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34話

 全てを喰らおうと進む蝗害の上を、一つの浮島が漂っていた。

「はあ、気持ちワリィ、何だってこんな奴らの世話を焼かなきゃいけないんだよ…」

「そう言うな。死活問題だろう、この群れが我が国に近づけば大きな被害が出る」

 浮島の上には一軒家が一つと、ティーセットの載った外用のテーブルや椅子があった。席には四人の人間が座っている。

「悪いことばかりじゃないでしょう?上の方々もお褒めになるはずだわ」

 ギザ歯に露出度の高い服を身に着けた野蛮な少年は、茶菓子を手で鷲掴みにして食べた。

「なんだっけ、ぐれんだーる?そんなに警戒するべき国なのか?」

「情報によると、異世界人の召喚が確認されたそうですわ。それも何十人単位のね」

「へええ、そりゃ凄い。会社とか、クラス丸ごとみたいな?」

「報告での平均年齢は低いし、おそらく高校のクラス召喚ですわね。きっと同じ部屋にいる人間に絞って召喚するタイプの儀式をおこなったのでしょう」

 貴族のような装いの女性は、報告書を読みつつ執事の格好をした男に淹れさせた紅茶を嗜む。

「ワタクシ達の任務は異世界人の懐柔もしくは抹殺ですわ。最初は援軍を装い取り入る。失敗すればそのまま戦闘開始」

「普通に不意打ちでボコった方が楽じゃね?」

「黙れ、お嬢様は新たな異世界人を鹵獲し上へ献上しようとお考えなのだ」

「うるせぇなジジイ、お前らの考えなんか知るわけねぇだろ」

 意見の相違で殺気立つテーブル。しかし、長身の男がそれを制した。

「落ち着け。もうすぐ目標に到着するぞ。リア、島を降ろせ」

「は〜い、了解ですわ」

謎の四人組は、群星へと近づく。


ーーーーー


 グレンダール王都の西門では、遠くから迫る蝗害に備えて陣が組まれていた。

「あの黒い塊がそうなの?」

「うわキモっ、虫って無理…!」

 佐原と土呂が絶叫する。しかし、準備体操をしてそれらを見つめていた。すると、秤が佐原に話しかけた。

「佐原さん、例の準備は?」

「ん、出来てるよ。陣の後方に設置したから、いつでもオッケー!」

「そうですか。では、不備のないように後方で待機を。土呂さんも同行してください。」

「え、じゃあここの担当は…?」

「私が出ます、前線ならばあなたよりよっぽど役に立ちますよ」

 相変わらず嫌味な喋り方の大人だな、と思いつつ佐原達は下がっていく。秤は複数の剣を磨き、宙に飛ばす。

「あと、今田さんが緊張してましたよ。それとなく励ましておきなさい」

「……え?」

「なんですかその顔は。早く行きなさい」

「はいはい」

暫くして、オリアナが命令を飛ばす。

「来るぞ、構えろ! 魔法を撃て!!」

 何の躊躇もなく迫ってくるバッタに、色とりどりの魔法が降り注ぐ。前線のバッタは焼けたが、それでも奴らはひるまない。仲間の死骸を喰らい、際限なく増えていく。

「なるほど厄介ですね。ただ生まれたてのバッタは小さく弱い、十分戦力を削れますよ。こちらも攻勢に出たほうが良さそうです」

 根田は緊張しながら剣を構えた。虫たちの鬼気迫る様子はかなりのプレッシャーを感じるほどだ。

「前衛、進め!」

 オリアナの合図で飛び出す冒険者の面々。対魔物のスペシャリストである冒険者達は、冷静にバッタを殺していく。魔法使いがバッタの死体を焼き、できるだけ養分を減らしていく。

 クラスメイトたちも、生産職メンバーが作った武具をフル装備して着実に敵の数を減らす。その姿には、他の冒険者達も感銘を受けた。

「お前らは若いのに凄いな。全員二次転職したのか?!」

「もちろん、恵まれてるのもあるけど、努力を欠かしてないしね!」

 ことの順調さに士気も上がっていく。交代でこれを続ければ、確実に勝利できそうだ。

「人を殺すよりは幾分マシだなぁ」

 根田は先日の戦争を思い出し、そう呟いた。今でもあの戦争はクラスメイト達に見えない傷を残している。

 数時間がたち、戦場の戦士たちも疲れが目立ってきた。疲労したものは後ろへ下がり、待機していた者と入れ替わるのを続けてきたのだが、やはりそれにも限界というものが存在した。

「1万匹は眉唾ではなかったようですね。私は大丈夫ですが、このままでは前線が落ちますよ、オリアナさん」

「これで倒せてて三割か、マジでヤバいな」

 その時、別方向から謎の集団が近づいてくる。5人組の不思議な人間達だった。

「手伝ってやろうか?」

「何者ですか?連携の邪魔なので一度後ろに下がってください」

「オレ達は異界連邦の戦士だ。異世界人を確保するためにやってきた。手伝って欲しけりゃ、オレ達に従え。」

 粗野な態度の少年は、いきなりそんな事を言いだした。秤はその集団を観察する。

(立ち姿、武器、気配……これは厄介なタイプですね。そして謎の交渉、どのような意図があるんでしょうか……?)

「必要ない、と言ったら嘘になりますが、信用もできないのでそこで待機していてもらえますか?」

「断る。お前達は上から危険因子だと決定された。いま服従を決めるか、死ぬか選べ」

(突然魔物と同時に現れて、服従か死か?こんな偶然ある訳ないでしょう)

 秤は思考を巡らせる。リーダー格の長身の男の放った言葉で、秤は確信した。

「マッチポンプとは、いい商売してますね。とっとと失せなさい、目障りです」

 リーダー格の男の顔が怒りで染まった。刃の長い大太刀を抜き、吼える。

「せっかく命だけは助けてやろうと思っていたのに、断るとはな!!」

「はあ、気色悪い。あなたのような短気な人は嫌いです。そういう人は大抵の場合、頭とタチが悪いですから」

「……殺す」

 秤は煙玉を空へと飛ばし、破裂させた。虫、敵の人数、味方の状況を鑑みて、策を講じる必要が生じたからだ。

 陣の後方でそれを見た佐原皐月は、即行動を開始する。描いておいた魔法陣を起動して、呪文を唱え始めた。土呂は辺りを警戒し始める。彼女のジョブは「薬師」が一次転職した「百薬の長」。戦闘能力はあまり高くないが、自らに強化薬を使い戦うことが出来る。

「なんだお前ら、何か魔物でも呼ぼうとしてるのか?」

髪の尖った少年はダガーを2本携えて、堂々と陣地へと侵入してきた。

「さっちゃん、呪文を辞めないでね。わたしが止めるから!!」

「はあ?この「序列16位」の菖吐しょうと様をなめてんのか?お前なんか瞬殺で……!」

 ナイフを投げる菖吐。土呂の頬を掠めたあと、土呂の身体に異変が起きる。

「麻痺毒……?」

土呂の身体が痺れた。

「その通り!! オレの職業ジョブは百毒使い。趣味は毒で人を苦しめて殺すコトさ」

「ふふふっ、相性最悪だね。わたしには効かないよ」

 薬師である土呂は薬剤に対する強い抵抗力を有していた。耐性よって一瞬にして麻痺毒を分解する。そして練習していた武器を構える。

「それを使うんだ、凶暴な武器じゃん」

「メリケンサックだよ」

 サックの先には刃が付いていた。土呂は薬を精製した水玉を宙に漂わせる。そして、それごと右手についたサックの刃で自分の左腕を刺した。

「何してんだ…?」

「この方が薬の周りが早いんだよね。友達を守らなきゃいけないからさ、ぱぱっと倒しちゃうね」

 一瞬にして距離を詰める土呂。長い茶髪が宙に靡き、サックの刃が菖吐に迫る。

(早い…!なんだ、この速度は!?まさか、薬による効果(ブースト)?!)

「このヤク中女が……!」

「失礼だな、薬剤師さんって呼んでよ」

 薬の投与による筋力増強、超再生、鎮痛による捨て身攻撃。副作用は自らの耐性によってクリアする。輪田に「薬キメ狂戦士型」と言わしめた戦闘スタイルが菖吐に牙を剥く。

「あはははっ!こうなると手加減が難しいな!!」

 得意の毒も分解され、女性相手に近接戦闘でも劣る。菖吐のプライドはズタズタであった。しかしこちらも奥の手を切る。

百毒もものどく吐月蜂とげつほう!!」

 土呂はそれを効かないと判断したが、それは間違いだった。

「この反応は…毒じゃない、免疫の過剰反応……?」

「その通り、現代人なら知ってるんじゃない?アナフィラキシーショックだよ」

 毒などの外敵に抵抗する免疫細胞が過剰に反応することで呼吸困難などの症状を引き起こさせるアナフィラキシーショック。それを強制発動させるのが彼の奥の手だった。

「ーーッ…ヒュー……」

「苦しい?あはは、いいねいいね!」

 土呂を見下ろし、足蹴にしながら、苦しむ姿を嘲笑する。

「オレはな、お前らみたいなやつは嫌いなんだよ。何の不満もなく学校生活を送ってきたんだろうなぁ。オレはイジメで学校に行けなかったのによ!」

 何度も蹴る。抵抗は許さない。

「そうだ、仕事。忘れてたよ……やらないとね」

 その時、佐原の展開した魔法陣が光を放つ。そして、一人の人間が召喚された。

「状況は?」

「大量の魔物と数人の異世界人の襲撃。近くで土呂ちゃんが瀕死」

「了解ですぞ」

 刹那、石柱が菖吐を吹き飛ばす。

「は…なんだお前。何した?」

「不登校がコンプレックスになっておかしくなっちゃったんですか。可哀想ですが、性格がねじ曲がりすぎてて同情できませんな」

その言葉に、菖吐は怒りが込み上げた。現れたのは輪田である。

「おい、殺すぞ」

「こっちの台詞ですぞ」

 輪田が軽く指を動かすと、またも突然吹き飛ばされる。一撃で菖吐は動かなくなった。

「ふむ、この技はもう少し調整が要りますな。さてと、土呂氏。死なせませんぞ」

 錬金術によってアレルゲンを強制的に摘出し、症状を抑える。ポーションを飲ませて、状態を安定させた。

「今田氏、後は頼みました!」

 輪田は前線まで全力で疾走する。そして、地面に両手をつき、魔法陣を展開した。

「前方に敵性魔物数千体と人間5人。いきますぞ!」

その魔法陣から転送されてきたのはもちろん彼の班の仲間だ。

「作戦は?」

 指を鳴らしながら大和田は尋ね、敵を見据える。

 伊澄は静かに刀を抜いた。その背後には白虎と朱雀が顔を覗かせる。

 パチコは小型化し、大和田の外套に潜む。

「『いのちだいじに』、ですぞ」

 四人組は直ちに動き出した。返事もなく、静かに。




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