27話
「エルドラドへの出向メンバー発表〜〜〜ッ!!」
静まり返るロビーで、鈴木が思い切り叫んだ。
「学級だよりに書いて置いとくから見てね」
「「お前が発表しねぇのかよ!」」
そのツッコミはともかく、クラスメイトは一斉に名簿を確かめた。
名簿には、小堂、鈴木、大和田班のメンバー、そしてウェルス組の名前だけが載っていた。
「まだなんか書いてあるよ?」
「生産職は通常業務、他戦闘職のクラスメイトはガルシア監修の下、特訓。目標は二次転職。」
色んな意味で、阿鼻叫喚である。
ガルシア監修の訓練はキツい。それは初期の頃イヤという程経験済みだからだ。
「大和田氏、外国ですぞ!水龍船ですぞ!!」
「うるせぇな、分かってるよ」
そうは言いつつも、すこしワクワクしている大和田。
「アニキと海でランデブーっすか!最高!!」
「仕事だぞ、仕事」
「やかましいわ!抜け駆け女が!!」
「なんだと…!?」
二人の口論は場所、時間問わずいつまでも終わらない。
書いてあった出向メンバーは身支度を始め、訓練メンバーは駄々をこね始めたのだった。
ーーーーー
一方エルドラドの美しき宮殿では、悪巧みをする男が一人。そして、二人。
「殿下、報告がございます」
「なんだ、面白いことでもあったのか?」
殿下と呼ばれるその人物は豪奢な椅子にもたれ、横柄にそう尋ねた。
「エリュシア王女殿下がグレンダールを味方につけたようです」
「ほう、妹は賢いものだな。姉君とは大違いだ。」
そう、彼こそがこの国の第一王子。クルシェ・エルドラド・ニーズヘッグである。
「大丈夫だ、お前という絶対的な戦力がいるからな。かくなる上は……」
「人死にが出ますが?」
「知ったことか。竜人族さえ無事であれば、人間などいくらでも勝手に増えよう」
「左様でございますか…」
冷徹なる王子は、その牙を剥く機会を待つ。
ーーーーー
水龍船に乗った一行は、三日が経ち陸を見据えていた。
「あれか?」
「そうです。あれが竜と人が共存する島国、エルドラドです」
エリュシアは誇るような、覚悟を決めるような表情をした。
「ようやく到着ですか。長かったですね、馬鹿の船酔いの介抱ももう終わると思うと清々します」
「お前な、感謝はしてるが他人事みたいに…おええ!」
小堂は顔面蒼白だ。
「勝海、あれを見ろ。何か迫ってきてないか?」
伊澄は空を指差して大和田を呼んだ。
「本当だ。なんだありゃ、竜…?」
「よく見たら結構な頭数いません?敵だったらここでお陀仏ですぞ」
しかし、空からやってくる竜達は明らかにこちらに飛んできている。
伊澄と大和田は剣を抜こうとするも、エリュシアがそれを制した。
「大丈夫、お友達ですよ」
「すご!竜も友達とか、超お姫様じゃん!」
「超お姫様ってなんだよ…」
エリュシアの発言に安堵する金宮達。
「アイツらは五月蝿いから俺は嫌いだ」
ゼノンは飛んでくる竜を睨みつける。
「ウワ、ゼノンイルゼ?」
「デモ、ヒメサマガイルカラダイジョーブダロ」
喋っている姿を見た秤は首を傾げた。
「会話内容に知性を感じませんが…アレが竜人族なんですか?」
国際問題になりそうではっきりバカとは言い切らない秤。いや、それでも問題発言なのだが…
「あの子達は竜人族じゃなくて竜族です。人のような知性からは衰えていますが、力が強く重量もあって、とても強いんですよ」
「なるほど…亜人ではなく魔物、といった分類なのですね」
「その通りです。正確には違うんですが…異国の学会ではそのような扱いだそうです」
実際、竜族と竜人族の違いはあまりなく、生まれ方の違いで決まるのだそうだ。
竜人族もしくは竜族は子を身ごもったとき、卵を産む時と胎生で産む時があり、これは選択できない。卵生のときは竜族に、胎生のときは竜人族になる。竜族だった場合、1年ほどで巣立ってしまうので、言語を操れれば十分賢いとのこと。
逆に竜族が竜人族を産んだ場合、親竜は竜族の暮らしに子を適応させられないため、子を竜人族に預ける。卵生で子が巣立ってしまった夫婦に預けられるのが通例になっている。
「私も竜人族ですが、私は竜皇様が番の方と魔力を込めて創った卵から生まれたそうですよ。面白いですよね、竜族かと思ったら竜人族が卵から生まれてしまったんですから」
大和田は降りてきた竜に絡まれている。
「オマエ、イイニオイダナ!」
「ヒメサマトオナジニオイガスルゾ」
「はぁ?」
「え、ニオイ?どれどれ…!」
「てめえは何をしてんだ」
便乗して匂いを嗅ごうとするパチコを大和田は押しのける。
「皆様、そろそろ着港します。ご準備を」
船員がやってきて声を掛ける。
「え?早くねぇか?」
「エルドラドに近づくと水竜たちが手伝ってくれるので、見えてからはすぐ着くんですよ」
エリュシアが海を指差した。
見ると、無数の水竜が海流を起こし、船を加速させていた。
やがて港に着くと、茶色の硬そうな鱗を持つ竜が船を止め、階段を持ってきて船につけた。
「これは凄い。こう見るとファンタジーそのものだね」
「俺は少し怖いな」
金宮と白銀は働く竜たちを見て驚くばかりだ。しかし、それは現地人も同じだった。
「来訪者だ…初めて見たぞ」
「強い魔力を感じるな…本当に人間か疑わしいくらいだ」
驚く人間もいれば、値踏みするように観察する竜人もいる。
ギリシャ風の建物に風情を感じる街並みだ。
「宮殿へ案内しますね?ここからはこの飛竜ちゃん達にお乗りください!」
港の外で待機していた飛竜は装飾され、立派な鞍をつけていた。
「ほら、こっちです!」
皆それぞれ竜をあてがわれて、乗せられた。
大和田は、二人乗りの竜で、エリュシアの後ろに案内される。
「何で?」
「アクセラレーター?のお礼ですよ」
「……別にそんなことしなくても」
「出発します!」
飛竜たちは勢いよく飛び立った。
「うおおおお!?」
「えへへ、驚きましたか?」
「ああ、初めての体験だな」
「私、こうやって飛竜に乗って上から街を見るのが好きなんです」
「悪くないな」
(後ろからのとんでもない殺意がなければだが)
後ろには、金宮達や伊澄達がのる四人乗りの竜が連なっていたが、一部の人間は怒りの視線を送っていたのだ。
「この子は金竜という一族で、代々王族付きの飛竜ちゃんなんですよ。家族揃ってみーんな速いんです」
「泳いでる奴とか翼がなくて筋肉モリモリの奴とか、種類豊富だな」
「他国にはない特徴でしょう?先祖が違うからなんです。」
「へえ…」
詳しく説明されても理解できないので、これ以上は聞かなかった。
「…?」
その時、妙な気配がした。
「キュイーーッ!!」
伊澄の召喚する紅い鳥、朱雀だ。
脚には護符が巻き付けられていた。魔力を流すと音声が流れるもののようだ。
『勝海、現在向かってる方向より少し右から武装した集団が迫ってきてる。気をつけろ!』
「は…?」
周りを見渡すと、複数の竜に乗った戦士が武器を装備し、真っ直ぐ向かってきていた。流石の大和田も騎馬戦などしたことはないし、勝てる見込みもない。
「暗殺者ですか…」
「逃げるぞ。操縦、替われるか?」
「え?」
大和田はエリュシアの前に出た。
「危ないですよ!扱いが難しいんです!」
しかし、大和田は手綱を引き、金竜を操る。
「いいか?全速力だ。俺の言葉は分かるんだろ?」
「アタリマエ。姫ハ全速力制御デキナイ、仕方ナイカラ従ウ」
「行け!!」
「うひゃあああッ!」
キーンッ、という音を立てて進む金竜。とんでもない速度だ。
(速すぎだろ!馬どころじゃねぇぞ!?)
あっという間に宮殿に到着してしまった。というか、墜落した。
そこは広めの寝所で、侘び寂びのある調度品が並んでいる。
「なんだ、騒がしい。あたしの眠りを妨げるとはいい度胸だな、小僧?」
目覚めた女性は豪華な装いで、とてつもない妖気に、見惚れるような美貌を称えている。
銀髪長身のその女性から、大和田は目が離せなくなった。
(なんだコイツ、めちゃくちゃ強い気配だ…!)
「お母様、すみません!怒らないで下さい!この方は悪くないんです!!」
エリュシアの焦った声が、静かな宮殿に響く。
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