小望月
あの夜から一日が経った。いつも通りに学校に行き、放課後にバイトに行って働く。そんないつもと変わらない一日だった。
なのに何故だろう。今日の夜、何か大きく運命が動くような気がする。
昨日茜さんが言っていた話したいことと言うことが気になって頭から離れなかった。
学校にいる時も、バイトをしている時も胸の高鳴りは収まることを知らずに僕の心の緊張を高めていた。
そしてバイトが終わり、いつもの帰り道を自転車を漕いで走る。
川にかかった橋を渡ると道を曲がり、見慣れた河川敷の道を自転車で走り抜ける。
すると河川敷の道の端に腰を掛け座っている女性がいた。サラサラとした綺麗な黒髪に月明かりで焼けてしまいそうな白い肌、三日月の髪飾りをつけた女性だった。
その女性を見ると僕の胸の高鳴りはさらに増した。胸の高鳴りを必死に押し殺すように、緊張が悟られないように笑みを作りながら彼女に話しかけた。
「お待たせ、待った?」
彼女は僕の言葉に気がつき振り向くと、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ううん。今来たところだから待ってないよ」
僕は茜さんの隣に腰掛ける。二人で夜空に浮かんだ月を見上げる。暗闇に浮かんだ小さな星を先導するように大きな月が浮かんでいた。
満月が形を成そうとするように三日月状に欠けたような未完成な月は優しく僕たちを照らしていた。
夜風が吹き、河川敷の草が揺れる。冷たい風と草の匂いが鼻につく。そして風が吹き終わると茜さんは口を開いた。
「あのね・・・・・・昨日言った、話したいことっていうのはね」
茜さんを見ると何かモジモジと指を動かしていた。こんなに恥ずかしそうにしている彼女を初めて見たような気がする。今思えば茜さんと出会ってから茜さんの新しい一面を見るたびに新鮮な気持ちになった。
茜さんを知ることが嬉しかった。
茜さんと過ごす時間が楽しかった。
そして月の満ち欠けのように変化する彼女の感情が、表情が僕の心を夢中にさせていた。
今なんとなく茜さんが言おうとしていることはわかるような気がした。小さな望みを口にする勇気が出ない彼女より先にいつのまにか僕の口は言葉を発していた。
「・・・・・・好きです」
突然出た言葉に茜さんは目を丸くしていた。
「茜さんあなたのことが好きです。僕と付き合ってください」
僕は手を伸ばすと茜さんは一度目を閉じ、一呼吸おくと僕の手を握り返した。
「・・・・・・はい」
彼女の手から暖かい温もりが伝わってきた。嬉しさで舞い上がりそうな気持ちと恥ずかしい気持ちが混同する中、僕は身体中に火照りを覚えていた。
「なんだがはずかしいね」
「あはは・・・・・・そうだね」
僕と茜さんはお互いに顔を見るのが恥ずかしくなり、夜空に浮かぶ月に目線を向けた。
「これからもずっとお月見しようね」
月よりも綺麗な笑みを浮かべる彼女を見て、僕の顔は自然と笑みを作った。
「うん!!」
その夜お互いの温もりをその手に感じながら座って月を見た。お互いの愛を感じ合うように握った手を離さぬまま。




