二十二話
八本の剣が独りでに舞い、戦う。
秤一人対複数で戦っているのに伊澄は複数人を相手に渡り合っているような気分になった。
「自信満々に出て来てこのザマとは、失笑モノですよ。」
「お前こそ弱者をいたぶるつもりで来て、随分疲弊してるじゃないか。少し剣が遅くなってるぞ」
「………」
その通り、秤は煽っていたものの余裕がなかった。なにせ根田の班員の魔法攻撃と根田の剣を妨害しながら、式神と同時に果敢に攻撃してくる伊澄を相手しなければならなかったからだ。秤の持つ思考を分割して並列で物を考えられる能力がなければそれを成すことは不可能なほどだ。
しかし、伊澄たちも決定力に欠けており、もう一歩を踏み込めずにいた。
その時、異世界人の狂戦士、児玉大がやってきた。
「大、私をサポートしなさい。奴らを始末するのです。」
「………」
(返事がありませんね…もう"狂化"を使ってるのですか?)
"狂化"とは、狂戦士の職業専用スキルで、理性がトぶ代わりに身体能力が超強化されるスキルだ。敵味方以外の認識が全て野生動物並みになるが、その肉体性能は下位の竜をはるかに超える。
「……ガァァァア!!」
「何をしているのです!?」
しかし児玉は秤を襲った。その原因は…
「わたしにかかればあんな奴の支配はよゆーだよっ!!」
鈴木彩芽が使った精神支配の効果だった。
理性を失ったことで精神攻撃系統の耐性が軒並み下がっていた児玉は、あっという間に支配された。とんだ天敵である。
「チッ…役立たずが、死ね」
一本の剣が死角から迫り、児玉の首を刎ねる。
仲間を躊躇なく殺した秤に、鈴木や根田は驚愕した。
「嘘だろ…」
「人の心ないの?あいつ!?」
その驚きも束の間、伊澄が隙を逃がさず畳み掛ける。
「自然の気よ…陰陽の印に於て集まれ!」
周囲のエネルギーが収束していく。
白と黒、二つの色に別れるように方陣は回転し、勾玉を組み合わせたような紋様となって伊澄の刀に宿った。
「太極の魚」
ゆったりと、それでいて美しく泳ぐ魚のように秤の身体を通り抜ける斬撃。物理的な作用はないが、それは秤の魂と肉体のつながりを切断した。
喋る間などない。
(どうして…いや、当然の帰結でしたか。どうやら罪を重ね過ぎたようです。お天道様は見ているのですね…!)
最期に彼は柄にもなく、存在するかも分からない神に思いを馳せた。
(もし見ているのなら、贖罪の機会が欲しいものです。私は彼らに…とんでもない業を負わせてしまった)
ともにこの世界に召喚され、生き残った仲間に秤は生きる為、殺戮を勧めた。己の生の為、名誉の為と、他の道から目を背けさせた。
「そう思うなら、やり直せばいい」
現実に引き戻される意識。戦場で彼は、女神を見た。
自らを正道に戻さんとした、その儚げな美貌を。
「楽な道では、なさそうです…ね…!」
こうして秤は、己の罪と共に新たな道を歩むことを選択した。
そんな彼が孤児院を開くのは、もっと未来の話だ。
ーーーーー
戦場の真ん中に、ぽっかりと空き地がある。そこで相対するは、金宮とタルセスだ。
「中々やるようだな、若造」
「僕の方は期待外れかな」
「私はまだ力を一割も使ってないからな!」
タルセスは突如魔法で大火球を放った。
「無駄だよ」
盾が輝き、その魔力を分解する。
彼の盾の名前は、"破魔の聖盾"
防御面で魔法にぶつかると、魔力を分解し魔法を強制解除してしまう。
そして彼のもう片方の手には、小ぶりな剣を持っていた。
最初こそ大剣を持っていた。魔法を込めた大技で一撃の下に相手を仕留めるスタイルだったのだが、同格がそれ以上の相手と戦うには向いていなかった。金宮の膂力では重い大剣を振り回すと隙ができすぎたからだ。
「厄介な…!」
魔法で強化した片手剣を素早く振り、小技を繋げて戦う。しかし、金宮の勇者専用スキル"勇者の剣舞"は剣を持つ者のスピードと攻撃威力を底上げしていく。
打ち合うたびに加速する剣速。
(クッ…!認めたくないが、これ以上戦えば負けてしまう…!)
一介の兵では、その応酬を視認すらできない。
長期戦は不利と悟ったタルセスは魔力を身体強化に回し、それでも有り余る魔力を身体に循環させた。そして、奥義を放つ。
「そろそろ終わらせてやる。破軍震撃!」
「僕はもう負けない、仲間にも、敵にも!!そのためなら何だって!」
金宮はかなり頭を回転させていた。そして、奥の手を使う。
「光魔法:光霊照射!」
とんでもなく眩い光が、辺りを照らす。
奥義の狙いを定めようとしたタルセスの目は、一時的に見えなくなった。
「卑怯な!」
「僕は勇者だけど、武芸者じゃないからね。それにこれは君が初めた戦争だ。」
ここは決闘場ではなく戦場。卑怯など存在しないのだ。
完全に隙だらけになったタルセスに、研究を重ねた金宮の必殺技が火を吹く。
「喰らえ、"天下連斬"ッ!」
金宮の天下を付けた名前の技には、いつしかあるスキルが付与されていた。
勇者専用スキル:勇者の懲罰だ。連続発動ができないが、相手の悪行に応じて攻撃威力が上がる能力だった。これは、大和田の"覇道"に匹敵するとてつもない効果を誇る。
上手く防御姿勢がとれず鎧や武器を完全無視して肩から斬り伏せられたタルセスは、致命傷を負った。
「ぐ、この私が負けるとはな…勇者金宮よ、素晴らしい剣だった。冥土へ旅立つ前に教えてやろう…ウェルス共和国の上層部は…何か後ろに……」
そこでタルセスは喋れなくなる。意識が無くなる寸前、金宮はタルセスに話しかけた。
「僕もここまで苦戦するとは思わなかった。天国でとは言わないが、ゆっくり眠るといい」
タルセスは苦笑を浮かべ、息絶えた。
連合軍の強者達は、次々と倒れていく。兵の中にはそれに気づき逃亡する者もちらほらといる。
勝利を確信していた者たちは、敗走しつつあった。
ーーーーー
大和田は支配された勇者と数十分戦い続けていた。
しかし、さっきまでと違い基礎能力が拮抗していて、なんなら戦闘技術が優れているので大和田が押していたのだ。
(これ以上力を入れたらクリーンヒットした時に相手が死ぬな。だがやんなきゃ勝てねぇぞ…どうする?)
そこで大和田は首輪を見つめた。
「アレをぶっ壊すか」
大和田は勇者の猛攻を受け流しつつ算段を立てた。
そして剣を地面に突き刺し、魔力を身体に循環させる。
勇者は正面から剣を振り下ろしてきた。
(集中…集中だ…!)
「防御すんじゃねぇぞ…お前のためだからなァ!!」
剣を間一髪で回避し、掴んで横から殴る。剣は横方向の強度が低い。そこを狙う鈴割りという技だ。勇者の持っていた長剣は砕けた。
一呼吸も入れず、腹に向けて掌打。
勇者は苦悶の表情を浮かべ、吹き飛んだ。大和田はその速度に追いつき、まだ地に足のつかない勇者の手足の関節に拳で乱打を叩き込む。
戦闘が終わった輪田はそれを見て感嘆した。
「凄いなぁ…あの技は伊澄氏に使っていたものと同じなのに、速度が上がってもあそこまで正確に出来るものなんですか…!」
「黙って作業して!」
今田が珍しく怒鳴る。
こちらはこちらで立て込んでいた。輪田の賢者の石が暴走を始めたからだ。
それはさておき、勇者はほぼ全ての手足の関節を破壊されて、宙を舞った。
ふわりとそれを受け止めて、首輪を握り潰そうとする。と、勇者が苦しみ始めた。
「うっ…ああああああァ!!」
あまりの絶叫に、さすがの大和田も手を止める。
「何だコレ…魔法か!」
大和田はポケットから何かを取り出し、貼った。
「えーと、護符発動?」
一瞬魔法の効果が止まった。それを見逃さず、大和田は鋼鉄でできた魔法の首輪を砕き、引きちぎった。
魔法の効果が戻った途端、首輪の残骸は爆発した。
「あれ…あなたは?」
爆発の中、目覚めた勇者は誰何した。義賊は少し思案して、何故かバツが悪そうに答える。
「ガラじゃないが、命の恩人ってやつだな。感謝してくれてもいい」
「ふふ、謙遜しないんだね…ありがとう」
勇者は…いや、その少女は、初めて笑顔を見せた。大和田達と同じくらいの年齢か、それより少し下っぽく、儚げで美しい顔をしていた。
依然として戦場には叫び声が飛び交っているが、そこだけはゆっくりと時間が進むようだった。
「さて、お前どうする。ここに放置したら死ぬし、お前の軍の陣地まで送り届けてやろうか?」
忘れそうだが、勇者は大和田の攻撃で身体が全く動かない。
「恩人さん、あなたについていきたい。連れて行って…!」
「名前は?」
「私は、一条志乃。あなたは?」
「大和田勝海。将来の夢は元の世界に帰ることだ。ついてくるならお前も手伝え、志乃」
その言葉と同時に、大和田は一条をお姫様抱っこで持ち上げた。
「きゃっ!」
「はァ…疲れたな。行くぞ」
大和田は戦場を真っ直ぐ歩いた。誰もがそれを避け、道を譲る。
ガルシアと金宮がタルセスの首を掲げ、敵軍は撤退した。
戦争は、終わったのだ。
「大和田氏、こちらも終わりましたぞ」
「誰だオマエ」
突然現れた長身のイケメンに、大和田は冷たく返す。
「ひどっ!!あなたの頼れる相棒、輪田くんですぞ」
「マジかよ!…なんてな。どうやったらそうなるんだか」
次に駆け寄ってきたのは伊澄だ。大和田の顔面向かって胸からダイブしてきた。
「勝海、無事だったか!」
「おい灯香、抱きつくな!落とすっての!」
本当は胸に顔が埋もれて動揺しただけだ。
「あはは、悪い悪い。つい嬉しくてな」
こっちも照れているが、それは密着しすぎたからだった。
「心配しなくてもお前より先には死なねえよ」
最後に進路に飛び出してきたのは、パチコ。
「ちょっとアニキ!なんですかその女!!」
「怪我人だよ、黙ってろ。お前は無事でよかったな」
「はい!って…お前誰?」
「ひっっど!!僕ですよ!」
「えええええええ!?」
輪田はまあまあショックを受けた。
(こういうのは仲間は気づいてくれるやつじゃあないんですかね…?)
大和田は気づいた上でああ言ったのだが、輪田はそれに気が付かないのだった。
「へー。なんか、意外と…」
「パチコ氏はこんな時も溌溂としてますね?」
眼鏡をかけ直し、輪田はパチコを見て笑顔を見せる。
パチコは、少しドキッとした気がしたが、それを振り払う。
「なんか調子狂うから早く太れ」
プイッと、パチコは顔をそらした。
志乃は、寝たふり。
(温かいな…この人たちは。私もこの輪に入れるかな)
まさに学生のような空気感。奪われた青春を胸に感じながら、これからに思いを馳せた。
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