第2話:初めての大ゲンカ!?ー①
今日は久しぶりにルカに会える日。
灯里はドキドキしながらルカが来るのを待っていた。
いつものように窓からふわりとルカがやってくる。
しかし、様子がいつもと違う。怪訝に思って見つめる灯里に、ルカが口を開く。
「えーっと。実は……キューピッドの仕事が終わることになっちゃって……」
「え! なんで?」
「トラブルが多すぎて、元の仕事に戻った方がいいって話になったんだ」
ルカは目を伏せ、少し気まずそうにしていた。
どうやら、契約相手がことごとくルカ本人を好きになり、サポートは全然成功しなかったらしい。
灯里も含め、一人もまともに成就していないとのことだった。
「元の仕事って……?」
「天国の受付業務! 意外とお年寄りから評判いいんだよ!」
ルカはいつもの軽い調子で答えるが、灯里は嫌な予感を覚え、問いかける。
「元の仕事に戻っても、こっちに来れるんだよね……?」
「えっと……」
ルカは目を逸らす。
「来れなくはないけど、今までみたいに簡単には……」
その言葉に、灯里は胸がギュッと締め付けられ、息ができなくなる。
「そんなの、話が違うよ!ずっと一緒にいようって言ってたのに……」
灯里は手を握りしめ、声を震わせながら言う。
「ごめん。僕も予想外のことだったから……」
「ひどいよ。元々もっと普通に会えると思ってたのに! 連絡も全然マメじゃないし、会えたとしてもすぐ帰っちゃうし……」
言葉にした途端、胸の奥に押し込めていた寂しさが込み上げてくる。涙がこぼれそうになるのを必死で堪えながら、それでも気持ちをわかってほしくて言葉を続けた。
「なんか最近、ルカと全然噛み合わなくて……
一緒にいても安心できないし……楽しくないよ……」
灯里の本音を初めて聞いたルカは驚きを隠せないでいた。
灯里は些細な愚痴のつもりだったが、ルカにはどこか突き放されているようにも聞こえた。
「……そんな風に思ってたんだ……」
ルカはしばらく黙ったまま、灯里の目をじっと見つめる。
「それにルカは……会えなくても全然平気そうだもん!」
ずっと思っていた一番の不満をぶつける。
声には怒りと不安が入り混じる。
「それは……そんなことないよ」
ルカは視線を逸らし、どこか後ろめたそうに見えた。
そのわずかな仕草を見て、灯里の胸に冷たいものが広がる。
「……嘘。絶対そう思ってるんでしょ」
声は震え、強がっているのに涙が滲みそうになる。
胸の奥で“やっぱり”という言葉が響く。
自分とルカでは、気持ちの重さが違うんだ――。
「これ以上、会えなくなったたら……」
胸の奥に黒い想像が広がる。
(ルカ、私のことなんて忘れちゃうんじゃ……)
怖くてそれ以上は口には出来ず、灯里は言葉を詰まらせる。
しばし沈黙の後、ルカが不意に口を開いた。
「……会えないんだったら……別れた方がいいってこと?」
「違うよ、そういう意味じゃなくて……」
灯里はそう言いかけて、ルカの顔を見て息を飲む。
普段の柔らかい表情は跡形もなく、まるで他人を見るような冷めた視線だった。
その表情と言葉に、胸の奥が一瞬で凍りつき、息が止まりそうになる。
ちゃんと話し合いたかっただけなのに。
見放された気がして、ショックでそれ以上何も言い返せなかった。
ルカはそんな灯里から目を逸らし、少し寂しそうに笑って窓の方へ歩く。
「これからどうしたいかは、灯里が決めていいよ」
灯里は怖くてルカの顔が見れなかった。俯いたまま尋ねる。
「……待ってよ!……ルカは……ルカはどう思ってるの……?」
「……僕は……別にいいよ。灯里に任せる」
ルカは、灯里に背を向けたままそう言うと、ふわりと飛び立っていった。
◇ ◇ ◇
翌日、学校。
「灯里、今日は更に死んでるね……」
机に突っ伏す灯里を、友達が心配そうに囲む。
声をかけられても反応は鈍く、まぶたは重くて上がらない。
「灯里、やっぱカラオケ行こうよ! テンション上げてこ!」
「無理……今はそんな気分になれない……」
かすれた声でそう答えるだけで精一杯だった。
胸の奥にはまだ、昨夜の言葉が鋭く突き刺さったまま抜けない。
ーー「僕は……別にいいよ。灯里に任せる」
背を向けられたままの声。振り返らないその姿に、表情は見えなかった。
けれど、ほんの少し前に向けられたあの冷めた目と重ねてしまい、息が苦しくなる。
ルカは別にどっちでもいいって感じだった。
ルカにとって私は、今まで付き合ってきたたくさんの中のひとりにすぎないんだ。
私と別れても、また新しい人と付き合って、私のことなんてすぐに忘れちゃうのかも……。
これからあまり会えなくなることより、その想像の方がずっと恐ろしくて。
ショックで、何も手につかず、ただ時間だけが過ぎていった。




