話が戻ってきてしまいました。こうなったら選択肢は一つしかありません。


「どっちもいただきます…」


私のかわいらしい胃袋では明らかに多い量を買ってしまいました。後ろでなぜか喧嘩していたはずの両者がハイタッチをしている音が聞こえましたが、勘違いと思い込んでおきましょう…



出店を見てみると、人形や仮面など子供向けのものが多いですね。もはや19歳の私には縁が無いものでしょう。


そう思っていると、1つのぬいぐるみが目に止まりました。

それは私が幼い頃好きだった絵本に登場する熊のぬいぐるみでした。


おもちゃやさんの店頭に置いていて、とても欲しかったけど、家が裕福ではなかったから、なかなかおねだりできなかったのを覚えています。


今考えると、絵本を買い与えてくれて、学校に通わしてくれた時点でそこまでの貧困家庭ではなかったのですが、当時の私はどこか遠慮していたのかもしれません。


気づけばその熊を買っていました。よく見るとありふれたデザインで、19歳の私から見てももっと「可愛い」ものがあったように思いましたが、私にとってはこの熊こそが一番「可愛くて」一番良いものなのです。


熊のぬいぐるみを撫でながら、歩いていると、どこからか少女の泣き声が聞こえてきました。


泣き声の元を辿ると、小さな女の子が体育座りをして泣いていました。

ここはお姉さんとして対応するのが筋でしょう


「君、どうしたの?お名前は?お母さんとはぐれちゃった?」

私が優しい声で話しかけると、女の子は顔を上げて話し始めました。

「お母さんは去年死んじゃいました。私の名前はジェムっていいます。」


どうやら地雷を踏んでしまったかもしれません。

どうしましょう。

ジェムちゃんはまた泣き出してしまいました。

「去年までずっとみんながいたのに、今はいないの。周りの人は優しくしてくれるけど、なんだか私を避けてるみたいで…もうみんなから嫌われているんだと思うの…」


最近のちびっこはこんな流暢に話せるのか、と少し感心しましてしまいましたが、これは困りました。流石に放置もできませんしね。

こんなことは子供騙しのようでしたくなかったのですが…


「こんにちは、ジェムちゃん。僕は熊のトムだよ。君は1人じゃない。僕がいるよ。お母さんの代わりにはなれないけど、側にいることはできるんだよ」


物を自由に操る魔法で、熊のぬいぐるみを動かしておしゃべりさせてみました。


女の子はとても驚いた顔をして言いました。

「熊さんが喋った!お姉ちゃん、魔法が使えるの!?」


こんな驚いてくれると魔女冥利に尽きますね。


「そのぬいぐるみはジェムちゃんにあげます。

私は旅人だからずっとあなたの側にいてあげることができませんが、この熊ちゃんは側にいてあげることができます。」


少女の顔はパアッと明るくなりました。


「いいの!?でもお姉ちゃんは熊ちゃんをあげちゃっていいの?」


私はフッと笑いました。

「私は大人の『お姉さん』ですよ?この熊ちゃんも君のような輝かしい人間にいた方が幸せです。

もし、この熊ちゃんが君の人生に不要になれば、忘れてください。ほら、向こうでみんなが踊っていますよ。一緒に行きましょう。」


少女は言っている意味がよく分からず、ポカンとしていました。


踊りの集まりはどうやらこの2ヶ国で伝わる民族の踊りのようで、振り付けは当然知りませんが、皆さん受け入れてくれて、とても盛り上がりました。


そろそろ遅く時間になり、子供は家に帰る時間になりました。


「君の家はどこですか?送ってあげましょう。」


と言っていると、

「ジェムちゃん!ジェムちゃん!こんなところにいたの!?探したのよ!?」


向こうから中年の男女がやってきました。

保護者でしょうか?ジェムはそっちに駆け寄ってきました。


「おじちゃん!おばちゃん!」


なるほど、彼らがジェムちゃんの保護者のようですね。

もう私は用済みでしょう。


「そちらの女性は?」

「魔女さん!私と一緒に遊んでくれたの!」


おばちゃん、と呼ばれていた女性が私に声をかけてきました。

「魔女様、うちのジェムと遊んでくださり、ありがとうございました。よければ泊まっていってください。」


宿屋も探していませんでしたし、渡りに船の提案ですね。お世話になりましょう。


夕飯とお風呂をいただき、ジェムが眠りについたあと、彼らにリビングで酒を交えてお話しました。


ジェムの両親は去年、事故で亡くなり、叔父の夫婦が引き取ったこと。

周囲では腫れ物扱いされていて、辛い思いをしていること。


を教えてくれました。


「ですから、きっと魔女様と遊んだのはきっと彼女にとって久しぶりに思い切り遊べた相手だったと思うのです。私たちは衣食住は提供できますが、心の壁は…ね?」


(なんだ、全然みんなから嫌われてないじゃないですか。熊ちゃんの役目は案外すぐ終わりそうですね)


翌朝、私はジェムちゃんが起きる前に旅立ちました。私は旅人。必要以上に他人の人生に干渉するつもりはありません。


可憐で、儚き少女の未来に幸あれ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ