第1話:天使の彼氏の恋愛遍歴ー①(表紙イラストあり)
「……久しぶり」
その日、灯里の部屋には久しぶりにルカの姿があった。天界と人間界の遠距離恋愛の中で、こうして会えるのは貴重な時間だ。
灯里の声にルカは柔らかく微笑む。
「……やっと会えたね」
その手がそっと灯里の頬に触れると、胸の奥がぎゅっと熱くなる。
ルカは天界から来た天使。
“推しにそっくりなキューピッドが通販で届いた”――そんなとんでもない出会いがきっかけで、いつの間にか惹かれ合い、今は恋人同士になっていた。
(やっぱりいつまで経っても慣れないよ……
ルカの手で触れられるだけで、どうしようもなくドキドキする……)
灯里が赤くなって顔を背けると、ルカは目を細めて嬉しそうに笑った。
「はは、照れすぎだよ」
ルカは灯里の顎を軽く持ち上げ、顔を逸らせないようにしてじっと見つめる。
「もう! からかわないでって、いつも言って……」
灯里が言い返そうとした瞬間——ルカは勢いよく体を寄せ、灯里を軽く押し倒した。
驚きで目を見開き、頭が真っ白になる。
(え?? これって……)
ルカは灯里の上に覆い被さり、顔を近づける。
「ほんと、灯里ってかわいいな……」
その唇が触れそうになる――が
「ス、ストーーープっ!」
灯里は慌てて手を伸ばしてルカの胸を押し返す。
「え?」
灯里の拒否の姿勢に、ルカは驚いて体を起こす。
灯里はルカの急な”恋人モード全開”に、完全にパニックになっていた。
「な、何これ……急すぎるよ! 友達の時とは全然違うじゃん!」
ルカの体が離れたので、灯里も慌てて体を起こし、必死で距離を取る。
しかし、そんな灯里の様子にルカはきょとんと首を傾げて答える。
「そう? 付き合ってるんだし、普通じゃないの?……灯里はこういうの嫌なの?」
「いや、嫌っていうか……気持ちが追いつかないんだって!」
(キスくらいならあるかなって思ってたけど……こんなの急展開すぎる!)
灯里の言葉を聞き、ルカは少し考えるような素振りを見せる。
「そうなんだ。今までの子は、みんなそうしてほしいって言ってたから、そういうものかと思ってたよ」
「え、今までって……! ちょっと待って! ルカが好きになったの、私が初めてなんだよね!?」
「うん。”僕が”好きになったのは灯里が初めてだよ。
ただ”僕を”好きになった子が、その前にいっぱいいたってだけで」
にっこり笑顔で平然と言い返すルカに、思わず声を荒げる。
「何それ!?」
付き合って早々、天界と人間界の遠距離恋愛。
しかも、「天界は電波が入りにくい」とか言って連絡はマメじゃないし、会いに来てもこんな調子で気持ちを逆なでする。全然安心できるお付き合いじゃない。
(ありえない……! 同じ“恋愛初心者”だと思ってたのに……)
(“いっぱい”って、どのくらい? 五人? 十人?……まさかもっと!?)
頭の中で勝手に人数を数えだして、ますます混乱していく。
そんな灯里の様子に気づいたルカが、のんきに声をかけてくる。
「そんなに怒らないでよ。灯里が嫌がることは、もうしないから」
「っていうか話が違うよ!」
「嘘はついてないと思うんだけど……?」
話が噛み合わず、灯里は混乱したまま。
「そんなことよりさ……」
ルカがまた灯里に近づこうとしたので、思わず手を伸ばして距離を取る。
「ちょっと今は無理! 情報量が多すぎて整理できない!!」
灯里は頭の中がぐるぐるしていて、どう反応していいかわからない。
そんな様子を見て、ルカが小さくつぶやく。
「……そんなに嫌だったの?」
でもその声は、混乱中の灯里の耳には届かなかった。
◇ ◇ ◇
「あ、そろそろ戻らないと」
「え、もう?」
「今の契約者さんの所を抜けてきたから」
灯里とのキューピッド契約は終了し、今は別の人の担当になっている。
時々、こうして隙間時間で会いに来てくれるが、以前のようにずっと一緒というわけにはいかない。
「ごめん、また連絡するから」
ルカはいつもの調子で笑って、ふわりと羽を広げ飛び去っていった。
その背中が遠ざかるのを見送りながら、灯里の胸の奥に冷たい風が吹き込む。
(思ってたより全然会えないんだな……それにルカ、全然寂しそうに見えない。
私だけ、こんな気にしてるのかな……)
取り残された部屋で、灯里はため息をついた。




