二十三話
グレンダール王国某所にある酒場にて。
「帰路の群星の初陣兼勝利を祝してぇ…!」
「「「「カンパーーーイッ!!!」」」」
金宮が音頭を取り、祝勝会が始まった。
勿論酒は出ていない。しかし、その雰囲気で皆陽気になっていた。
誰一人欠けずに戦争を生き残ったのだ。
「犠牲者もかなり出たらしいけどな…こんなことをしてもいいのだろうか」
小堂は戦争の悲惨さに目を向け頭を掻いた。
「う〜ん、まあそうだけどさ。勝ったこと喜ばなきゃ亡くなった人達も浮かばれなくないですか〜?」
「本田…。そうだな、水を差すのはやめとくか。マスター、ビールを一つ」
少し離れたカウンターで、ビールを呑みながら小堂は故郷を思う。
二人で教育談義をした仲のいい同僚。
送り出した教え子たち。
もはや今は記憶の中だけの存在だった。
「うるせー奴らだ…少ししたら帰るか」
小堂の二つ横のカウンター席に座ったのは大和田だ。
「大和田…」
「何だよ」
「お前もクラスに馴染んできたな」
「こんなことがあって適応できない奴はバカだ」
「フッフッフ、そうか。何だろうと嬉しいよ」
入学式に出て以降、一切学校に来なかった大和田。1年生の時はその時の担任が熱心で、家まで行って勉強を教え、課題をやらせていたそうだ。そのお陰で彼は進級できたらしい。
「興味本位なんだが、いくつか質問していいか…?」
「勝手にしろ」
「お前が何でグレたのかは大体他のクラスメイトから聞いた。学校に戻って来てくれた理由を教えてくれないか」
「別に…何もねぇよ。いや、何も無かったからかもな。町の不良共を全員ぶっ倒しても、俺は何も感じなかったよ。だから戻ってきた」
不良という文化への復讐を終えて、大和田は自分の心に詰まっていた何かはただの虚無だった事に気づいた。
ああ、やっと終わったな。それだけだった。
彼は実に自然に、心に空いた穴を何かで埋めようとあるべき場所に戻ろうとしたそうだ。
「ご家族の方々はお前をどう扱ってたんだ、お前の家は割と剣道の名家だろ?」
大和田は少し思い出そうと思案した。
「父親はブチ切れてたな。謝罪して、学校に行こうと思うまでは口もきかなかったよ。母親は…何もしてねぇし何も言ってねぇのに俺に謝るばっかりだった。父親に謝ったときにやっとそれをやめたかな。」
小堂は彼の家庭訪問に対応していたのが祖父だと記憶していた。
「おじいさんは?」
「ジジイか、あいつは褒めてたよ」
「え?」
大和田の祖父は、彼の武道の起源だ。要は、師匠である。
「小さい頃からつまんなそうな顔で剣道とかやってた、事務的に。
でも、不良やってる時の俺は空いた日にジジイと毎日手合わせして、メキメキ強くなってたよ。それが嬉しかったのか、俺の暴力の振りどころには目を向けてなかったな」
今考えたら、とんでもない老害だな、と大和田は笑った。
「学校じゃ何も出来ねぇな…アイツの言う通りだ」
「あ?」
「いや、何でもない。昔の親友を思い出してた。あいつは教育学を学んで、何かおかしさを感じたんだろう、数年したら専攻を変えたよ。今の型に無理矢理嵌めようとするような学校教育は間違ってる、嵌まらないヤツを放逐、排除するようなのは尚更だってな」
結局、独りでは何も変えられなかった。
「俺からも質問していいか?」
「勿論だ、でも、酒飲んでるから、変なこと聞くなよ?」
大和田は苦笑しつつ、質問を投げかけた。
「もし、もし帰る方法が見つかっても…」
「?」
「帰りたくねぇヤツがいたら、お前はどうする、先生」
なんとなく動悸がした。背に冷たい汗が伝ったような気がする。
しかし、小堂は自分に言い聞かせるように答えた
「俺は、俺は教師だ。生徒を預かってる以上、必ず家に帰す」
「…」
「でも帰る前に…」
大和田は小堂を見つめている。
「もう一度この世界に戻る方法を探すな」
「ブハッ!マジか、そんな荒業が!?」
「笑うなよ!真面目に答えたんだぞ!」
一度家族に会ってからでもその決断は遅くないと思わせたかった。
「お前はそう思ってんのか?大和田」
「いーや、思ってないね。アンタの答えを聞きたかっただけだ」
「何だよ…ギクッとしただろうが」
大和田は何処か安心したような顔つきになった。
「俺は家に帰ったら言ってやるんだよ、家の馬鹿共に、『ーーーーーー』、ってな」
「…いいじゃないか。素敵だな、それ」
小堂はそれを聞いて、涙が出そうになった。
(さて、部屋に戻るか…)
大和田がそう思った瞬間だった。
「大和田っち、何こんなところでしけこんでんの〜!」
「そうですよ。宴会なんですから楽しまなくちゃ!!」
輪田と本田のダル絡みに遭う。
「ちょ、何のつもりだテメェら!」
「うるしゃいぞ勝海ぃ…!いいから楽しめぇ!!」
絡んでくる人間が、もう一人。伊澄だ。フラフラとして、何だか陽気になっていた。
「は…?」
「えっと、店員が間違えてお酒持って来ちゃったみたいで…」
「奈子!!そこをどけぇ!わらしがこいつを連れてくから〜!」
伊澄は寄りかかり、その豊満なモノを押し付けながら、寝た。
「帰る」
そのまま伊澄を背負った大和田は酒場を出ていく。その際、今田に女子寮の鍵を渡された。寝たかったのに、送っていけと暗に命令されてしまったのだ。
(全くなんなんだこいつら、折角しみじみとしてたのによ…)
「はぁ…」
「勝海…!私は帰らないぞぉ」
「黙って寝てろ」
女子寮に着くと、もらった合鍵で入った。フッといい匂いがした。
伊澄の部屋がわからなかったが、ドアに小さな看板が掛けてあったので、「イスミ」と日本語のカタカナで書いてあるのを見つけられた。
伊澄をベッドにそっと置くと、いきなり脱ぎ始めた。
「はぁ?」
寝る時は裸族なようだ。
大和田は目のやりどころが無かったので、サッと外へ出ていった。
鍵は所定の場所に隠した。
気持ちの良い夜風の中、大和田は自分の部屋に戻るのだった…
ーーーーー
戦争の整理も終わり、大和田達はグレンダールから報酬を貰った。
「よくぞ戦ってくれた。我が国を見捨てないでいてくれて、本当に感謝する」
新しい宰相になった若い男、ドリアスは"帰路の群星"全体の戦果と、個人の戦果を記録したものを読み上げた。
「オオワダ、イスミ、ワダ、カナミヤ、ネダ、ホンダ、スズキ。君達には特別報酬を用意しよう。何か希望はあるかね?」
六カ国から賠償金を大量に手に入れて、羽振りが良いようだ。
金宮は国に所蔵している位の高い剣の一つを貰うことになった。
輪田はというと…
「異世界人の捕虜を全員いただけますか?きっと彼らも元の世界に帰りたいはず。帰路の群星に組み込みたいのです」
王は迷ったものの、それを許した。
大和田は突飛な事を言い始める。
「少しデカめの土地をくれ、教会が二つ建つくらいのな。あと金」
王はその物言いに苦笑しつつ、潜入作戦や、勇者討伐の戦功を鑑みて、それを許した。
伊澄、根田、鈴木、本田はお金を追加で貰った。
それから数日経ち、報酬の手続きが終わり払われた。
傭兵団としての報酬も中々のもので、日本円で言えば一千万円強レベルの額だ。この国は物価が低いので、額面以上の価値があるだろう。
「で、なんで俺についてきやがる。輪田の手伝いをしてこいよ」
貰った土地を見に来た大和田に付きまとっていたのは、勇者一条志乃だ。ちなみに土地は、城下町の外れにできた広めの土地だった。面積も希望通り、やりたいことにも立地が合っている。
「何やってるか全然わかんないし、説明されてもわかんなかったんだもん」
「だもん。じゃねぇよ…」
「あとそこのお前、わかってるぞ!出て来い!」
街灯の陰から出てきたのは、ギルドマスターでエルフ族のオリアナだった。
「いい年こいて何してんだ、テメェはよ…」
「何だと!?ワタシはまだピチピチの190歳だぞ!訂正しろ!!」
もちろんエルフの中では若い方である。寿命は800年〜1000年ほどだそうだ。
「このあとこっちから挨拶に行こうと思ってたってのに、何の用だよ?」
「別に、通りすがりに見つけて気になっただけだ。こんな土地を貰って、何をするつもりだ?」
「俺達の事務所と、孤児院でも作ろうと思ってな」
「大工ならツテがあるぞ、どうする」
輪田をフル動員しようと思っていた大和田は、少し考えた。
(よく考えたらアイツが出来るとも限らねぇし、そもそも戦争終わって間もないのにこき使うのは気が引けるな…)
「じゃあ頼む。これ持ってけ、前金だ。」
大和田は金貨袋を差し出した。
「こんなにはいらん。この金貨十枚もあれば簡単に建つぞ」
「まあ取り敢えず持ってけ。設計から何から全部指図してやりたいから、その分ってことで」
「そうか、わかった。お前はこれから何するんだ?」
「輪田のおつかいだよ。コレを使って地盤を調べてこいだとよ」
取り出したのは、筒の様な魔法道具だった。
筒を地面に突き刺して魔力を込めると、筒は動き出し、地面を掘った。
筒を持ち上げてみると、ガラスに地盤が詰まったものがたくさん出てきた。
「これで何がわかるんだ?」
オリアナは尋ねた。
「特に問題はなさそうだが…」
別に知識があるわけでもないので、よくわからなかった。
「ん?何だこの紙は」
輪田が仕込んだ手紙だった。
『多分調べてもよくわからないと思います。え?僕もわかりませんぞ。そこまで知識欲の塊って訳じゃないですからね。ただの魔法道具の実験でしたドッキリ!面白くないで…』
そこで大和田は破り捨てた。
「あいつは、後でぶん殴る。絶対な」
「大和田くん、これからどうする?」
志乃は大和田に聞いた。
「はぁ、メシ行くか…」
大和田は空を見あげた。
(急に平和になりやがったな、まったく。)
ドッキリにイラついたはイラついたが、なんとなく和んでしまったのだった。
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