二十一話
戦場では、炎の雨、死霊の集団、お互いの兵が戦々恐々としていた。
敵本陣にて、ウェルス共和国の将軍であるタルセスは思案していた。
「このまま前線を押されると厳しかったですが、ここで異界の戦士を出したのは正解でした。流石です、将軍」
参謀はタルセスにおべっかを使う。
「まさかあのような人数召喚していたとは…しかし、あの魔剣士や魔法使い、聖女をのぞけば一人一人の実力は低い。まだ勝利は堅いだろう」
(奴らの士気の高さはどこから来ている?故郷を守るためとは言え、圧倒的な戦力差があるというのに…)
すると、テントに伝令が入る。
「報告です!人質を取っていた衛兵が反逆を始めました!!」
「何ッ!?」
正気ではない。ここまで戦って家族の命を守ったにもかかわらず、捨てるような真似をするとはタルセスには思えなかった。
「どうやら王城で何か騒ぎがあり、人質が空間魔法で連れ去られたようです。なお、戦場に敵の援軍とこちら方の勇者が現れ、交戦しています」
タルセスは混乱した。だが、すぐ冷静になる。
「分かった、私が出よう。参謀、ここは頼んだぞ」
タルセスは何も知略だけでのし上がったのではない。ガルシア同様、将軍と呼ばれるだけの武勇があるのだ。
白熱する戦場に、新たな戦火が燃え上がる。
ーーーーー
「起きなさい、私の可愛い兵隊さん」
紫の髪をツインテールにした少女は不死者で出来た肉塊のようなゴーレムの肩に乗り、足を組んで微笑んでいた。
彼岸萌花は黒魔術師だ。
彼女の周りに展開された魔法陣に死体が触れると、動き出して敵を襲う。
「相変わらず趣味が醜悪極まりないですね、彼岸さん」
「うるさいわね、早く前線にいってきたらどう?秤リーダー?」
「いいえ、貴方だけで勝てるならそれでいいんですよ」
軽口を叩き合っていたのは、ウェルス共和国にて召喚された異世界人の二人組だった。
グレンダールほどの規模ではないが共和国で行われた勇者召喚では、十人ほどの異世界人が召喚されている。
その半分程は訓練で精神を病んで死んでしまったり、戦場で足がすくんで殺された。
「仕事しないと、勇者みたいに人形にされるわよ」
「フフフ、それは恐ろしいですね。では働いてきますか」
秤翔太の職業は念動力師という。元から持っている八本の剣と、戦場に落ちている無数の武器を自由に操り、敵を切り刻む。
「何なんだあんたは!」
「黙れ、お前の喋る時間はない。私は非合理的なことはしたくないからだ」
秤はグレンダールの兵を回転する剣で切り刻みながら戦場を突き進んだ。もちろん死んだ敵兵は不死者にされ、味方として敵兵に向かっていくことになる。
「止まってもらおうか。僕は根田康太といって、ここを守っているんだ。これ以上の進行は許さない」
「許さない?戦場においてそれを決めるのは勝者ですよ」
「なんで、あなたも異世界から来たんじゃないのか?」
「この世界は素晴らしい。適者生存といいますが、この世界では強い者が、賢い者がそれです。優秀なものが、正しい者が報われない前の世界の常識など、非合理的だ」
無数の剣が根田とその仲間たちを襲う。
防御結界を張って対抗したが、このままでは反撃ができない。
ギャリギャリと回転する刃が結界とぶつかって悲鳴をあげる。
「おや、破れないとは。素晴らしい魔法技術ですねぇ。ならこれはどうですか?」
剣は攻撃の仕方を変える。刺突だ。一点突破で結界に連続で刺突を仕掛け、結界にひびを入れる。
「耐えろ、相手の限界が来るまで…!」
(こんな攻撃をいつまでも続けられる筈がない、耐えるんだ!)
しかし、そんな願いもむなしく結界は破壊された。
秤の念動力は凄まじいものだった。弛まず訓練し、常に上を見続けた。
その結果は勇者に匹敵するほどだ。
「頑張りましたね、殺して差し上げます。あなたのような弱者はこの世界にいらないんだから…」
その時、剣が動きを止める。
「何ですか、これは?」
剣に貼られていたのは、手のひらサイズのお札。
現れたのは、伊澄、輪田、パチコの三人だった。
「お前が凄いのは分かったが、私はその詭弁のような理論は嫌いだ」
「何だと?」
秤は反対されるのが嫌いだ。自分が全て正しいと思っているからである。そんな性格が、前の世界で働いていた会社で軋轢を生んだのだが…
「あれれぇ、さっきまでの丁寧口調はどうしたんすかァ?ご自慢の武器を止められて、余裕無くなっちゃったんすね!」
「………黙れ、殺すぞ」
「できないことを言うのはお勧めできませんぞ。あなたが嫌いな非合理的というやつですからな」
「ほざけ!ゴミが次から次へと増えやがって…どいつもこいつも私の邪魔をするなァ!!」
秤が元から持っていた八本の剣が光り、動き出す。これは封印の護符でも止められない。
「伊澄氏、パチコ氏、康太くん、こいつは頼めますか?」
「ああ、奥の悪趣味な女は任せた」
「オマエに言われなくてもやるわ」
「輪田君、お互い頑張ろう!戦争をおわらせるんだ!!」
「…武運を祈りますぞ」
反撃開始である。
ーーーーー
輪田と相対するのは、彼岸だ。
「なんなの、このデブは?」
「こんな異形の魔物が好きなのに、見た目を気にするんですね」
「うざっ。早く死んで」
けしかけた十数体の不死者は輪田を狙い、消え去る。
「そろそろこの戦を終わらせなければ。人が死に過ぎですぞ」
「あなたたちが早くくたばれば終わるわよ」
「戦争の終わらせ方は、全滅だけじゃありませんぞ。例えば、戦意を無くさせるとか」
輪田は地面から岩でできた棘を作り、不死者達をめった刺しにした。
「その程度じゃ終わらないよ、私の可愛い兵隊さんは!」
(しかしこいつ、全然動じないわね。普通なら恐怖で動揺するのだけど)
「………」
「無視してんじゃないわよ!!」
その言葉すら無視。
輪田は黙々と、何食わぬ顔で不死者を解体し続けた。
バラバラにして、地面に埋めるのを繰り返す。
(馬鹿にしやがって…オタクみたいな顔したデブの癖に!)
「わかりましたぞ」
「何がだよ…!」
「お教えしましょう」
その時、彼岸の怒りが頂点に達する。不死者を生贄に、エネルギーを集めた。
「いらねぇよ、死ね!"生の冒涜"ッ!」
その暴威は初撃だけで終わらず、不死者が全て消えるまで続く。はずだった。
「まあ、そういうこともできそうですよね」
(ッ!?どういうこと?私の技が…破られたの?)
「不死者を"鑑定"した結果、あなたが不死者の素体からのエネルギーを利用して不死者を自分の魔力が通りやすいように創り、微弱な魔力で支配していることがわかりました」
輪田は不死者を食い止めながら、ゆっくりと解析していた。
「実に強力無比。強敵相手でも、不死者からエネルギーを徴収して桁外れの威力の攻撃を出せる。チートですな」
「わかったからなんなのよ!結局この状況は変わらないじゃない!」
輪田はニヤリと笑う。
「あなた、必殺技撃ててないじゃないですか。まあ、それはさておき。僕はあなたと同じ異世界人ですぞ。つまり、同じくチートクラスというわけです」
輪田は周囲を見渡し、巨大な魔法陣を張った。
「な…なにこれ…!」
「貴方も趣味が悪いですねぇ…人の命をなんだと思っているのか」
「どうせ死んでるんだから、関係ないでしょ?」
「じゃあ僕が今からやることも、容認してください」
不死者、そして戦場の死体が装備を遺して消えた。
「錬金術における禁忌を知ってますか?」
「まさか…」
錬金術において禁忌とされ、残酷で、最も効率のいい技。
それは人体錬成だった。太古の錬金術師達は、強大な力を得るために手段を選ばず研究を続けた。そして形となった一つの答え
越権錬成"賢者の石"。
その名の通り、人智を超えた力を持つ石。所持者に膨大な魔力を与える。通常であれば制御は不能だ。しかし、それを輪田に解決でき得るものだ。
錬成時に発生する煙が晴れ、その男は現れる。
身につけていたYシャツと黒いズボンは、学生服の名残りで、その上にはフードのついたローブを身にまとっていた。細身に長身、その顔は非常に整っており、眼鏡の奥の視線は敵である彼岸を貫く。
彼の周りには、魔法陣が展開されている。
「痩せた…それに凄まじい力ね。でも、制御できるのかしら?」
「いい質問ですね、その通り。人の脳みそ一つではこれらを御するのは不可能。ならば…外部に擬似的な脳を作ればいいのですよ!」
彼岸は驚愕した。魔法で巨大な腕を作った者は見たことあるが、人体でも複雑な構造の脳の演算機能を再現するのは至難の業だ。
まあ、正確には脳みそではない。イメージとしてはコンピューターである。しかし、魔法の発動の為のプロセスをプログラムして、命令すると勝手に発動を手助けしてくれるのだ。
賢者の石、制御用魔法陣、これらを駆使して輪田が発動したのは、錬金術ではなく魔法だった。
「借りますよ、本田氏。炎散爆・乱撃」
炎弾が放たれるところは同じだが、まず威力が桁違いだった。
上方向から降り注ぐ魔法のはずなのに、高速で横方向から迫り、炸裂する。それが数倍のペースで放たれていた。まさに、弾幕。
「何が起きてる!?」
「ぐあぁ、熱いぃ!!!」
「なんなんだあの化け物は!」
彼岸は何もできなかった。目の前の存在に格の違いを見せつけられ、立ち尽くすしかなかった。
集めていた不死者も、戦場の死体も一つ残らず消え、それの力となってしまったのだ。
(無理よ…なんなの!?こんなの聞いてない!!そもそも何者なんだよ!?錬金術師?馬鹿げてるわ…)
余りの恐怖に彼岸は土下座した。もう少しで何かが漏れそうになったが、それは耐えた。
「助けて下さい、貴方に従います…!絶対に裏切りませんから!」
「……」
輪田は彼岸に錬金術で岩の枷を付けた。枷を基点に浮遊させて、ある人の前に運んだ。勿論この間も炎弾は放たれ続ける。味方の兵は、目の前で起こる蹂躙を見て呆然とするしか無かった。
「鈴木氏、こいつ降参したので支配してもらえます?」
「誰…?」
鈴木は困惑した。見たこともない長身のイケメンが親しげに話しかけてきたからだ。
「嫌だな、わかりませんか?輪田ですよ」
「え、輪田くんなの?何でそんなことに…!?魔法?顔を変えたの?」
「顔は変えてませんよ。錬金術の生贄に生命力を消費したら痩せただけです」
「そんなイケ…いや、何でもない。わかった、とりあえず支配はするね」
彼岸は意識を失い、操り人形となった。
撤退命令を出すと、彼女は"帰路の群星"の陣地テントに走っていった。
ーーーーー
数分前に遡る。空間魔法が発動を終えると、そこは戦場。
勇者と義賊は魔法陣の中で競り合っていた。
人智を超えたスピードで繰り出される剣戟に大和田は防戦一方となる。
(こいつ本当に人間かよ!)
時々隙ができるのでそのタイミングで吹き飛ばし、ゆっくり敵陣まで追いやる。輪田と伊澄もそれに協力し、終わると他の援護に行った。
「勇者よ!戻ってこい!!」
叫びながら現れたのは敵将タルセスだ。
首輪に仕込まれた支配の魔法による強制力に従って、勇者は馬に乗ったタルセスの横まで下がる。
「私はタルセス。ウェルス共和国最強の戦士にして、この軍の最高司令官だ。敵兵ども、かかってくるがいい!!」
タルセスからは大きな魔力を感じる。それか彼が生来から持つ魔力だ。
「勇者よ、俺に合わせろ。義賊を殺すぞ」
二人は大和田に連携攻撃を仕掛ける。
「チッ…」
話す暇などない。少しづつ傷が増えていった。
「大和田君、困っているようだね」
英雄ガルシアが大きな戦斧を片手に、大和田へ向かう敵からの攻撃を受け止めた。
「お前が手伝ってくれんのか?」
「助けには来たが、実は指揮があって忙しいから無理なんだ。だからこちらも勇者を連れてきた」
「大和田、僕が手伝うよ」
煌めく盾で勇者の攻撃を完全に受け止めたのは、同じく勇者である金宮颯だった。
ガルシアは元の位置に戻る前に、大和田に声をかける。
「少年、自分の持てる"力"を全身全霊で使うことだ。健闘を祈る」
現在、タルセスと勇者、大和田と金宮が最前線で対峙していた。
そして大和田は思い出す。
彼には、覇を冠する戦場の為の力があることを。
「グレンダールのバカ共!!俺に続けェ!!!」
味方の兵達はその声を聞き、奮起する。
「何だアイツ…めちゃくちゃ強え!」
「敵将と渡り合ってるあいつらが頑張ってるのに、俺らがビビってどうするんだ、行こう!」
「「うおおおおおおお!!!我が国の勝利の為に!!」」
【覇者のスキルレベルが2に上がりました。今後忠誠関係なしに味方の数に比例する少量のステータス補正が行われます】
(何だこれ…なんか、おかしいぞ!?)
大和田は突然大きな力を手に入れ、万能感に包まれた。
金宮は大和田に話しかけた。
「大和田、どっちと戦う?」
「俺が女の方を倒す」
「わかった。じゃあもう一人は任せろ」
金宮はタルセスの方を見据えた。
「負けて助けを乞うんじゃねーぞ」
「当たり前だ!!」
この戦いのターニングポイントとなるだろうという大将戦が幕を上げた。
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