十九話
他国の不穏な動きに合わせて、グレンダールの軍部も動き出した。なお、幽閉されていた英雄ガルシアも謀反の容疑が晴れ解放され、本格的な防衛計画を立てている。
そのころ帰路の群星の拠点である寮では、またもや会議が行われていた。
「お前たち、戦争参加の打診が来ている。俺は正直参加したくはないが…」
参加しなければこの国が滅ぶ。何故なら複数の国による連合軍であることが判明したからだ。
総勢二万の連合軍に対し、グレンダール王国軍は王国騎士団五百名、魔法戦闘部隊二百名、貴族の私設兵六千名、国民からの志願兵や傭兵千名
の総勢七千七百名という、半分にも満たない数である。もちろん防衛の方が有利ではあるが、それでも不十分な戦力だ。
金宮が手を挙げて発言した。
「人を殺すのは辛いことです。ですが、この国が滅んで行く様を見逃すのはもっと辛いと思います。僕は参加したい」
今田は金宮に反論するように立ち上がる。
「この中の仲間が死んでから後悔するでは遅くないですか?ガルシアのような強さの敵が現れたら、この前の輪田くんや灯香ちゃんみたいにやられて、しかも戦場じゃカバーしきれないよ」
「でも、僕らがやらなきゃこの国は…」
金宮がいいかけたところで、普段喋らない根田が発言を遮った。
「そもそも僕らの目標は帰ることでしょ。支援してくれる国がなくなるのは惜しいけど、そこまで命をかける義理はないだろ」
会議は膠着状態に陥った。
「…そういえば大和田のグループはまったく発言しないが、何かあるか?」
そう聞かれて、大和田が口を開く。
「別に真っ向から戦わなかろうが、できることはあんじゃね?」
「小堂先生、報告は一応しましたが、現在寮に敵国の一つのスパイ?的な人を確保してあります。その人によると、強力なスキルを持つ者を人質など悪辣な手段で脅して作った部隊があるそうですぞ。これらを解放すれば戦いの一助となるかもしれませんな」
と、輪田も続けて言った。
小堂も少し考えて、質問を返す。
「他国に赴くのか?」
「リスクとしては低いかと。何故なら戦争である程度兵も出払ってますからな」
今田は色々と考えて、質問した。
「全員で行くの?」
「いいえ、支援職と最低限の護衛を王都に残しますぞ。妙案がありましてね…あ、話していいですか?」
皆押し黙ることで話を促した。
「まず、敵軍ですが、複数の国の軍の連合軍ですから、どこかで合流してから進軍する必要がありますぞ。まあ、今からこっちに向かっても猶予は二週間ほどありますな」
「映子が城から盗み聞きしてきた話では、まだ敵軍に動きはないそうだ」
補足するように、伊澄も少し発言した。
「その通り。なので、捕まえたスパイこと協力者のスレイ氏にご案内頂き、敵国内に侵入。人質を解放して逃亡しますぞ」
「なんかうまくいきそ〜。輪田っち天才じゃん」
「どうやって逃げるの?騒ぎを起こしたら人質を連れて逃げるのは難しいでしょ。」
楽観的な発言をしたのは本田で、疑問を呈したのは鈴木だった。
「いい質問ですぞ、鈴木氏!秘策がありますぞ、とっておきが!」
嬉しそうな顔で輪田はポケットからハンカチを取り出した。
「「「?」」」
「この何の変哲もないハンカチ、実は魔法が編み込まれているのです。 」
もう一枚ハンカチを取り出すと、二枚を机に置き、片方にりんごをのせた。そしてりんごののっている方法に魔力を流す。
すると、右のハンカチに乗っていたはずのりんごが左に移動した。
「おおお…!」
拍手が起きる。
「いや手品してんじゃねーよ!」
あまりにも自然に見せたので小堂はツッコミが遅れた。
「とまあこんな感じで、ものを物や人を転移させられる道具があってですね。これを大きくした絨毯のようなものを作ってあるので、これで逃げましょう!ちなみにこれ、一定の波長を浴びると焼失する仕組みになっているので追われる心配もありませんぞ」
やや早口だったが、名案である。
「これでグレンダール王国を手伝うことに異論があるやつはいるか。いたら必ず言え。命がかかってるからな」
反対意見はない。となれば次は編成だ。
防衛組は今田と支援職のクラスメイトや本田と魔法職のクラスメイト。その護衛に根田と小堂の班。製作職のクラスメイトもこっちだ。
人質解放組は本田除く金宮の班。そして大和田の班だ。少数精鋭で敵国の城塞へ侵入する。
当面、仕事を休業し、訓練や魔法具、武器の最終調整を行うことにした。
ーーーーー
大和田は冒険者組合に来ていた。
「ギルマスはいるか?」
「オオワダさんじゃないですか!いらっしゃいますよ。用件はなんですか?」
「しばらくここに来れねぇから、報告に来た」
「…わかりました。すぐ案内致します」
案内された部屋には妖艶な雰囲気で佇む長耳の美女。
「カツミ!しばらく来ないとはどういうことだぁ!」
大和田は来たことを後悔した。ギルドマスターでエルフ族のオリアナは、解決できなくて困っていた依頼を大和田が簡単に解決してしまったことで、大和田をかなり気に入っていた。
「真面目にデカい仕事があんだよ。だから俺がいないのに無茶な依頼を受注すんじゃねえぞ」
「…戦争関係か?」
「……仕事内容は言えねぇよ」
「そうか、分かった。指名依頼などは断っておこう。」
すると、オリアナは仕事机の後ろの金庫から、宝箱を差し出した。
「お前にやる、必ず帰ってこい」
宝箱の中には、一差のサーベル。刀身は淡く紫に煌めき、微かな魔力を感じた。
「はぁ?何でこんなクソ高そうな剣よこすんだよ!」
「それは私が里を出るときに勝手に持ち出した魔宝剣だ。もちろんクソ高いぞ。特殊な効果はないが、耐久力と切れ味、魔力伝導率がそれの値段に比例するようにクソ高い。」
「だから何でだよ!」
「帰ってこなかったら呪う。難しい依頼はお前にとっておくからな」
「…ありがとな、無傷で帰ってきてやるよ」
理由を聞くのは野暮だと大和田は悟る。
同時に、国を守るという仕事に対するモチベーションが上がった。
ただ、事あるごとにエルフに命を狙われるようになるのはまた別の話なのだった。
ーーーーー
三日経った早朝。
「気をつけるんだぞ。命が一番大事だからな」
小堂は念押しした。
「任せて下さい先生。僕が大和田たちの歯止め役になります!」
「先生こそ、しっかり皆を守ってください」
金宮と伊澄は力強くそう言った。
「…俺はあんたのその責任感を尊敬してるよ。誰も死なすんじゃねぇぞ、センセ」
大和田は小堂を先生と呼んだ。
「小堂先生、必ず成功させますのでご心配なく!」
金宮達は輪田が造った馬車に乗った。タイヤを強力なゴムで作り、全体に軽量化魔法をかけてあるため通常の馬車の何倍も早い。
「大和田氏、こちらへ。」
「なんだ?早く乗れよ…って満員じゃねぇか、設計ミスか?」
馬車は御者席を除いて6人乗り。勇者の金宮颯、剣士の白銀太一、踊り子の照谷陽子、狩人の鳥尾旬の金宮組。それとパチコと案内役のアンナが乗っていた。
しばらくすると、輪田が戻ってきて御者席に座った。
「出発しますぞ」
「あれ、大和田と伊澄は?」
「後で追いつくのでご心配なく」
パチコはなんとなくモヤッとした。だが、あまり関わりのない人の前で暴れるのも気が向かないので黙っていた。
王都を出て5分ほど経つと、なにやら聞き覚えのある音が近づいてくる。
「エンジン音…?」
照谷はそうつぶやいた。
(エンジン…そんなのあるわけないでしょ。って、まさか…!?)
血相変えてパチコは外を見た。
二輪のタイヤで高速走行するそれはまさにバイクだった。
ヘルメットを被った男はそれを自在に乗りこなす。
そして、その後部座席には…
「あの女、抜け駆けしやがったなァ…!」
大和田に後ろから抱きつく形で、伊澄が乗っていた。
「後でぶち殺す。絶対ぶち殺す」
「この人怖っわ…」
鳥尾は思わずそうこぼした。
「ア?」
「すんません許してください」
「未成年なのに運転できるんだな…!」
そこら辺はしっかり不良な大和田であった。
ーーーーー
「何で馬車に乗らねーんだ…?」
「私もバイクは好きでな、よくお父さんや兄さんに乗せてもらったよ。だから、乗ってみたかったんだ」
(思ったより背中が大きい…)
伊澄はご機嫌である。
(こいつ…ホールドが強くて背中にでけぇもんが当たってんだよ。パチコのときは大丈夫だったが、なんかドギマギするな)
ふと並走している馬車を見ると、パチコが物凄い形相でこちらを睨んでいた。が、見なかったことにした。
このバイクは魔導二輪:アクセラレータというらしい。
内部の金属板に直接魔方陣を刻んであり、マフラーから大気中の魔力を取り込み利用することで効率的に高速走行ができるという。
ちなみにエンジン音に聞こえていたのは魔法陣の魔力抵抗の音である。実験段階で消すこともできたが、逆に雰囲気がよかったので消さなかったとのことだ。
(輪田は何を目指してんだろうな。意味が分からんくらい魔法を駆使してるが…もしかして本当にヤバいレベルの天才なのか?)
途中の開発段階で宮廷魔術師すらギブアップしたらしい。
底知れない、という言葉がよく似合う男である。
夕方、泊まる予定の宿屋に着いたので、大和田達は歩みを止めた。
「おい、テメェ!」
「なんだ映子、早く宿に入れ」
その一言で理性が吹き飛びそうになったパチコだったが、踏みとどまった。
「いや〜、疲れたな。何してんだ、早く寝ねぇと。明日も移動だろ?」
「アニキ!今度はあたしをバイクに…」
しかし、大和田はもう輪田と話していた。
「大和田氏〜。バイクのフィードバックを聞かせてもらえますか?」
「最高だったぜ。ただ…」
パチコは少し悲しくなった。
(クソ、少し前までアニキの良いところを知ってるのはあたしだけだったのに…)
「おいパチコ!」
「はい!」
呼ばれて反射的に返事。
「お前、あんまり知らん奴と長いこと馬車に乗るのはきついだろ。明日は俺の後ろに乗れよ」
「ーーーッ!!?」
パチコは思わず伊澄にドヤ顔をキメる。
「こっちを見るな」
「負け惜しみだろぉ!」
なお、大和田はパチコの方が色々つつましい身体をしているので、落ち着いて運転できるな、と思ったからというだけなのだった。
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