二十四話
訓練場に、剣のぶつかり合う音が響く。
「違う、それじゃあ動きに無駄が出る。」
「こうか!」
再び斬りかかる。
「攻撃前と攻撃後に変なポーズをとるな。何のつもりだそれは」
「ええ、お気に入りのアニメキャラの真似なのに…」
「殺すぞ。お前が教えろと言ったのになんなんだそれは」
こんな会話を繰り広げるのは大和田と根田だった。
根田は最近魔法剣士になったばかりで、付け焼き刃の剣術しか会得していなかった。そのため何故か武道に精通している大和田に教えを請うたのだ。
「それと、魔法剣士なら魔法を使え」
「危ないと思うけど…」
「はァ?お前の剣じゃ一太刀も浴びねぇよ。なんなら今までの全部回避できるのに受けてんだからな?」
(前の訓練はわからなかったけど、この人全然隙がない…!)
その時、輪田が剣を構えた。
「こっちから行ってみるか?」
「えええ!?」
刹那、大和田の姿が消える。気づいた頃には間合いに大和田が現れていた。
根田は咄嗟に魔法で剣と身体魔力で強化して、振り下ろされた大和田の剣を受け止めた。
「ほらな、こういう時にそのアホみてぇなポーズは出ねぇだろ?戦闘中に無駄なことするやつはすぐ死ぬぞ。でも、お前は違う。今無駄のない流れで攻撃を受け止めたからな」
「荒療治過ぎません…?」
そうは言っても、内心納得もしてしまった根田。
「剣道とか日本の古武道は形式ばってて文化を尊重して、バカみたいに素振りさせたりすっけど、強くなりたいだけなら別にこれでもいいんだよ」
もっとも、素振りや基本の型、動きなどの反復練習は、身体を鍛え、剣術を身体に叩き込める。やったほうがいいが、どんなものをやらせればいいかは大和田も師範ではないので分からないそうだ。
だからとりあえず、実戦で扱きまくる。
「もう一回戦るぞ」
「ちょっと休憩…」
その時、訓練場のドアが勢いよく開く。エルフのオリアナだ。
「カツミ!頼まれてたモンが建ったぞ!!」
「マジか?早過ぎだろ。」
実はもう傭兵団の事務所建設を依頼してからひと月が経過している。一ヶ月前の世界での知識が邪魔をして、たった一ヶ月で建物が経った事実を受け入れられなかった。
「そんな早くもないだろう。苦戦してたぞ、色々と要望が多くてな」
「ふ〜ん…驚きだな」
「お前の仲間を連れて見に行くといい。じゃ、わたしは仕事があるから組合に帰るぞ」
「連絡ご苦労さん」
「礼なら今度酒でも奢れ、組合の依頼も忘れず受けろよ!」
風のように彼女は去っていく。
「チッ、今日はここまでだな」
「やっ…ありがとうございました!」
少し嬉しそうにしたので、大和田はジト目になる。しかし、少し思案して、言った。
「敬語は使うな、タメだろ。よそよそしい」
「大和田くん…ありがとう!!」
「ひっつくな!」
その時、根田は友情が芽生えたのを感じた。
ーーーーー
小堂を先頭に、ルームツアーが始まった。
「でっか…!」
思わず呟く鈴木。
体育館の様な建物が一つ。小さな学校の校舎らしき建物が一棟。
校舎の横には小さな訓練場まであった。
「どこをどう使うか分からないくらい広いな」
「マジそれな、でも色々便利そうなのはわかるね〜!」
金宮と本田は、予想より大きい事務所に驚きを隠せなかった。
「これ、もしかして…?」
照屋は見覚えのある建物を見て疑問を持つ。
「察しがいいですな、照屋氏!」
「うわッ!急に横に現れるな!!」
列で息を潜めていた輪田が照屋に突然話しかけてきた。
輪田はやせたままの状態だ。つい見惚れてしまったが、中身は変わらないので、ときめくまではいかなかった。
「これは失礼。つい嬉しくなってしまいました。照屋氏が思った通り、この建物は前の世界の学校をイメージしてデザインしましたぞ!」
しかし中の機能性は学校を遥かに超える、と輪田は自信満々に説明し始めた。
意外なことに、体育館の様な建物が本館で横の校舎は別館だそうだ。
中に入ると、左右に階段が伸び、前には作業場や訓練場があった。それもガラス張りだ。
「一階は訓練スペースですぞ。魔法の訓練は流石に強度が足りないですが、剣の試合くらいは余裕でできますな」
もう少し建物に魔法強化を加える予定だという。
「輪田、俺達生産職にも声をかけてくれればよかったのに」
「いやいや、皆さんやることがあるでしょ?」
「手伝わせてよ。こんな楽しそうなことしてるんだからさ」
生産職のクラスメイトたちと輪田は目を合わせ笑い合う。
「じゃあ、まだやりたいことがあるので頼みます」
「任せろ!」
二階には事務所部分があった。四角の机が複数置いてある自由スペースと、受付の様なカウンター。奥のドアを開けると短めの廊下が続き、小さな会議室と、資料を仕舞う部屋があり、一番奥には執務室まであった。
「この執務室、誰が使うんだ?」
小堂は輪田に尋ねた。
「誰って、あなたしかいないでしょ?」
「えっ…!?本当か!!」
小堂の目が子供のように輝いた。
「もちろん。仕事部屋として使ってください。流石に男子寮での事務仕事は騒がしかったでしょ?」
「あ、ああ。そうだな。ここで頑張って仕事して、整理整頓も怠らないように気をつけよう。」
ここからは自由に見る時間となった。
ちなみに別館は二階建てで十個ほど教室があった。
下の5部屋は作業場、上は教室を半分にして数人が止まれるスペースが教室2つ分の四部屋、事務部屋として教室一つ、倉庫として教室一つという構成だ。残りはフリースペースらしい。
「やれやれ、なんだか懐かしい雰囲気ですね…」
「悪くないんじゃない…?」
「すっご!こんなの建てれるんだ!!」
なんで連れてこられたか分からぬままに来たウェルス組も感嘆の声をあげた。
「あ、そうだ。元捕虜のみなさんは明日以降ここに引っ越しです。いつまでもあの寮に居るのは気まずいでしょ?」
「………え?住んでいいの?」
一人を除いて元ウェルス所属組は確かに寮での生活に疎外感や窮屈さを感じていた。
「いいですね。あそこは騒がしいので、ありがたくここに住まわせていただきますよ」
「秤、お前な…」
小堂は秤の肩を叩いた。
「なんですか?事実でしょう。私は子供が好きではないのでね」
「…まあいいか。仕事、手伝えよ?」
「穀潰しになるつもりはありませんよ」
軽口を叩き合う様子を見て、ついてきていた今田は疑問に思った。
「先生、秤さんとどういう関係なんですか?」
「あ、言ってなかったな…実は俺とコイツは大学で知り合った友達なんだ」
「えええええ!?」
「俺も驚いたよ。手枷を着けた秤が寮に来た日はな」
小堂はその時のことを思い出す。
その日は戦争関係の書類を必死に処理していた。そんな時に大和田と輪田が外から帰ってきた。
「じゃ、これ外しますね〜」
「暴れたりすんじゃねーぞ」
捕虜三人組を城から引き取ってきたのだ。
「しないわよ、何だと思ってるワケ?」
警告する大和田に食ってかかる彼岸。
「雑音の多い馬鹿でしょう」
「やかましいわよ、秤!」
「うるさいのは彼岸ちゃんだよ、静かにしよう…?」
そこで小堂は懐かしくも、驚くべき姓を耳にした。
「秤…って言ったか?」
目が合ったのは、まさに旧友そのままの男だった。賢く冷淡、それでいてどこか人間味の強い親友。仲良く青春時代を過ごした記憶が蘇ってくるようだった。
「おや、小堂ですか。異世界に来てもその阿呆面を見ることになるなんて、人生とは分からないものですね」
小堂の顔を見て、少し驚いていたが、すぐ元の調子に戻る秤。
その話を今田が聞いて、唖然とした。
「世間って、こんなに狭いんだ…」
「それは私のセリフですよ。まあ、何はともあれ新居については感謝します」
秤は軽くそう言って部屋を見に行った。
「大和田氏が霞むくらいスーパー超えてウルトラドライですな」
「大和田ってそんなドライだっけ?」
最近色んな人から軟化したという証言をよく聞くので、小堂は疑問に思った。
実際大和田はドライではない。そもそも不良になった要因が友達なのだ。そんなわけがなかった。ただ単にリアクションが薄めで、飄々としているのでそう思われているだけだ。
ルームツアーは大好評で終わった。
ーーーーー
事務所に荷物が運び込まれて、本格的に事務所での仕事が始まった頃。
大和田は小堂に呼び出された。
「国から仕事の依頼がきたからやってもらいたい。護衛の仕事だ。港町から他大陸のお偉いさんが外交のためにやってくるから王都まで護衛してほしいそうだ」
「何で俺だ?金宮とかのが向いてんじゃねーの?」
「あー…違うんだ。お前に頼みたいのは護衛じゃなくて、討伐だ。伊澄、輪田とルート上の盗賊やら魔物やらを処理しておいて欲しい。」
小堂は国からもらった地図を渡す。それには魔物やマーク済みの盗賊の拠点について詳しく載っていた。
「この量を処理って…三人じゃムリだろ」
「通常業務も欠かせないからな…いけるか?」
冒険者組合と提携して定期的に行う仕事もあるので、人員を割けないのが現実問題としてあった。
「困っているようですね。私達が手伝いましょうか?」
話しかけてきたのは秤だった。
「秤。お前が戦ってくれるのか?」
大和田は秤の実力がよく分かっていなかった。
「…お前強いのか?」
「ええ、人並み以上には。」
「ちょっと戦ってみたくねぇか?」
大和田は秤から不気味な強さを感じ取っていた。なので、少し試してみたくなったのだ。
「実力を確かめるのはお互いにとって良いことでしょう。貴方が望むなら構いませんよ」
その気配は言葉以上にやる気になっていた。
外の訓練場に出ると、二人は小堂の合図で戦いを始めた。
「竹刀でもいいですよ?怪我すると悪いですからね」
「やるなら真剣に決まってんだろ」
大和田は宝剣を抜いた。
秤の力で訓練場の端っこにある剣が蠢き始める。
二人の舞踏が始まった。
大和田は芸術のような、それでいて獣の如き歩法で距離を詰めていく。
殺意を持って複数方向から念動剣が大和田を狙うが、刃先で勢いを逸らし、その全てを受け流す。
「ふむ、不良と聞いていましたが…粗野な戦いでないですね」
「意外と俺は、几帳面なんだよ!」
あっさりと剣の間合いに入ったが、数本の剣が盾のように交差し、秤を守った。
「鉄壁じゃねぇか」
「驚きました。ここまで詰められるとは」
今度は正面から盾になっていた剣が大和田に多段攻撃を仕掛ける。
「よく管理出来てんな…!」
「マルチタスクは昔から得意なんですよ」
秤は大和田の想像を超えていた。
それも当然。戦争の時、秤は複数の生徒を相手取って互角以上に立ち回っていたのだ。弱いわけがない。
「でも分かったぜ…!俺の勝ちだな」
大和田はニヤリと笑った。
「………」
秤は剣を全て使い、動きの止まった大和田を狙った。
「オラオラオラァッ!!」
大和田は宝剣を巧みに操り、飛んでくる念動剣を全力で叩いた。すると、念動剣は動かなくなった。
「まさか…」
「面白え力だよな、それ。まるでたくさんの手で剣を持ってるみてぇだが、流石に受けられる衝撃には限界があんだろ」
秤の念動剣は、剣の重量を利用するために念動力を柄だけに掛けている。そのため、剣先に過剰な力を加えると力が耐えられなくなって剣を制御出来なくなるのだ。違和感を感じたのは、初撃を複数の剣で防がれた時。もし無制限に制御出来るならば、使うのは一本の剣で十分なはずだ。
「やれやれ、とんだ化け物ですね。降参しますよ…」
「悪くなかったぜ、俺相手じゃなきゃな」
二人は認め合った。
「楽できそうだな、これは」
「いや、あなたもしっかり働いてください」
こうして秤の仕事への参加が決まった。
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