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33話

 爽やかなエルドラドの朝、大和田達は帰国のために港へ集まった。港には、来るときにも乗った船が待機していた。

「竜がせっせと働いてる風景はやっぱりいくら見ても慣れませんな」

「そうだな。でも私は可愛く見えてきたぞ」

 輪田と伊澄は、軽口を叩きながら船の準備を待つ。渡航したクラスメイトが全員集まった頃、エリュシアがやってきた。

「皆様、この度は本当にありがとうございました! このご恩は忘れません」

「そんな、姫様……いや、竜皇様。我々は自分の心に従っただけです」

 小堂は感謝の言葉に謙遜で答えた。すると、その後ろから大和田がでてくる。

「報酬も払ってもらったんだし、当然だろ?そんな態度とってたら、舐められちまうぜ」

「こら勝海、素直に感謝されておけ。エリュシア様、すみません……!」

「いいんですよ、カツミくんの言うことも正しいですし! それに……いや、なんでもありません!」

 エリュシアは顔を少し紅くした。そして、気を取り直して謝辞を続ける。

「皆様の目標は元の世界への帰還なんですよね。成功を願っております。最後にこれは、餞別です」

 大和田はある二つのアイテムを手渡された。一つは笛のようなもので、もう一つは水晶玉らしき何かだ。

「この笛に魔力を込めれば、どこでも馳せ参じて私たちが一度だけ助太刀致します。それと、この水晶を使えば私に連絡が取れます。何かこの世界について分からないことがあったら是非聞いて下さいね。聖竜の力には過去の記憶や知識も含まれているんです。」

「そりゃ便利だ。ありがとな、エリュシア!」

「お気をつけて!」

 一行は船に乗り込んだ。

「弾丸旅行だったね〜」

船の縁に座って、本田が照屋たちに話しかけた。

「奈子、あんな戦闘があったのに旅行って……」

「俺は最近お前が大物に見えてきたぞ」

一方、甲板後方で小堂は大和田や輪田を呼び出し、話を聞いていた。

「天空の森?」

「ああ、竜皇が死ぬ前に手がかりとして教えてくれたよ。なんでも俺達の周りにそれについて知ってるやつがいるとかなんとか……」

「周りというと、グレンダールの人ですかねぇ?一般の人には知恵がある人は少なそうですが……」

「知ってるとしたら長生きしている人間か、長命の種族だろうな」

 その通りだが、グレンダール人のほとんどは人間かそれと同等の短命種で構成されている。だとすると、該当する人物は限られる。例えば……

「……あ。」

「何か心当たりが?」

 大和田はある人が頭に浮かんだ。耳が尖った長命種族で、大和田に剣を与えた人物。

「たしか冒険者組合のマスターがエルフだったぞ。アイツはまだ人間並みにしか生きてなさそうだったが、故郷には何か知ってるやつがいるかもしれねぇな」

「おお、あの人ですな。キレイですよね〜、あの人。エルフの典型って感じですぞ。あの美貌で数百年生きるなんて、まさにファンタジー!」

エルフというファンタジーの塊を想像して輪田がオタクを出す。小堂はそれを軽く流して話を戻した。

「……手がかりはそこだけか。帰ったらその人に話を聞いてから、身の振り方を考えるしかないな。グレンダールの子たちは大丈夫だろうか、何か面倒事に巻き込まれてないといいが」

「トラブルメーカーは置いてきてねぇからな、そこは大丈夫だろ。あのマジメな委員長がいるし、心配ねぇよ」

 輪田はそれを聞いて思い出したように筒を取り出した。

「そういえば、この前試作した手紙転送装置がうまく機能していましたぞ。書いた日付と今日も一致してますし、実験成功ですな。ほら、先生宛で書いてあったので、お渡ししておきましょう」

 小堂は輪田に礼を言って、手紙を開いた。丁寧な挨拶のあと、本文が続く。おそらく委員長の字だ。

『先生、エルドラドではいかがお過ごしでしょうか。こちらではグレンダール軍の人たちと防衛の仕事を交代して、訓練に集中しています。皆一次転職を達成して、とっても強くなりましたよ。訓練での皆の怪我を治している内に、私も僧侶から聖女へと転職できました。…………』

かなり長い文章のようだ。

「『怪我しても回復して即時訓練復帰』って……随分ハードなことしやがるぜ」

「委員長、たまにSな感じが見え隠れしますな。自覚してるかは疑問ですが」

 今田は基本優しい雰囲気なので、余計に治療と訓練の継続を断りにくいようだ。

「しかし、皆二次転職か。俺も頑張らなきゃなぁ」

船の上で、小堂達は考えを巡らせたのだった。


ーーーーー


 グレンダール王都の一角にある、帰路の群星(ノスタルジア)の拠点では、クラスメイト達が今日も忙しそうに仕事や訓練に明け暮れていた。

「いや〜〜、疲れたぁ」

「マジで無理、明日は休む!!」

 今田の班員である佐原と土呂は帰ってくるなり事務所の机に突っ伏した。遠征に行った仲間の穴埋めに追われているそうだ。

「二人ともお疲れ。怪我はない?」

「いいんちょう〜! もっとねぎらって〜!!」

「ふふふ、がんばったね。偉い偉い」

 今田は戦闘能力がないためできる仕事が少ないので、仲間を治療したり、ケアに徹している。

「ママ力高い!」か

「もうママでしょ」

「同い年だよ、もう!」

 そんな軽口も束の間、秤と根田が訓練場から戻ってきた。

「イテテ、やりすぎでしょ!!」

「勝海君の要望に従っているだけですよ。文句なら彼にどうぞ。それにしても強くなりましたね…見違えましたよ」

根田はボロボロだったが、秤も秤で怪我が目立つ。

「ちょっと!?根田くん、腕もげそうじゃん…!」

「うわ、グロっ…!」

佐原と土呂はかなり驚いた。訓練で出ていい外傷ではない。今田は魔法の前に当て木や包帯で腕を固定するなどの処置を行った。

「治すのも簡単じゃないんだよ?」

「ごめん、つい夢中になると痛みを忘れちゃって…」

「彼、弱者男性っぽい雰囲気なのに中々に狂ってますよ。魔剣の炎で止血して戦闘を継続するんです。私でも訓練ならそこまで行ったらギブアップですね」

「弱者…一言余計じゃない?イテテっ…し、死ぬ…!」

 脳のアドレナリンが切れたのか、根田は本格的に痛がり始めた。しかし、今田の治癒魔法が発動すると痛みが引き、元通りの身体に戻った。

「ありがとう、今田さん」

「大丈夫。これが私の仕事なんだから、遠慮しないでね」

まさに聖女である。

「それにしても大したものですね、傷跡一つ残らないほどとは。医療が発達しないわけだ」

 そんな話をしていると、珍しくドアをノックする人が現れる。つまるところ、客のようだ。今田がドアを開けると、見たことのあるエルフが立っていた。

「こんにちは。ええと、オリアナさん?」

「凄いな。アタシの名前まで把握してるのか?ウチのボンクラどもとは偉い違いだな」

「ありがとうございます、大和田君からかねがね噂は伺ってますよ」

「へ?カツミが話を?へ〜……そうなんだ……ふ〜〜ん?」

「……こちらへどうぞ」

 何故か上機嫌になったので今田は疑問を抱いたが、とりあえず事務所の応接間に案内した。すると、秤が入ってくる。さりげなく茶を淹れ、菓子を用意した。

「ありがとう。美味いな……得意なのか?」

 オリアナは余りの準備の良さと気の利きように驚いた。それと、当然のように彼が淹れる紅茶は美味しかった。

「いや、勉強しました。対貴族の接待まで想定してるので、まあそれなりには出来ますよ。褒めてもらえたなら、やった甲斐がありますね」

「そ、そうなんだ。うん」

(ああこいつ、多分とんでもなくストイックなんだ……)

 今田が応接間に入ってきた。

「オリアナさん、今日は何用で?」

「実は依頼があってね、ウチの組合だけじゃ人手が足りないから手伝って欲しいんだよ。」

 そう言うと、オリアナは資料を取り出して机に置いた。小堂が軽く目を通すと、眼を見張るような情報が書いてあった。

「魔蝗害…?これって、魔物が群れになって襲ってくるっていうアレじゃあ…?」

「ああ、そうだよ。この時期になるとたま〜〜に来るんだよ。農作物を荒らされるのも酷いし、普通の蝗害と違って魔物だから人的被害も半端じゃないんだよ。それに、戦争の影響で王都の防御壁が脆くなってる。組合にも仕事が回ってきたってわけさ」

 資料を見ると、襲来は一週間後と予想されていた。偵察によると、1万匹前後のバッタ型の魔物が原っぱを蹂躙しているとのこと。イートホッパーという種で、体長は5メートル程の化け物だった。群れの進行方向の栄養になる有機物は食い尽くされ、巨大な魔獣まで襲って喰うそうだ。そして、何より恐ろしいのは……

「あいつらは腹いっぱいになっても食い続けて、一定以上喰うと産卵して増えるんだ」

「おぞましいですね、前の世界の蝗害もかなりのものと聞いたことがあるけれど、まず間違いなくそれ以上だと思いますよ」

 恐怖の象徴だ。自分より大きなバッタに襲われれば、一般人にはパニックで何も出来ないだろう。流石の秤も嫌な顔をする。

「とりあえず、前向きに考えてみます。私だけでは決めがたいことなので。でも、仲間がここに帰ってくる。だから、ここを離れることは難しいんです」

「そうか。じゃあ、決まったら連絡してくれ。私達は西門を担当するから、そっちに来るんだぞ」

 オリアナは忙しそうに事務所を後にした。退役した軍人や、引退した冒険者に依頼を出したりと彼女はかなり奔走しているようだった。

「逃げるのは流石に心が痛むし、ここは大事な場所だもの」

 この後、帰路の群星の参戦が決定した。




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