29話
「これからは、私が竜皇だ!」
和気あいあいとしていた会談は、悪夢に変わった。
クルシェは竜皇の力の源、聖竜の宝玉を吸収し、新たなる竜皇となった。
「お兄様…」
「ぼーっとしてると死ぬぞ!」
「危ないッ!!」
エリュシアは目の前で起きたことが信じられず、放心状態になっていた。クルシェは容赦なく魔力弾でエリュシアを殺そうとしたが、金宮が咄嗟にエリュシアを抱き上げ、助けた。
「灯香、輪田、時間を稼ぐぞ。パチコ、金宮のカバー頼む」
「おけっす!」
大和田達はクルシェと対峙した。
「遊びたいのかい?私は君たちのような人間では勝てない。さっさと殺されたらいいのに」
「いい言葉を教えてやるよ。『やる前に負けることを考える馬鹿がいるか?』いねぇだろ!」
華麗な剣捌きでクルシェに迫る大和田だったが、クルシェは一歩も動かない。
「すこしびっくりしたけど、やっぱり効かないね」
大和田の剣は、謎の壁に弾かれた。余裕を見せるクルシェは、魔力を練り始める。
「これは…何か対策がないとムリですぞ」
「勝海、クラスメイトも逃げ切った。行こう」
伊澄は白虎と朱雀を呼び、クルシェへと向かわせた。
視界を遮ると同時に輪田が魔力と煙を魔法で放出する。
大和田は拳で壁に穴を開け、脱出を先導する。
「随分古典的だな…まあいいか。あんなゴミに私は止められないしな。あとで竜騎士を向かわせよう」
万能感に包まれたクルシェは、喜びが抑えきれない。
「あの糞女にも復讐できた、次はこの国だ。」
ーーーーー
大和田達は、無事町の外れの小屋まで撤退した。
「お母様…死なないで…!」
「ふふふ、ゲホッ…あたしはもう助からないよ」
輪田が軽い回復魔法で傷を塞いだものの、衰弱しきっていた。
「強ぇんじゃねぇのかよ…」
大和田は拳を握りしめて呟いた。悔いていたのだ、もっと早く気づいていれば…関わった時間は少ないが、大和田もルイーズに対して情が湧いていたのだ。
「…かっこつかないね、こんな失態を犯してしまうなんて」
「お母様、安静に…!」
「言っただろ…?あたしはもう助からない。龍皇の命は聖竜と共にあるから、一度奪われれば、先代の死とともに継承の儀になり得るんだ…ゲホッ」
吐血するルイーズ。
「………」
エリュシアは言葉も出なかった。
「そんな顔をするんじゃないよ、エリュシア。お前はあたしが認めた次期竜皇なんだから…!」
「でも…」
その時、大和田は、ルイーズの手に縋るエリュシアの腕をつかんだ。
「でも…じゃねぇだろ」
「え…?」
「ハッタリでも虚勢でも、竜皇になるって言ってみせろよ!!」
「勝海!なんてことを言うん…」
大和田に注意しようとする伊澄を、輪田とパチコが止めた。
大和田はまだ話を続ける。
「この期に及んで、まだお母様に心配かけるつもりか?お前は何でグレンダールまでやってきた、何でここに戻ってきた?」
「………」
「お前が本当にやるべきことは何なんだ」
「私は…竜皇に…」
大和田はエリュシアの背を軽く叩いた。
「お母様!私は…!必ず兄上を倒し、竜皇になります!!」
母親は笑顔を浮かべた。
「必ず…できるはずよ。貴方なら、あたしの娘なら…!」
ルイーズは起き上がって、エリュシアと抱擁を交わした。
強く…強く。娘の決意を逃さぬように、包み込むように。
「小僧、いや、何といったか…」
「大和田勝海だ、覚えていけ」
「そうだ…勝海。娘を焚きつけたんだ、分かってるね…?」
「見届けてやるよ、お前の代わりにな」
自分に言い聞かせるように、大和田は堂々とそう答えた。
「いい返事だ」
死の淵で、彼女は周りを見回し、満足気な表情を浮かべる。
「あんたは一人じゃないからね、頑張りなさい…ゲフッ…」
ルイーズは身体を起こし続けられず、今一度床に伏せた。
「信じれば…それはきっと現実になるから…」
「はい…必ず成して見せます」
答えに満足し、ルイーズは往った。
僅かに残っていた力は、小さな灯火が風に吹かれたように消え去る。
「お前ら、何とかしたいから手伝ってくれ」
大和田は仲間の方を向いてそう言った。
「当たり前だ、私も同じ気持ちだからな」
「僕も手伝わせてほしい。このままではいけない気がするよ」
「てか、ここで逃げても結局戦争一直線ですぞ」
同意を示す伊澄と金宮。現在の状況を分析しながら輪田も賛成した。
町の中心部を見ると、クルシェと思われる竜人族が、肥大化し、竜の姿となっていた。
「まるでゲームのレイドボスですな」
大事なのはこれがゲームなどではなく命を懸けた戦いであるという事だ。
皆、決意を固めて準備を始めた。
ーーーーー
「皆さんに話したいことがいくつかあるんですけど、いいですか?」
クラスメイト達は手を止めた。
「私の職業が役に立つかも…と思いまして」
「詳しく教えてくれるかい?」
金宮が代表して答えた。
「私の職業は軍師です。軍師には職業専用スキルがあるんです。色々と戦いが有利になる効果をかけられるので、私も戦場に出たいんです。」
先程、戦場に出るのが大和田たちだけと決まったのだが、エリュシアは共に戦場に出たいのだという。
「危険じゃないか?」
白銀はエリュシアが殺される可能性を危惧した。たとえクルシェを倒せたとしても、エリュシアが死ねば政権争いが起きるはずだからだ。
「大丈夫だ。だろ、この国の人間で最強の騎士サン?」
「自らの命に代えても護る所存だ。王子はお前たちに譲ろう」
エリュシアも参戦を決め、作戦会議は白熱した。
「大和田くんの攻撃が謎の障壁に阻まれたと聞きましたが、どうやって突破するつもりなんですか?」
秤は疑問を挙げた。すると、一条がそれに反応する。
「私なら破れるかも!」
「根拠は?」
「私の職業は金宮くんと同じで勇者なんだけど、実は勇者って、強さの秘密があるんだ」
「お、おい一条さん、僕にとっても重要な情報を…」
金宮は、秘密にしていた自分の特性を明かされたくなかったようで、焦る。
「別にここにいる人は敵じゃないしいいでしょ?」
「ぐ…まあそうか。ここぞというときに見せつけようと思ったのに…!」
「じゃあ説明するよ?まず私の基礎能力が高いのは、"生まれつきの勇者"っていう"称号スキル"を持ってるからなの。」
「称号スキル?」
一条が初出のワードを出した。
「称号スキルっていうのは特殊な職業限定条件を達成すると手に入るスキルなんだって。それで、この称号スキルなんだけど…」
勇者に魔王討伐など、たくさんの伝説が残っているのは偶然ではない。
「条件を達成すれば無制限に得ることができるの」
普通の人間では、そんな事は不可能だ。魂に宿るスキルの数は、魂の大きさに依存するのに、称号スキルはその範疇の外にあるというのだ。
「文字通りチートですぞ…」
秤は首を傾げた。
「それがクルシェの魔法障壁に何の関係があるんです?」
「私はもう一つ称号スキルを持ってるの。それが、"解放されし勇者"なんだ。このスキルはね、支配、結界、障壁系のスキルに絶対的優位を持ってるんだ」
「つまり…」
「あいつの作る壁がどれだけ硬かろうと、私なら強制的に分解できる!」
僅かだが、希望が見えた。
「私からも勇者の有益な情報を教えていいですか?」
エリュシアはここで口を開いた。
「私達王族に代々仕える金竜という竜族の一派がいるんですが、彼らは実は先祖が竜ではなく、勇者が遺した装備が竜の気を浴びて進化したものなんです」
「勇者の装備?」
「金竜は勇者と竜の直系の血を引く私達王族しか扱えないんです。他のものでは、金竜の全力を引き出すことができません」
「は…?」
大和田は意味が分からなかった。何故なら、大和田にも制御はできなかったが、金竜を扱うことができたからだ。
「大和田さんが驚くのも分かります。ここからは私の推測ですが…おそらく大和田さんは、かつてこの世界で生まれた勇者の子孫なんじゃないでしょうか?」
一気に大和田に視線が集まる。
「違う。俺は日本製の純日本人だぞ」
「大丈夫、誰も疑っちゃいない」
大和田と伊澄の会話はともかく、大和田は生まれも育ちも日本だ。
「いえ、勇者の中にはこちらに転移し、元の世界再び舞い戻ったと言い伝えられている者もいます。帰還した方法については存じ上げませんが…」
「いいじゃん、帰る方法はあるってことっしょ?」
本田は帰る方法があるとポジティブにとらえた。
「確かに違和感はあったんだ。ゼノン(こいつ)の剣捌き、雰囲気だけだが、俺の剣の使い方に似てたからな」
「確かに竜騎士は大和流という、勇者が開祖の流派を採用している。始まったのは三百年も前だと聞いていたが、もしかして開祖と縁のある血筋なのか?」
大和田はそれを聞いて少し驚いていたが、それを抑える。
「…まあ今考えても仕方ねぇだろ、話が脱線し過ぎだ」
大和田が窘めると、エリュシアがハッとしたように発言する。
「そうですね…情報交換も大事ですが、命あっての物種です!続けますよ?」
エリュシアは、金竜を謎の笛で呼び出して説明を続ける。
「まず、この金竜に勇者が乗ると、金竜、勇者双方の集中力が高まるにつれ金竜が本来の姿を取り戻します。言い伝えによると、金竜は金色の翼となり、勇者は空に覇を成す。つまり、自由に飛行しながら空中戦闘できる、ということですね」
「「マジ…!」」
勇者二人組はワクワクしたのか、じりじりと呼び出された金竜に近づく。
「なので、これが本当なら二人の勇者様を主軸に、攻撃を仕掛けます」
その後、こまごまとした配置を定め、作戦は大方決定した。
後は反撃の時を待つのみ。
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