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十八話

王との謁見も終わり、休む間もなく忙しい日々が始まった。

小堂や輪田は傭兵団設立のため事務作業に追われ、腕っぷしのあるものも訓練や働きに出ていた。

大和田もまた然りである。

「うぉ…もう終わったのか?ゴブリンの群れは百体を超えていたはずだぞ…!」

「思ってたより賢い奴らだったよ、舐めてたぜ」

ゴブリンの耳を一杯に詰めた袋を大和田は冒険者組合に提出して、組合についている酒場のマスターに驚かれていた。

「ところで、あの嬢ちゃんは毎日来るが…どういう関係だ?」

「ツレだよ、気にすんな」

「隅に置けないねぇ…!」

「そういうンじゃねぇよ、あんまり勘ぐると殴るぞ」

少し前までは、大和田を見た周りの人は突如現れた大型新人にざわついていたが、今はすっかり慣れた様子だ。

「オオワダのアニキ、お疲れ様です!」

「あの小鬼どもを一人で片付けたんですかい?!」

荒くれ者が多いが、すっかり彼の虜だ。

「あーあー…帰るからどけっての!」

出ていくとそこには伊澄が待っていた。

「何で毎日迎えにくんだよ、母ちゃんか?」

「違う!お前が寄り道しないようにな…」

「俺はガキじゃねぇんだぞ!ったく、行きたいとこに行こうが俺の勝手だろうよ」

「それにしても、野蛮な冒険者達にあれだけ慕われるようになるとはな。まだ不良の気配が抜けてないんじゃないか?」

否定できない。つっかかってくる者を全員のしてしまったからだ。

「バカは自分より強い奴に従うんだよ。それよかお前は暇そうだな」

「スカーレット様が私の護衛の任を解いてしまったからな、他の貴族の体面上私達を雇っておくと厄介らしい。」

独立したことで、保守派の貴族達の中には大和田達を敵対視しているものも少なからずいる。

「はは、今日付でクビってことかよ!」

「ちが…違わないか。そんなわけで明日からは私も手伝おう。映子は諜報活動しごとで忙しいからな」

「あぁそう。よろし、何て?」

「だから…私も仕事を手伝おうと言っているんだ、二人でな」

()()()若干頬を赤く染めながら、伊澄は言った。

「分かったよ…その方が楽だしな」

「ヨシ!じゃなくて、よろしく頼む!私は先に帰るからな!!」

見たこともない速度で伊澄は走っていった。

「ちょ、おい!寄り道どうこうって話は何だったんだよ…」


ーーーーー


所変わり、グレンダールに隣接する国の会議室に、様々な国の重鎮が集まっていた。

「奴らは異界の戦士の管理に失敗したそうだ、抜け駆けした罰があたったな」

「左様。あの国ももう終わりだろう。異界の戦士は徒党を組み、独立してしまったそうだ。」

そんな会話が続いていく内に、部屋の一番奥の上座に座る長身で聡明そうな男が立ち上がる。

「今こそ彼の国を滅ぼし、利権を得る時だ。奴らは弱っている。それに、私の秘匿する戦力も動員しようじゃないか」

「まさか…異界の戦士ですか?」

「そうとも。しかしグレンダールの異界の戦士で最強は義賊だそうだ。引きが悪いものよ。こちらは勇者がいる。」

「「おおおお…!」」

各国代表も興奮していく。口々に自分の国の動員できる戦力を説明し、得られる富の分配に対して意見し始めた。

(気の早い連中だ、愚かだな。もっとも、負ける気などないのだからどうでもいいがな。)


ーーーーー


牢屋のような独房。ほのかに光る首輪をつけた少女は、粗末な寝台に横たわっていた。

(いつまで…いつまでこんな日々を送ればいいんだろう…)

「訓練の時間だ、出ろ」

近々戦争があるそうで、訓練が増えた。

従順な兵は優遇され、従わないものは奴隷のように扱われる。

夢を見ることすら叶わず、力を振るうことしか許されない。

邂逅のときは、近い。


ーーーーー


「やぁッ!」

掛け声とともに放たれた居合。森に潜んでいた狼の群れが追われている。

伊澄と大和田は今日も依頼をこなしていた。

「追い詰めろ…白虎!」

「グルルォン!」

伊澄の影から飛び出した虎は、鬼気迫る速度で狼を追った。

そして追い詰めた先には…二本の短剣ダガーを持った大和田が待ち構える。

「悪いな、そっちは逃げ道じゃねーぜ」

まだぎこちないが、持ち前の身体能力でナイフを操り、正確に狼の頸動脈を狙う。

「勝海…首を完全に切り落とすのはやめろって言っただろ!」

「力加減がムズいんだよ。戦闘に剣なんて初めて使うんだぞ」

「剣道有段者のくせに…」

初めて使うと言いながら、切り口はまっすぐで綺麗に切断されていた。

(筋が良すぎるのも腹が立つな…こいつは前の世界にいるようなただの狼とは違って毛皮も骨も硬い魔物なのに…)

仕方ないのでその場で狼の血を抜き、一段落ついた。

「頬に血が付いてるぞ」

「…それがどうした?」

「不衛生だ、こっちに来い」

「はいはい」

そう言いつつも、来なかったので、伊澄は自分から近づき、持っていたタオルで血をふき取った。

「…別に後で拭けばいいだろ」

「この世界に病院はない。感染症にでもなったら大変だろ」

実際大和田は状態異常に強い耐性があるので必要はないのだが、別に悪い気はしない大和田だった。

「おい、あたしのアニキとイチャイチャするな」

そう言いながらやってきたのはパチコこと蜜蜂映子だった。

「してねぇよバカが」

「映子、勝海はお前のものでも私のものでもないぞ」

「そういうところだろうが!アニキのことを下の名前で呼びやがって、墓に埋めるぞ…?」

パチコは小声で伊澄にメンチを切りながら囁いた。

「ふーん、お前は呼べないのか…!私は許可の上だぞ」

「な…な…なんだと…!?」

突然食らったマウントにパチコはわなわなと震えた。

「うわーーーん!覚えてろ、クソ真面目あばずれバカ野郎〜〜〜!!!」

そんな負け惜しみ?を遺して何もせずパチコは走り去ってしまった。

「おい、何か用があったんじゃねーのか…って行っちまった。最近なんかこういうの多いな…」

その時、大和田は何かの違和感に気づく。

(ん…?なんか森が静かだな。変な感じだ)

伊澄を見ると、刀に手をかけていた。

「……」

二人は目を合わせて、自分で感じた異変を共有した。

「そこだろ…出て来い!」

一番近くにあった木の裏に、黒装束の暗殺者のような人間が隠れていた。大和田は頭を掴み、背負うようにして引っ張り地面に叩きつけた。

同時に伊澄は対角にある木の上にいた暗殺者を発見した。

「落とせ」

暗殺者の背後には既に白虎が潜んでいた。あっという間に後ろから爪で攻撃され、首に刀を向ける。

「何者だ…!」

問いかけたが、返事はない。即効性の毒で自害したようだった。

「死んだぞ!」

大和田はピンときた。

「こういうのは奥歯に仕込んだ毒だよなぁ!」

「むが…ん〜〜ッ!?」

毒を飲み込む前に大和田は食道をふさごうと首を絞め、口から無理矢理仕込まれた毒を取り出した。そして舌を噛む前に口に自分の服の袖を破って詰めた。

「よし、死なせねぇ」

「よく躊躇なくいけるな…早く逃げよう」

二人は迅速に荷物をまとめて逃げ出した。


ーーーーー


「で、連れてきたのですな?」

「あぁ、でもほっとくとすぐ自殺しそうなくらい覚悟ガンギマリなんだよな」

寮に戻ると、輪田がコーヒーを淹れてさっきあった話を聞いてくれた。

「先生に用があってきたんだけど、何を話してるの?」

傀儡師の鈴木彩芽がやってきた。

「ふ〜ん、わたしならなんとかできるかも」

「本当ですか鈴木氏、どうやるか聞いても?」

「精神支配しちゃうの。操れば自害ができないどころか情報を喋らせられると思うよ」

「うん…おっかねぇ女だ」

「大丈夫大丈夫。普通は条件が厳しくて大和田君には効かないから。最低でも制圧しないと無理だね」

そんなわけで、隔離している部屋にやってきた。

顔が覆面で隠れていて顔は見えないが、睨んでいるのがわかる。

「じゃ、やるよ?」

「頭が爆発したりしねーよな」

「流石にそれはないですぞ」

鈴木は魔力を練り上げ、糸を作った。無数の魔力糸が暗殺者に絡みつき馴染んでいく。しばらくすると暗殺者の眼は虚ろになった。

「おっけー!大成功!!」

ほぼ廃人みたいになっていて二人はドン引きしたが、恐る恐る覆面を取ってみた。

顔を出したのは金髪の美女。

「…女だったのか」

「この人の口に指を?必要だったとはいえ、うらやまけしからん話ですぞ。それにしてもこれ、生きてるんですかね」

「少し黙ってて。じゃあ今から質問するから、正直に答えてね。あなたの名前は?」

「アンナ。アンナ・スレイです。」

鈴木が問いかけると、虚ろな目のまま答えた。

「うわ、ほんとに喋った」

「便利ですが、怖さが勝ちますぞ」

「ちょっとさ、二人とも引きすぎ。わたしだって欲しくてこんな能力じゃないんだよ?」

「「すいません」」

「ねぇ、なんか距離を感じる!まあいいや、尋問しよっか…」

色々と質問していく。

名前はアンナ・スレイ、24歳独身。

この国から東にあるウェルス共和国国王直属の諜報員兼暗殺者だそうだ。

鈴木は支配権限を大和田達にも渡して、質問を続けた。

「好きな食べ物は?」

「ローストビーフです。誕生日にお父さんが作ってくれたあの味は忘れられません」

「ちなみに、男のタイプはなんですか…?」

「強くて頼もしいワイルドな人が理想です。」

「うわ、なんかリアルだな」

「くだらないことを聞くな!!」

怒られた。二人は精神支配が凄すぎて構わず感心している。

「もういいや…わたしが聞くね。あなたがここに派遣された目的は?」

「詳しくは聞かされていませんが、戦争のための情報収集をしていました。その際に異界の戦士と見られる二人組を見つけ、観察していました」

「「「戦争…!」」」

いろんな方向から質問していくと、どうやら複数の国が徒党を組み、この国を狙っていることがわかった。

「情勢、いま得た情報から鑑みても間違いないですぞ」

「これは報告モンだな。で、こいつはどうする。国に引き渡すか?」

「少し待って下さい。気になることがあるのですよ。」

輪田は色々と考えながら質問を始めた。

「隠密系の特殊なスキルを持っていますね?」

「いいえ。しかし、国の指導の下、息を止めている間完全に気配を消せる技術を習得しています」

「やっぱり…!」

輪田は疑問に思っていた。伊澄には広域の気配探知能力がある。それにも関わらず近くまで接近を許したのだ。

「あなた、この仕事についてどう思ってました?こんな危険な仕事、何でやってるんです?」

「…弟が人質に取られています。私には才能があったため、無理矢理徴用されました」

「もし、我々が弟さんを助けられるなら、寝返ってくれますか?」

「おそらく、私も私の同僚も力になってくれるでしょう」

三人は考えた。これは戦争になったときかなりの切り札になるのでは、と。

精神支配を解除すると、アンナは不思議そうな、疑っているような顔をした。

「ワタシはアナタ達の情報を集めるために来た敵なのに、どうしてそんなことを聞くの?」

「あなたが雇用主に忠誠を誓ってて、これ以上何も利用できないようなら管理もしきれないし、国に引き渡すか殺してしまうかしかできませんでしたが、そういうことなら別でしょう?」

「わたし達もあなたの事を殺したい訳じゃないのよ。だって被害者っぽいもの」

アンナは状況を認識した。

(この人達は、本当に、本当にワタシを助けようとしているの…!?)

そう思った頃には、懇願していた。

「お願いします、助けてください…!どうかワタシの弟を解放してあげてください!」

「独断じゃ決めきれねーが、最大限やってやるよ」

「もちろんですぞ。不肖この輪田賢太郎、全力を尽くさせていただきますぞ!」

「わたし、先生に言ってくるね。そもそも他に用があったし」

ひょんなところから、良い拾い物をしたのだった。

「ところでスレイ氏。事務仕事は得意ですかな?」

「え、まあ人並みには…」

「この傭兵団には"働かざる者食うべからず"、という格言がありまして…」

「手伝えばいいんですね?」

「そう言って頂けるとかなり嬉しいですぞ…!!」

こうして、帰路の群星(ノスタルジア)の事務担当で後の受付嬢となる、アンナ・スレイが仲間に加わった。

こんにちは、一介です。今回の話は面白かったですか?

この物語が好き、このキャラが好きという方は是非いいねや感想、ブックマークをお待ちしています。有識者や先輩ユーザーの方々もアドバイスお願いします!では、また次回お会いしましょう。

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