30話
エルドラドの空には、凶兆とも捉えられそうな暗雲が立ち込めていた。
「ククク…アハハハハ!最高の気分だよ!身体にはエネルギーが満ち溢れ、この国に僕を超えるものは存在しない…」
龍皇クルシェは空中から国を見渡し、有頂天になっていた。
「あ、人間だ」
目についた人間に指を差した。その指先にはエネルギーが収束し、絶死の光線が戯れに人を消し去る。
「…足りないな。何故だ?母上の力はこんなものではなかったはずだ」
彼の記憶にある先代竜皇ルイーズは、魔法戦になるととてつもない速度と量の魔法を簡単に乱射する。格闘戦では雷の如き速度で駆け、龍王すら一瞬で滅殺していたのだ。
「やっぱりイライラしてきたな、人間を殺して落ち着けなくては…」
クルシェは今一度指から光線を放った。それが伸びた先には勿論人間がいる。彼女はクルシェ行きつけのレストランのウェイターだった。
「え…えっ?何かくる!?」
必死に逃げるも、無慈悲な光線は彼女を飲み込んだ。はずだった。
刹那、美しい剣閃が閃き、光線を受け流した。
「は、何だあいつ…人間か?」
そう思ったのも束の間、煌めく金の翼が目の前を通り過ぎ、衝撃が走る。常時張っていた魔力障壁が一撃で破壊され、頬には切り傷がはいった。
「虫みたいな奴だな…いや、違う。天翔ける金色の翼…勇者か!?」
かつて乳母に聞かされたお伽噺。
勇者と邂逅した金竜は真の姿を取り戻し、空を駆け世を救うための力となる。そして聖竜の約定により、金竜の力を操れる者とその仲間はこの世に在る者たちの使命を背負う。
そんなエルドラドに伝わるすこしリアルな雰囲気の話を、彼は思い出し、目の前の二人がそれなのだと確信した。
「竜皇になるのはいいけど、酷いことをするなら私達が容赦しないよ!」
「人間の癖に、私の大義を邪魔するか?国を大きくするため、自国のゴミを排除し、大陸全てを制圧するのだ」
自分のしていることは正義なのだと、クルシェは雄弁に語る。
金宮は、地面に落ちている焦げた死体を見て、剣を持つ手を握り締めた。
「何の罪もない人間を殺すことに何の意味があるんだ…!」
「私の気に障るからだ。母上も、姉も、妹も、私の意見は聞かない。甘いことを言うばかり…エリュシア、奴も必ず殺し、私の地位を確かなものにしてやる」
「もういい、分かった」
金宮はクルシェを見据えて構えた。
「そうか、では私に関わってくるな」
クルシェのその命令に、金宮は真っ向から反抗した。
「僕は、僕の正義をお前に押しつけるだけだ」
「チッ…過干渉なものだな、英雄というものは」
金宮と一条は金色の翼を身に纏い、竜皇を思わせる気迫で猛攻を仕掛ける。
その時、二人の背後に映像を投影する魔法陣が展開された。
『お兄様、私は貴方には従えません。無辜の民が傷つくことのない国を作りたいのです!』
「黙れ、散々私の意見を黙殺しておいて、今更私に意見するだと…?言語道断だ」
魔法で拡声された兄妹の声が、町に響いた。
『それは…』
「お前と話すつもりはない。私に逆らいたくば、その連れてきたちっぽけな戦士たちを使って抗うことだな」
兄は、妹を突き放した。
『私、エリュシア・ニーズヘッグ・エルドラドは、不当な皇位の継承を理由に、わが兄クルシェとの聖戦を始めることをここに宣言します。盟友にして代理人たる帰路の群星よ、全面攻撃を許可します。私に力を貸してください!』
「竜騎士団よ、集え。私の名の下に、エルドラドの威を裏切り者にみせつけろ!」
町の外れの原っぱで、待機していた双方の戦士たちは対面した。
圧倒的少数の帰路の群星と、竜皇とその国を護るため編成された三百騎の竜騎士。
エルドラドの天下を分かつ戦いが、始まる。
ーーーーー
「戦えてるな…!」
「すごっ、超早いじゃん」
クルシェと渡り合う勇者二人に感嘆の声をあげる白銀と照屋。
「来るぞ!構えろ!!」
小堂は盾を構え、檄を飛ばした。
「本田氏、空の竜に乗ってる連中を片付けますぞ」
「りょーかい、ウェルダンにしちゃうね〜」
本田は尖った帽子に黒の外套、魔法使いの装いをしていた。
そして、箒をサーフィンのように使いこなし宙を舞う。
これらの装備は、生産職のクラスメイトが丁寧に作り上げた作品だ。
そして、取り出したのはいつも使っている両手杖ではない。
小さな棒に驚異の量の魔力が循環し、追尾、爆発する炎弾が飛び交った。
「炎弾乱舞っ!」
あの輪田が、本気で魔改造して小型化に成功した、新生賢者の杖だ。
「魔女の短杖といったとこですか…使用感は元のまま、魔力抵抗をほとんど無くした素晴らしい逸品ですぞ」
相変わらずめちゃくちゃな本田の魔法を見て、輪田は自慢げに胸を張る。
本田が着ている魔女装備は、ワイバーンの皮が使われていて、物理と魔法の両面でかなりの強度を誇る。
「隙ありッ!」
「危なっ!」
今も背後からの不意打ちを受けたが、外套に刻まれた魔法が発動し、魔力障壁が剣を阻んだ。そして乗っていた竜もろとも至近距離で焼き尽くされる騎士。
地上戦では、ギリギリの攻防が繰り広げられる。
竜騎士以外にも、その下部組織である竜人族のみで構成された竜戦隊がその力を発揮していた。
「硬すぎだろ!」
剣士の白銀は、刃の通りにくい竜人の鱗に驚愕した。
「そろそろ動いたらどうです?」
「その通りですな、では…行きますぞ、伊澄氏に彼岸氏!」
「準備万端だ!」
「仕方ないわね、手を貸してあげるわよ」
輪田が描いた魔法陣に重なるように太極の陣が展開される。その中心には彼岸が魔力を解放して、大きな渦を作り出していた。
「「「怨嗟と憧憬の塔ッ!!」」」
周囲の魔力を巻き込んで、魔法陣ごと地面が押し上がる。
塔の下には大量のゴーレムが発生し、敵を排除し始めた。
太極の陣が周囲の魂を引き寄せ、ゴーレムに宿っていく。
「集合ですぞ!」
塔を中心に、ゴーレムに守られながら戦いを再開していく。
「輪田、敵の気配がゴーレムを無視して近づいてくるぞ」
それはおそらく、ルイーズを襲撃した闇竜の部隊だろう。彼らは暗殺に長け、影の中を進むことができる。
「大丈夫ですぞ。既に大和田氏が向かっていますからな」
「勝海が危ないだろ!あいつは影からの気配が読み取れるのか!?」
輪田は黙って頷く。
もちろん大和田に闇から現れる気配に気づく手段などない。
だが…
ゴーレムのひしめく戦場で、大和田は目を瞑り、思考を巡らせる。
(ゼノンの剣術を見て思い出した。祖父の教える剣技にはおかしい所がいくつもあったんだよ。今になって分かったぜ、違和感の正体…)
「まるで魔力がある前提で作られたみてぇだよなァ、どの極意も、指導も!」
小さい頃の記憶が蘇る。
「勝海、目を閉じて、もっと周りを感じろ。己を感じろ。血流の一つも全て自分の意志で支配することが肝要だぞ」
「はぁ?」
「はぁ?じゃねぇ。やれ!」
「何でそんなことしなきゃいけないんだよ。ガキ相手に難しい言葉使うな」
「…アホ孫が、ワシにカッコつけさせろ!」
そして、荒んでいた数年前。
「おいアホ孫。ウチの技をケンカで使ってるのか」
「…悪いかよ」
祖父は体面を気にしない質だった。
「別に気にせん。ただ…」
「ただ?」
「負けるな。勝ったヤツが正義じゃからな」
「あっそ」
「それとワシは適当なことは一度も言ったことはない。強くなりたきゃ信じることだ。『信じれば、なんでも成せる』からな」
「………」
大和田は精神論があまり好きではなかったが、祖父の特訓で学生の領分を越えた強さを手にしていた。
それでも、自分の流派の指導にどこか違和感を感じていたのだ。
もうそれも無くなった。
全身を巡るようになった魔力を確かめる。
息を吐くと、漏れ出た魔力に沿って死角のものさえも感じ取れた。
「グハッ!?なぜ分かった…!?」
「祖父の知恵袋、だな」
ゴーレムの影に潜む闇竜を察知出来るようになった大和田は、それが出てきた瞬間に首に斬り込んだ。
循環する魔力は脳機能を向上させ、感覚を研ぎ澄ます。
僅かな空気の動きや、その中に流れる魔力を頼りに、闇竜を次々と見つけては狩る。
伊澄は大和田の様子に変化を感じ、驚く。
その動きは、気配察知というスキルを駆使していないとできない動きだ。
(勝海にそんな能力はなかったはず…だとしたら、素の力だけで行っているのか!?)
すると、大和田の前に闇竜の首領らしき大柄の竜人族が現れた。
「その身のこなし、同門とお見受けする。その技に免じてお前だけは助けてやろう。どうだ?私が指導してやる」
「興味ねぇな、そこをどけ」
大和田は学んできたことを一つ一つ形にしていく。
「ーーーッ!?」
恐るべき速度の剣技。しかし、彼の柄の先に刃の気配を感じない。
(なんだ、刃のない剣で戦っ…)
闇竜首領の腕が落ちた。鱗で覆われた強固な肉体を簡単に切り裂いたのだ。
「は…?」
「剣も見えねぇんじゃ、勝負にならねぇぞ」
これこそが、大和流の源流にあたる、彼の流派の絶技。
極限まで大気に馴染み、薄くなった刃によって全てを切り裂く技術。霞断。
大和田はお伽噺くらいの気持ちで聞いていたが、それを実戦レベルにまで昇華させたのだ。
「降参だ。息子に会ったら言っておいてくれ。『お前が正しかった』、と。どうか、王子殿下も同じ様に止めてくれ」
竜皇暗殺に加担しても、その忠義をクルシェに捧げた男は負けを認めた。予感がしたのだ。竜皇の力を得たクルシェも、姫率いる部隊に負けるのではないかと。
「斬れ。生き恥を晒すのは御免だ」
一族の未来を憂い、忠義の心が折れてしまった彼には、生きる気力が沸かなかった。
大和田は一瞬躊躇ったが、剣を走らせる。
それが、せめてもの情けである。
「つく陣営を間違えたな、会ったら伝えといてやるよ」
男は静かに倒れ、息を引き取った。
その様子を塔の上から見ていたエリュシア。
彼とエリュシアは知り合いだった。
「言い得ぬ想いがあったのですね、私がもっと頼れる王族だったならば…!」
この戦いはどこまでいっても内輪揉めなのだ。味方同士で殺し合うなど、悔やんでも悔やみきれない事態である。
「割り切れないと思うけど、飲み込まなくちゃ」
エリュシアの肩を叩いて、鈴木は励ました。
「今そうじゃなくても、きっとなれますぞ」
輪田も術式を維持しつつ、エリュシアに声をかけた。
戦場は安定してきているが、依然クルシェと勇者二人の戦いは激しさを増していた。
「まだやれる?一条さん」
「大丈夫、でもどうやって倒す?」
さっきまでは優勢に立てていたのだが、クルシェが剣を握ってから防戦一方になっていた。
「理解したよ、竜皇の力は職業スキルを強化する為に使うのが最高効率なんだね。母上の職業は確か"審判官"だったかな、僕たちに能力を使えないのはその特性のお陰だったからね」
前竜皇ルイーズの職業は審判官。罪人や敵に対して圧倒的な優位を持つ力だが、罪人以外にスキルが使用ができない、自分の信条に反することへの力の行使ができない、という制約があった。
「お前の職業は何なんだ?」
金宮が率直にそう尋ねると、余裕を見せるつもりなのか、簡単にクルシェは答えた。
「騎士だ。剣術特化のね」
恐ろしい威力の剣戟に、金宮は吹き飛ばされ、建物の壁にぶつかる。
「絶対におかしいだろ!」
続いて一条も飛んできたが、それは何者かにキャッチされる。
「障壁は砕けたみてぇだな。攻撃は通るか?」
「勝海くん!」
「大和田、闇竜は?」
「親玉を殺した。あいつもぶちのめすぞ」
大和田は闘志に満ちていた。
「攻撃は効くけど、相手が強過ぎて近寄れないよ」
「わかった、近づけば殺れるんだな?」
「僕が前に出る。二人で仕掛けてくれ!」
大和田が加わり、第二ラウンドが始まった。
こんにちは、一介です。今回の話は面白かったでしょうか?
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では次回お会いしましょう。




