表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

満月

 僕の名前は羽瀬光輝、十七歳。一般的な高校二年生だ。コンビニのアルバイトという小遣い稼ぎで青春を食い潰す日々を送っている。


 そんなアルバイトの帰りだった。熱い夏が終わり涼しくなり始めた秋頃。


 日が落ちるのが早くなり辺りは暗くなり始め、満月が綺麗に夜空を彩り始める。僕は自転車を漕いで家に向かっていた。


「あー今日も疲れたぁ」


 そんな愚痴をこぼしながら自転車を漕いでいると橋に通りかかった。そして橋の終わる場所を曲がるそれが家の近道だからだ。


 ほぼ毎日のようにこんな生活をしながら、帰り道を通る日々。だけど今日はそんな日々も違った。


 一人の女性が河川敷に腰掛けていたからだ。長くサラサラしたような黒髪。月明かりに照らされて白く輝く肌、そんな怪しくも美しい横顔に僕の視線は吸い込まれた。


 女性が僕に気付いたように振り向いた。そして自分が女性に見惚れて自転車を漕ぐのを忘れて足を地面につき、その場に止まっていたことに気がついた。


「あ、あぁこれは・・・・・・」


 僕が狼狽えていると女性は笑みを浮かべて見せた。


「あれ?羽瀬くんじゃん」


 僕は名前を言われて気がついた。同じクラスの日暮茜さん。同じクラスだけど話したことはない。なぜなら彼女が学校で一番モテるらしいからだ。


 学校で一番モテているという噂もあり、彼女の美貌は僕も今のように目を奪われてしまうほどだった。とてもじゃないが学校じゃ話しかけられない。


「日暮さん。こんなところで何してるの?」


「ん?お月見・・・・・・かな?」


 首を傾げる彼女の姿を見て、少し不思議に思いながらもスマホの画面を見てみると時刻は夜の二十一時四十五分と表示されていた。もうすぐ二十二時になってしまう。


「もう十時近くだよ。このままだと補導されるよ」


「そういう羽瀬くんこそ何してるの?君こそ補導されちゃうんじゃない?」


「僕はバイトの帰りだよ」


「フフッそうなんだ」


 彼女は笑うと再び月を見始めた。夜風が河川敷の草原を揺らし、風の音と草の揺れる音だけが聞こえる。


 彼女は帰る様子もなくただ黙って月を見続ける。そんな彼女に僕はまた「帰らないの」と聞くと彼女は一言「もう少ししたらね」と返すだけだった。


 月を見上げる彼女の横顔は少し寂しそうに見えた。だから僕は自転車をその場に停めて彼女の隣に座った。


 日暮さんは驚いたように僕を見つめると「帰るんじゃなかったの?」と言葉をかけてきた。


「日暮さんが帰るのを見届けるまで、僕も帰らない」


 心配からなのか、寂しそうにする彼女を一人にしたくなかったのかわからなかった。しかし、今僕にできる精一杯の抵抗はこれぐらいしか思いつかなかった。


「そう・・・・・・じゃあ一緒にお月見しようか」


 日暮さんはそんな僕のことを気にせず月を見続ける。そして日暮さんは僕の顔を見ずに喋りかけてきた。


「羽瀬くんはなんでアルバイトしてるの?」


「一人暮らししたいから、親から早く自立して自由に生きたいんだ」


「ふーん。一人は楽しい?」


「うーん・・・・・・時と場合によるかな?日暮さんこそ一人でいるのが好きなんじゃないの?」


「私は・・・・・・一人は嫌い。寂しいから」


「えぇ・・・・・・」


 意外な答えに僕は少し引いてしまった。心の中で今の行動と矛盾してるじゃんと思いつつも話を続ける。


「じゃあ、なんで一人で月なんて見てたの?」


「月を見てると心が落ち着くんだよね。特にこの場所で見てるとさリラックスできるんだよ。よく眠れるっていうかさ」


「リラックス・・・・・・ね」


 リラクゼーションということなのだろうか。どこか掴みどころのない不思議な彼女に疑問を感じながらも丸い月を見続ける。


 すると彼女がいきなり立ち上がった。そして一言「帰る」というと僕が自転車で来た反対方向の道を歩いていった。


 僕は突然の行動に唖然としていると、遠くから彼女が大きな声で話しかけてきた。


「ねぇ!!明日もここ通る?」


 一瞬質問の意図を理解できずポカンとするが彼女の真っ直ぐこちらを見る目線から大きな声で返事を返す。


「明日もバイトあるから通るよ!!どうして?」


 僕がそんな疑問を叫ぶと彼女は嬉しそうに笑みを浮かべると大きな声で僕に聞こえるように叫んだ。


「明日もお月見しようぅ!!」


 彼女はそう言って大きく手を振ると振り返って僕に背を向けて走っていった。彼女が街頭の明かりから見えなくなり、暗闇に溶けていくと僕も止めていた自転車に乗って再び帰路に着く。


 帰っても彼女の最後に見せた笑みが頭を離れなかった。月を見ていた不思議な雰囲気を纏った彼女とは違う人物のように見えたからだろうか。


 僕の心は満月のように輝く彼女の笑みに見惚れてしまった。


 まるで月の満ち欠けのように変化する彼女の情緒に僕は興味を惹かれてしまっていた。

 初めて恋愛小説を書きました。意外と思いつきで書いてみたのですが、すらすらと展開が思いつきますね。


 毎週月曜日の夜に更新していこうと思いますのでよろしくお願いします。


 あと告白するなら「月が綺麗だね」とかのありふれたセリフは使いません。それでは日暮さんがときめかないので。


 それではまた来週もお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ