8話
初のチーム対抗戦から一週間が経った。かれこれ他の班の相手をして、ある程度のチームが合格した。
「これからは合格した班としていない班で分けて行動する。前者には…ダンジョンの攻略を始めてもらおう。後者は私と訓練だ。では、合格した班は騎士隊長についていけ」
騎士隊長についていくと、リュックサックの並んだ部屋に通された。
リュックサックには最低限の食料や水を生成する魔法具など、ダンジョンで生き残れるように色々と道具が入っている。
準備は万端だ。
「では、今回は十層まで行って帰ってこい。十層に着くまで三日はかかるが魔物は弱い、油断せず励むといい」
十層には脱出魔法陣と記録魔法陣があり、登録すれば行ったり来たりできるようになるらしい。ゲームのチェックポイントのようだ。
「行きますぞ!」
「おう、気合いれてくぞ」
「よく周りを見ていこうじゃないか」
三人はためらいなくダンジョンに足を踏み入れた。
長い階段を降りると、そこは迷路のようになっていた。壁は厚く、破壊は出来なさそうだ。
「まさに迷宮、ワクワクしますなぁ!」
「でもここに三日もいると思うと憂鬱だぜ」
「そうだな、風呂なども入れないだろうし早く突破しよう」
迷路を進むと、なにやら妙な床がある。
「おいそこ、罠あるぞ」
伊澄は前衛で進んでいるが、その床を踏みかけて咄嗟に後ろに下がった。
「え!?あ、これか。危ないな!」
「全然気づかなかったですぞ。どうやって見つけたのか聞いても?」
「多分スキルの力だな。俺は義賊のテクニックっていうスキルを持ってるから、それでわかった」
特に目を凝らしていたわけでなく見つけられたから、おそらくそういうことだろう。
「なるほど…じゃあ前衛は交代するか」
「ああ、そうしよう」
床を踏んだら、右の壁から矢が放たれた。
「ひい、頭の高さとは…殺す気満々ですな」
「ま、見つけられるしいいだろ」
見つからなかった時が怖いが、これ以降引っかかることはなかった。しかし、道に迷って次の階段まで五時間もかかった。
「お前ら、疲れたか?」
「いや、もう少し進もう。今日のところは三層が目標だな」
ということで、二層の攻略が始まった。次は幅が広く入り組んだ通路だった。
「…前方右側の脇道に何かいるぞ、気をつけろ」
退魔師の"陰陽の目"というあらゆる生物の気配を感じ取る力で何かを見つけたようだ。
現れたのは、瑞々しくてプルンとした流線型の生き物。
「スライムだ、スライムですぞ…!」
「これが、あの…?」
ゲームにあまり興味のない伊澄ですら興味深そうに見ている。数十体が群れて動いている。
「きめぇほどいるな。」
すると、スライムはいきなり飛び出した。見た目の割に攻撃性が高いらしい。
「うお!?急になんだコイツら!!」
俺はまとわりつくスライムを振り払おうとした。だがなかなかにしぶとい。
内数体のスライムは合体し大きくなって、俺を二人の側から押し出して引き剥がした。
「思ってたんと違うというか…パワフルですな」
伊澄に複数のスライムが飛びかかる。
「この程度、斬り捨てて終わりだ。」
しかし、剣は、スライムの身体をすり抜けただけだった。顔に飛びつかれた伊澄は呼吸が出来なくなった。更に、体中にスライムがまとわりつく。
輪田も助けたいが、こうなっては魔法しかできない輪田には巻き込んでしまうので攻撃手段はない。
「大和田氏、伊澄氏がスライムにやられました!」
「はあ!?どういうこと…いや、そんなことはどうでもいいな」
大和田はスライムをつかみ上げた。すると、小さな石が入っているのを見つけた。ずぶりと手を入れ、石を引き抜くと、スライムは溶けて無くなった。
「お…死んだか」
大和田はスライムの殺し方を悟った。
スライムの核?らしきものを潰しながら大和田は伊澄の方へ走った
「おいおい、息できてねぇぞバカが」
伊澄の顔にまとわりつくスライムの核を引きちぎり、殺した。液状になったスライムを伊澄の呼吸器から吐き出させた。
「呼吸が安定してねぇし意識がねぇ…このままほっとくと死ぬな」
「えぇ!ど、どうすれば…!」
「てめぇは見張りでもしてろ」
「え、あ、はい」
輪田が見ていないのを確認して、大和田は伊澄を仰向けに寝かし、慣れた手つきで顎を上げて空気の通りやすい状態にした。そして伊澄に人工呼吸を行う。
「チッ…女にやるのは初めてだな、クソが。後でキレるんじゃねぇぞ」
「ゴホッ…う…?」
「おお、伊澄氏!」
輪田は歓喜の声を上げた。
「ぐ…すまない、油断してしまった。呼吸がとまっていたが…処置できたのか」
「大和田氏がやってくれましたぞ」
「そうか。うん、へ〜……」
大和田は、見張りをしながら伊澄に注意をした。
「お前、ここはゲームじゃねぇからな。」
「ああ、わかっている。もう絶対に隙は見せん」
三人は、警戒心を高めながら再び先に進み始めた。出てくるのはスライムだけだったので、その後はさらりと階段についた。三層では大きめのトカゲがでてきたが、問題無く攻略が終わった。
ただ、気を張りすぎて疲労困憊だ。
「ペースが落ちてきてる。そろそろ休憩しよう」
少し広いところに出たので、腰を下ろして休み始めた。
「二層ではヒヤヒヤしましたな、まさか大和田氏が心肺蘇生法を使えるとは…」
「喧嘩の時にやり過ぎたり、バカが起こすバイク事故が起きる度にやってたからな。」
「気道確保から人工呼吸への手捌きはもはや救急隊員でしたぞ」
「てめぇ、見てたのかよ…」
「人工呼吸…!それってほぼ…いや、なんでもない」
伊澄はそっぽを向いた。きっと顔は真っ赤だろう。
「そういや、このトカゲは食えるのか?」
「あ、そういえば騎士隊長がこんなものをくれましたな」
輪田は表紙に「ダンジョンの限界食料記」と書いてある本を取り出した。その表紙は妙に厚く、魔法陣が刻まれている。
日本語で書いてあり、異世界人が書いたものだとすぐ分かった。数ページめくって、輪田は驚いた。
「このトカゲも載ってますぞ!どれどれ……『この緑色の皮のトカゲらレッサーニュートと言って食べられる。解体して加熱して食べる。前ページでも述べたが、ダンジョンの魔物は基本生食NGだ。中身は魚っぽい味で、皮近くは脂が乗って美味かった。ダンジョンは屋内のため、この本の裏表紙の加熱魔法を使い、火を使わず加熱するべし。』」
裏表紙の魔法陣は、IHヒーターの様な役割を果たすらしい。少しいじると、外すことができた。
「なんか、良いもんもらったな、輪田」
「そうですな、早速使いましょうぞ」
輪田が魔力を込めると地面から精錬された鉄の塊が現れた。錬金術で地中から取り出したようだ。グニャリと形を変え、フライパンの様にした。
「相変わらず器用なやつだな。じゃあ料理は俺がやるか?」
「頼みますぞ。僕はこの魔法陣に魔力を注ぎますぞ」
魔力に反応して、本の表紙の加熱魔法が発動した。フライパンに熱が伝わり、レッサーニュートの肉は香ばしい香りとともに音を鳴らす。
しっかり目に焼いて、奥まで火が通った。
「思ったよか美味いな。鯖みてぇだ。」
「ご飯が欲しくなる味ですな…」
皮の近くは確かにジューシーで風味が強く、この状況では嬉しい美味しさだった。
「おい、そこで不貞腐れてるバカも食ったらどうだ?」
「バカではないが、貰おう」
伊澄もトカゲを躊躇無く食べる。
「お、美味しい…!」
思わぬ秘境の美味に、三人は感嘆したのだった。
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四層、五層、六層、降りていくほどに空気が少しづつ重くなったような気分を味わいながら進む。
「魔物も少しは厄介になってきたな」
「ああ、あの小さなゴブリンが魔法を使ったときは驚いたぞ」
「知能が低いとはいえ、人型の生き物を殺すのはしんどかったですな」
もし戦争に駆り出されたら、人そのものを殺すことになる。大和田は自分にやれるのか、とふと思った。
「チッ…塞いだ空間だな」
「ダンジョンですからな。確かにそろそろ見飽きてきましたぞ…」
二日目は八層の途中で休憩をはさんだ。
そして三日目。
体力を温存していた甲斐もあり、九層は難なく突破した。
「この扉の奥にボスがいるとのことですぞ」
「少し緊張するな」
「あぁ、さっさと終わらすぞ」
大きな扉に触れると、ひとりでに開いた。奥には左右に石像が一つずつ並んでいる。
「ボスはどこだ?」
「巨大なヘビのような魔物だと聞きましたぞ…?」
「見ろ、真ん中に何かあるぞ」
ボスがいるはずの広間の中心には、円盤のついた祭壇が安置されていた。円盤には何か矢印のようなものがついており、それは祭壇というよりルーレットのようにも見える。
「この祭壇、文字が書いてあるぞ。」
「何を書いてあるのかはわからないですぞ…」
「義賊の試練…?」
大和田はぽつりとつぶやいた。大和田は文字が読めたわけではない、何故かその意味だけが解ったのだ。
「読めるのか!?」
「驚きですな…って、円盤が!」
輪田が指を差した円盤が、ルーレットの様に回りだした。回るのと同時に、祭壇の奥の地面が開き、そこから人型の何かが現れた。左右の石像の瞳が赤く、鈍く光る。
すると、大和田以外の二人に異変が起きた。
「な…んだ?」
「突然力が入らなくなったですぞ…」
動けなくなるほどの弱体化。大和田はスキルの効果で抵抗したが、他の二人は逃げるのが精一杯という状態になった。
大和田の頭には「義賊の試練」という言葉が頭をめぐる。状態異常で仲間を動けなくさせ、義賊である大和田のみが力を使える状況。
「これは、俺が来たからボスが変わったってのか…?」
「この魔法は解除しても何回もかけ直されますぞ、しかし、特に弱った我々を攻撃してくる様子もない」
「条件発動の魔法か…」
条件発動、それは特定の条件を満たさないと発動できないようにした魔法。制約を設けて、効果を上げるのが目的だ。石像は動き出し、大和田を執拗に攻撃した。
「俺以外に攻撃ができねぇのか!」
ニ人が動けない今、打開しなければならないのは大和田勝海ただ一人。
「大和田、何とかして勝て!」
「面目ないですぞ…!」
二人も弱体化を振り払う方法を探すが、復活の見込みはなさそうだ。
「当たり前だ、勝ってやるよ…石ころが!」
過酷な戦いが始まった。