十六夜月
昨日の夜から半日が過ぎた。時刻は朝の十時。授業合間の休み時間。僕は学校の机に突っ伏していた。昨日の日暮さんの笑顔が頭から離れない。顔を合わせづらい。
「どうしたんだよ〜光輝」
そんな僕の気持ちを知る由もなく身体をゆすりながら聞き慣れた声が聞こえてきた。僕は顔を上げてみると同じクラスの友達であり、バイト仲間である東條良樹の姿があった。
衣替え前のワイシャツの第一ボタンを開けたラフな格好に耳にはピアスの穴を塞がったような跡が見えるが本人は隠す気もないのか髪も短く切り揃えられている。
「うーん寝不足というか・・・・・・悩んでるっていうか」
「友達がその悩み聞いてやろうか?」
「お前に相談してもまともな答えが返ってこないからやだ」
「冷たいなぁ〜バイト仲間兼友達だろうぉ〜は〜な〜せ〜よ〜」
良樹は僕の身体を揺らしてダル絡みしてくるが、僕はそんな気分になれなかった。
すると教室のドアが開く音がした。前のドアから数名の女子グループが入ってきた。その中には昨夜会った日暮茜がいた。楽しそうに女子友達と話して笑い合っている。僕には目もくれない。
そんな姿を見て昨日の出来事は夢だったのかと思っていると僕の視線の先に気がついたのか良樹はニンマリと笑みを見せていた。
「なんだぁお前、日暮さんに気があるのか」
突然の一言に僕は顔を真っ赤にして良樹を払いのけた。
「ち、違う。そんなじゃないから!!」
そんな僕の様子を見て良樹はまたニンマリと笑みを浮かべると僕の肩に手を回し耳の近くで囁くように耳打ちした。
「彼女競争率高いからやめた方がいいぞ。噂では男をからかって振ったことがあるとか」
良樹の言葉に僕はハッとした。僕もからかわれているのではないか。今夜月見をしようという約束も僕をからかうための嘘なのか。そんな不安が僕を包み、夜にあの場所にいこうか躊躇わせた。
そうこうしているうちに時間は過ぎた。アルバイトが終わり帰路に着く。そして帰り道の河川敷まできてしまう。躊躇いながらも僕は来ることを選んでしまった。
いなかったらそのまま帰ろう。そう思っていた。しかしそれは杞憂に終わった。なぜなら彼女は昨日と同じ場所に座って月を見ていたからだ。
「あ、来た・・・・・・おーい羽瀬くーん」
僕に気づいて手を振る彼女に、僕は安堵の表情を浮かべると自転車を停めて彼女の隣に座った。
「本当に来るとは思ってなかった」
僕の心を読んだように彼女から言葉が出た。僕は驚いたような表情を浮かべると彼女は笑みを見せた。
「月見なんて付き合ってくれるとは思わなかった」
「日暮さんの方から誘ったんでしょ」
僕は平静を装いつつも顔を見られないように月を見上げる。今夜の月は三日月の部分が黒くなり、少し満月が欠けているように見える。
黒い雲に隠れながらも月は煌々と輝いていた。いやそれは違うか。月は太陽の反射で輝いてるから月は輝いていないのか。
そんなことを思っていると沈黙を破るように日暮さんが口を開いた。
「今日東條くんと何の話してたの?」
「・・・・・・世間話」
「アハハハッ何それ」
話の内容を知られたくないからか適当に誤魔化すと日暮さんは笑っていた。この話が続くとまずいと感じた僕は日暮さんに聞き返す。
「日暮さんこそ何の話してたの?」
「占いの話。誕生日占い、流行ってるんだ」
「へー日暮さん誕生日いつなの?」
僕は特に深いことを考えず話の流れでつい聞いてしまった。
「九月九日」
「へー・・・・・・九月九日!?今日じゃん!!」
「今日で十七歳になりました〜」
両手でVサインを作り気怠そうに見せつける彼女に僕は呆然としていた。
「誕生日おめでとう・・・・・・じゃあ今日友達に祝ってもらえたんだ。よかったね」
「ううん。祝ってもらえてないよ」
「え?」
僕は言葉の意味を理解できず思考が一瞬停止した。そして彼女の方に顔を向けるが彼女は月を眺めながら楽しそな表情を浮かべていた。
「十月六日って嘘ついたから」
「え?な、なんで!?」
彼女の発言に僕はただ疑問をぶつけることしかできない。彼女の考えの意図を汲み取ることは難しい。
「今年の十五夜だし、満月が一番好きだから」
「そ、そうなんだ」
納得したようなしないような、疑問が解決してよかったようなそんな複雑な気持ちになっているとあることに気がついた。
「あれじゃあ日暮さん誰からも祝われてないの?」
「うん。私親が海外に転勤してるから誰も祝ってくれてないね」
彼女の言葉を聞いて僕はある決心をした。そしてその考えを口に出す。
「じゃあ僕が祝うよ。明日プレゼント持ってくるから、またここでお月見しよう!!」
「え!?」
僕の言葉に彼女は面食らったような表情をして僕の顔を見るが僕の決心は固かった。
「じゃあまた明日、同じ時間にここで待ってて。じゃあ」
「え、いやプレゼントとかいいから・・・・・・」
彼女の言葉を最後まで聞かず僕は自転車に乗ると急いで家に帰った。
そして家に帰った後日暮さんを一人で置いてきてしまったことに気が付き、明日謝ろうと思うのであった。




