寝待月
今日は金曜日。学校に登校する最終日ということもあり、皆放課後が待ち遠しいようだ。
今日も僕の放課後はアルバイト。良樹とシフトが一緒だ。そしてその良樹と一緒に下校しているところだった。
「お前、今週日曜日休みだっけ?」
「うん。そうだよでも休日のバイトはめんどうだよ」
「ハッハハハ違いないな」
自転車を押しながら、歩きで帰っている良樹と歩幅を合わせて会話をしていると十字路が見えてきた。
「じゃあ俺こっちだから。またコンビニで」
「あぁ、またな」
良樹は十字路を右に曲がるとそのまま歩いていった。
僕も家に帰るために十字路を直進する。そして自転車に乗ろうとした時、僕の視界が暗闇に閉ざされた。
「だ〜れだ?」
後ろからソプラノ声を無理矢理低くしたような声がした。恐らく手で僕の視界を塞いでいるんだろう。
だが僕はこんなことをするような人は一人しか心当たりがなかった。
「日暮さん?」
「当たり〜!!」
僕の視界を覆っていた手が離れた。後ろを振り返ると嬉しそうに笑う日暮さんの姿があった。
「珍しいね。帰り道で声かけてくるなんて」
「たまたま光輝くんが見えたから、後をつけてみました」
「ははっそっか。途中まで一緒に帰る?どうせ帰る方向一緒でしょ」
「いいねぇ〜」
僕は自転車を押して、日暮さんと歩幅を合わせる。さっきまで一緒に帰っていた良樹とは違って、日暮さんの歩き方はどこかゆっくりで歩幅も小さく感じた。
「日暮さんって帰ったら何してるの?」
「うーん寝てるかな。家に帰ってもひたすら眠るだけ」
「あー学校疲れるからね。僕もバイトない日とか寝ちゃうし」
「光輝くんも疲れるんだ。男の子だから体力あると思ってたけど」
「あはは・・・・・・体力あんまりないんだ。それにアルバイトも結構疲れるんだよ」
「へーやっぱり今度働いてる様子見に行こうかな。サボってないか」
「やめてよ。今日とかは良樹いるし学校で噂されちゃうよ」
「学校で噂されたら何かまずいの?」
日暮さんの一言に僕の頭は思考を停止した。脈が早くなるのがわかり、胸が熱くなった。
「あ、私こっちだから、じゃあね光輝くん。昨日と同じ時間に待ってるね」
日暮さんは二手に別れた道を左に曲がっていった。僕は手を振る日暮さんに手を振りかえした。顔を真っ赤にしながら。
しかし、日暮さんと話をしていて何か違和感があったような気がした。気のせいだろうか。
その後、僕はアルバイトに向かい良樹とレジ対応やら品出しやら、ゴミ捨てなどを行い時間はあっという間に過ぎていった。
そしてバイト中に気がついた。日暮さんが僕への呼び方が違う。名字呼びじゃなくなっている。
バイトの制服から私服に着替えながら、今夜どう日暮さんと話せばいいんだと考えていた。こんなことなら気がつかなければよかった。
「お疲れ様でした」
コンビニから出るともう月が出ていた。時刻は二十一時、外も冷え込む季節になってきたのか少し肌寒い。
僕はコンビニの駐輪場に停めてあった自転車に跨ろうとすると。
「だーれだ?」
不意に視界が塞がれ、聞き慣れた声が後ろから聞こえてくる。目元を冷たい手のような感覚が包む。
「え?日暮・・・・・・さん!?」
「あったりー!!」
視界を塞いでいた冷たい手が離れたため、後ろを見ると寒さで頬を赤くした日暮さんが笑っていた。
「え?なんでいるの?」
「一緒に帰りながら月見でもしようと思って。別に東條くんとかほかのクラスの人にも見られてないし大丈夫でしょ?」
「う、うんそうだけど・・・・・・早く帰ろうか」
「うんうん、早く帰ろう〜」
なぜか日暮さんのテンションは高かった。夜だから日暮さんも気分が上がっているのだろうか。
放課後と同じように自転車を押しながら、日暮さんと歩幅を合わせてゆっくりと歩く。なぜだろう放課後の時よりも、日暮さんと話している時間が長く感じる。
昨日よりも闇がかかった月の光が僕たちを照らす。今夜は寝待月。月の出が遅い月らしい。
「光輝くんはさぁ、将来の夢とかある?」
「将来の夢?うーん・・・・・・特にないかな。これから決めていけばいいかなって思ってる」
「ふーんそうなんだ。コンビニに就職すると思ってた」
「今のオーナーはいい人だけど、親に大学行けって言われてるし来年には勉強に集中したいからやめるよ」
「やめちゃうんだ。寂しいね」
少しガッカリする日暮さんを見て、僕はハッとした。アルバイトを辞めたら日暮さんと夜に月を一緒に見る動機がなくなってしまう。
「大丈夫だよ。アルバイトやめても毎日お月見しに行くから」
「フフッ。私を照らしてくれる太陽なんだもんね」
「うっ!!」
昨日自分で吐いた恥ずかしいセリフが心に突き刺さる。今思い出すと恥ずかしいことを言ってしまった。
それからも日暮さんと話しながら道をゆっくりと歩いた。鈴虫の声が周りに響き、少し冷たい夜風が吹く。しかし僕にはさほど気になることでもなかった。
なぜなら日暮さんと一緒にいられることが楽しいからだ。そんなたわいもない話をしていたら、いつもの河川敷にたどり着いていた。
時刻は二十一時五十分。もう少し話していたいが、これ以上遅くなるわけにはいかない。
「もうこんな時間か、時間が経つのは早いね。じゃあ私こっちだからバイバイ光輝くん」
また下の名前で呼んだ。この帰り道なぜ呼び名を変えたのか日暮さんに聞くことはできなかった。
できなかったが今、彼女に言葉を返すとしたらこう返すの正解なのだろう。
「うん、また明日茜さん」
茜さんは一瞬目を丸くしたが、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべる。そして満面の笑みで僕に大きく手を振って歩いていった。
僕も手を振りかえしながら、彼女を見送る。家に着くとこの嬉しさを抑えながら僕はゆっくりと眠りについた。




