32話
昔の記憶。日の入る暖かな縁側で、彼は家族と話していた。
「じいちゃん、この世界は誰が作ったのか知ってる?」
「くだらんこと聞いてないで稽古しろ」
「ひっでぇ!何かしら答えてくれてもいいじゃん!!」
祖父は、嫌な顔をした。
「まあ、大方悪趣味なやつが作ったんじゃろ。ほら、早く素振りしてこい」
「つまんね〜」
「はあ!?答えてやったのになんじゃそれ!ぶっ飛ばすぞアホ孫!」
ゲンコツが彼の頭に飛んでいく。
「造物主が作ったとか、誰が信じるんじゃ…」
「誰に教えてもらったんだ?それ」
「お前のひいじいちゃんじゃよ。いいから稽古するぞ。ほらついてこい」
祖父の言葉に、今になって引っかかるが、それを聞く術はない。
今日も彼は目覚める。
ーーーーー
「んあ…?夢か」
「大和田氏も夢を見るとは、意外ですな」
「やかましいわ。で、今何時だ?」
「八時ですぞ。今日は休みなので、自由に過ごしていいらしいですね」
戦いも終わり、エリュシアは宝玉を吸収して進化の眠りについたそうだ。
大和田はいつもの服に着替えて、なんとなく外へ出ようと準備した。
すると、ドアが開く。
「おはよう、勝海」
「おはよう」
「おい、閉めるな。どういうつもりだ」
伊澄が来ていた。
「何しに来たんだ?今日は休みだろ。」
「だから来たんだ」
イマイチ状況が掴めない大和田。すると、伊澄の顔が赤くなった。
「だから、一緒に観光でもしようと思って…だめか?」
「……」
「大和田氏、いってらっしゃい」
突然、輪田が荷物を渡し、後ろからドアの外に蹴り飛ばした。
そのまま、伊澄に目配せをしてドアを閉め、間髪入れず鍵をかける。
「ちょ、おい!」
「えっと…勝海、どうする?」
かなり気まずい空気が流れ、大和田は口を開いた。
「…行くぞ」
「ーーッ!!」
二人は、歩き出した。
ーーーーー
大和田と伊澄は、珍しい町並みを眺めつつ二人きりで歩いていた。
「勝海、あの店を見てもいいか?」
「アレか。別にいいぞ」
入った店はブティックだった。
「初めて入ったな、こんな店。どっから見ていいか分かんねぇ」
「勝海、これどうだ?着心地も悪くなさそうだ」
伊澄は、丈の短い黒Tシャツをもっている。
「お前それ…まあ、悪くはねぇか」
「そうか!じゃあこれ、買おうかな。このボトムスもセットにして…」
大和田は苦笑する。伊澄が店の奥に行くと、店員が近づいてきた。
「お客様、外国の方ですよね」
「あ…?そうだが」
大和田のガラの悪さに少し押されたが、臆面なく話しかける。
「外国はこんなきれいな人達ばかりなんですか?お二人とも顔立ちが整ってて、どんな服でも似合いそうで…」
営業トークかどうか分からないさりげない会話に、大和田も応える。
「俺は知らねぇけど、少なくともアイツは綺麗な方じゃねぇか?」
「あの、お客様も服をお買い上げにならないんですか?」
「俺はあんまし興味ねぇからなぁ…」
「そうでしたか」
「だが買わねぇのにアンタに俺の相手をさせるのは申し訳ない気がするし、アイツも気を遣うだろうから、なにか見繕ってくれるか?」
大和田は場の雰囲気に呑まれて、そんなことを口にする。すると、店員は耳に着けていたピアスを握って、何者かと話し始めた。
「お客様、それではこちらに!」
「…?」
「あらぁ、可愛いコねェ…?」
店の奥にいたのは化粧をして服を仕立てている大男だった。
「何だてめぇ…」
「アタシはゴリアテ。この店の店長よ♡」
「店長は服のセンスがピカイチなんです! 彼女に任せれば完璧ですよ〜」
大和田は顔が引き攣ったが、とりあえず頼むことにした。
店長のゴリアテは、大和田をしばらく見つめてから迷わずいくつかの服を持ってきた。
「これなら間違いないわね! 試着してちょうだい!」
「大丈夫なんだろうな…」
しかし頼んだ側なので何とも言えないのだ。
白いTシャツには、綺麗に花の絵がプリントされている。 対照的に黒いボトムスは、大和田の長めの脚を強調していた。最後に花の刺繍があしらわれたキャップ。
「うんうん、やっぱりこういう可愛い感じも似合うと思っていたのよ!」
大和田も少しノッてきたのか、鏡に映る見たことのない自分をまじまじと眺めていた。
「おっさん、これ買うわ」
「おっさん呼ばわりは気になるけど、わかったわ。気に入ってくれたようで嬉しい♡」
お会計が終わった頃に、伊澄も上で会計を終わらせてやってきた。
「勝海、終わったぞ。これにしたんだ。このまま着てこうと思って…」
見ると、二人とも同じ花の絵のTシャツを着ていた。
「「……」」
「あら、被っちゃったわね。ペアルックみたいで可愛いじゃなーい?」
謀ったな…といった視線を二人は向けた。
ただ、会計は終了してるので何とも言い難い。それに、二人とも着ている服を気に入っていた。
「あ、ありがとよ。俺たちは行くぜ」
「きっとまた来ます…!」
店を出た。
店内では、ゴリアテと店員がうっとりと二人を見つめていたが、それは知る由もない。
「同じ服なのに、どっちも似合うもんだな」
「こんなの見られたら少し恥ずかしいぞ…」
大和田は少し考えてから、元々着ていた服を入れていた袋からなにかを取り出した。
「ほら、こっち向けよ」
そして、顔を向けた伊澄に何かを着けた。
「これは…?」
「サングラスだ、これで少しは隠れるだろ。」
「馬鹿、私もそれくらい買ったぞ」
そう言って、伊澄も懐からサングラスを取り出し、大和田に着けた。
「だから、これはお前にあげる。だからこれは私が貰うからな」
自分で言ったのに、顔が赤くなった。勿論、大和田も。
青い色眼鏡でお互いの様子に気づかないのは御愛嬌である。
ーーーーー
大和田はあるものが目に入り、気になった。それは何の変哲もない路地だった。
「ここ、入ろうぜ」
「治安もどのくらいかわからない、危なくないか?」
「丸腰でも俺たちをノせるやつなんていねぇよ。大丈夫だ」
入っていくが、何もない。建物と建物の間に出来た路地を、感慨深そうに大和田は見ていた。
「昔はよくこういうところでケンカしてたんだよ。だから何となく歩いてみたくてな」
この路には換気扇や張り巡らせられたパイプもないが、称える気配はそれそのものだった。
「勝海は後悔してないのか?今になって気づいたけど、元々そういう質じゃないだろう」
「してねーな。いや本当はしてるが、別にあの生活が無駄だと思ったこともねぇ。毎日馬鹿な奴らとバカみたいに殴り合いして、独りで街を歩いて。きっと忘れねぇだろうな。」
「ふぅん…不思議なことに、何故か私にも理解できる感情だ」
伊澄は、剣道の名家に生まれ、色々な習い事も経験した。それでも思い浮かぶのは賞を取ったりした記憶ではなく、日常の風景だった。
すると、路の角から横柄な男が現れた。
「なんだお前ら、ここが俺様の縄張りとわかって歩いてんのか?」
「ここはお前の土地じゃなくて、ただの道だろ」
「口答えしてんじゃねぇ! 通行料出しなぁ!!」
即座に地面にめり込む男の頭。
大きな音を立てたので、衛兵が駆けつけた。
「何をしている!!」
大和田は伊澄の手首を掴んだ。
「逃げようぜ!」
「えっ!? あの人に説明すれば…!」
「そんなことしてたら、遊ぶ時間無くなんだろ!」
大和田は年相応、少年のように笑いながら駆け出した。
「マジで懐かしいぜ、こうやって警察からも逃げたもんだ」
一息つく頃には、港に出ていた。
「こんなとこまで来ちまったか。中々執着する衛兵だったな」
「はぁ…それより…少し休もう…!」
大和田はベンチに伊澄を誘導し、近くに井戸があったので水を汲んできた。
「前の世界とは比べものにならないくらい綺麗なんだろうな、ここの海は」
「そうだな。見た目だけでもまるでリゾート地みたいに水が澄んでる」
しばらく休憩していると、大和田の腹が鳴った。気づくと正午をまわっていたのだ。
「そろそろ飯時か、どこか店でもあればな…」
「あの、弁当を作ってみたんだけど…」
「マジで?」
大和田は驚いた。
「ここは魚が特産らしくて、厨房を借りて早起きして作ってみたんだ。その、二つあるからここで食べよう…?」
「最高じゃねぇか。ありがとう!」
弁当を開けると、色合いも良く、綺麗に盛り付けられていた。
「いただきます…って、凄すぎだろ…!」
「そうか?いつも自分で作ってたからよくわからないが、気に召したならよかった」
「うまっ!」
弁当を頬張る大和田をみて、伊澄は嬉しそうに微笑んだ。
「…ん、食わねぇのか?」
「いや、食べるとも。私とてお腹が空いた。いただきます」
磯の香りとともに、海から風がやさしく吹き抜ける。
「「ごちそうさま」」
食べ終わった二人は、港を散策した。
岩を魔法で成形した港は、元の世界を思わせるようだ。すると、妙な雰囲気の露店があった。
「釣り竿はいかがかね」
港の桟橋の縁に座っている男は、釣り糸を垂らしながらそう言った。
「これは…!」
明らかに現代的なデザイン。リールがついたその釣り竿は、いかにも店で売っていそうなクオリティだった。
「あんたら、もしかして異世界人か」
顔も合わせようとしないが、見透かすように男は尋ねた。
「お前も、じゃねぇか?」
「フッ…正確には違うな。俺は転生者。身体はこの世界由来だ。前世の記憶があるだけさ」
「そんな移動もあるんだ…」
「その服、ゴリアテのとこに行ったろう。彼女もそうだ。」
それもそのはず、直接は聞けなかったが、Tシャツに絵を印刷する技術などこの世界には存在しない。
「帰る方法を探しているんだろう。俺は知らないが、見つかるといいな」
どこか遠くを眺め、男は呟く。
「一本ずつくれるか?この伸縮するやつを」
代価を支払い、大和田は二本の釣り竿を手に取った。
「釣り、してこうぜ」
「初めてなんだ。教えてくれるか?」
「当たり前だ。俺に任せとけ」
二人は、男と少し離れた場所で釣りを始めた。浮きを見て、手取り足取りやり方を教える。
「…釣れないな」
「そんなもんだろ。それに、釣りはその行為自体を楽しむもんじゃねぇか?」
「ふふ、そうかもな。実際私は楽しい」
引きこそこないが、二人は他愛のない話をしながら三時間ほど釣り糸を垂らし続けた。
「……」
「お前…寝たか。まあ疲れたもんな」
大和田の肩に寄りかかって、伊澄は寝てしまった。
袋に入った外套を彼女に掛けて、しばらくすると目を覚ました。
「はっ…!寝てしまった。すまない勝海、重くなかったか?」
「待て待て、やべー引きだぞ…!」
「え?!」
大和田の釣り竿がしなり、リールが音を立てて回転する。
「持ってかれる!」
大和田の後ろについて、伊澄も必死に支えた。
体勢を整え、大和田は思い切り引っ張った。それはもはや普通の人間の出せる力ではない。釣り上げられたのは、十メートルを超える化け魚だ。
勢いで大和田は倒れ、支えていた伊澄もろとも転んでしまった。
目を開くと、至近距離で顔を見合わせてしまう。
少し、いい香りがした。
恥ずかしくて、二人はすぐに立ち上がる。
「大丈夫か…?」
「別に、なんともない」
目を合わせることが出来なかった。
すると、遠くで見ていた男は近くに来て魚をよく検分した。
「近海の主だな。化け物じみてるな、魚も、お前も」
「生きてるか?」
「ああ、どうする?」
「リリースしてくれ」
男は魚の横腹を蹴った。
すると、堪えたのか何かを吐き出し、跳ねて海へ帰っていく。
それは、サッカーボールくらいの大きな宝石だった。
「魔力結晶だな。アクセサリーなんかにはうってつけだ。エンチャントも良く付くし、持って帰れ」
ここ近海の微生物は魔力を保有しているため、大きくて長生きする魚は、体内にその魔力を溜め込んでしまうそうだ。
網の切れ端で、スイカのように結晶を縛り上げると、男は大和田にそれを渡した。
「ありがとよ。また会うかは分からねぇが、じゃあな」
「……」
彼はまた、海を黙って眺め始めた。
ーーーーー
大和田達は宿に帰った。
「勝海、今日はありがとう。とても楽しかった」
「…おう」
大和田は、少し目をそらした。
「その…なんだ。また行こうぜ。俺もすげー楽しかった…」
「ーーッ!」
伊澄の頰が紅潮した。が、必死でそれを抑える。
「なんて言った?もう一回いってくれ!」
大和田をからかってみたくなったからだ。
「な…!」
「ほら、もう一回!」
「う、うるせぇ!じゃあな、良く寝ろよ!!」
足早に部屋に戻る大和田。
そんな彼の背を見ながら、伊澄は笑顔になった。
「フフン…!」
こんにちは、一介です。今回の話は面白かったでしょうか?
モチベーションにも繋がるので、レビューや感想をぜひ書いていってください!
ここのシーンが好き、このキャラが好き…なんでも構いませんので、お気軽にお願いします!
不定期更新にはなりますが、投稿は午後7時に統一しようと思っているので、是非ブックマークをして気長に待っていただけると幸いです。
では次回お会いしましょう。




