十七話
戦いの傷も癒え、訓練は続いているものの、大和田たちの日常は比較的穏やかになってきた。
ここまでの訓練は他国との戦争の為取り急ぎ強くしようと厳しい訓練だったのだが、宰相の謀反、裏組織の過度な暗躍、貴族との癒着が目立ってきたこともあり、その空気は薄れていた。
「おはようございます、大和田氏。伊澄氏の意識もしっかり戻ってよかったですな」
「まぁな。回復魔法ってのはまあまあリスキーなもんってことか」
「状態が悪かったからでしょうねぇ。流石にあそこまでこっぴどくやられたら、身体を一気に治して消耗するのは自明の理では?」
「まあそうか。アイツも元気になったし、今日はなんかやることあるか?」
「あ、そういえば今日は午後から会議ですぞ」
思い出したかのように輪田が放った単語はなんとなく懐かしい感じのする言葉だった。
「へぇ…何を話すんだか」
「なんでも協力体制を変えたいって話ですぞ。それも気になりますが、一つ僕にアイデアがあってですね…」
大和田は黙って続きを促した。
「まずパチコ氏ですが、もう隠すのは難しいですね。目撃したクラスメイトも多く、追及されて黙秘すればトラブルのもとになりかねません。いっそのことこの回で紹介してしまおうというわけです」
「なるほど、いいじゃねえか。そういえばアイツは…どこ行ったんだ?」
そう聞かれた輪田はぎくりとした。
「あ、えーっと…出かけてますぞ」
「ふ〜ん。まあそんなの俺が管理するようなことでもねぇか」
「そうですな…!」
輪田は少しほっとした。会話も終わり、大和田は訓練に出るのだった。
ーーーーー
正午を過ぎ、生徒たちは男子寮の広間に集まった。
「じゃあ話し合いを始めるぞ。号令は…」
というところで言葉を詰まらせた担任の小堂。
「起立」
本田が一人そう発言した。
「なんか、エモいですな」
「空気を壊さず黙っとけ」
クラスメイト全員が立ち上がり、次の号令を待つ。
「気をつけ、礼」
「「お願いしまーす!」」
こころなしか前の世界でやった時より大きい気がする。
「お前たち、本当にここまでよくやったと俺は思うよ。またこうやって号令がかけられるなんて…!」
「先生、そういうのは元の世界に帰ってからにしましょうよ」
「そうだな、さっそく本題に入ろう。」
気を取り直した小堂は話を始めた。
「1つ目は、これからのグレンダール王国との付き合い方についてだ。これまでは兵器として訓練の日々を送ってきたが、俺達の扱いについて改めて交渉をしてみようと思う」
グレンダールの英雄や、裏切った宰相とその部下達に生徒のみで勝利し、力を見せつけた今は国の拘束を振りほどく絶好のチャンスだ。
「先日の新聞では我々のことや一連の事件のことが掲載されていて、民からも国へ疑念が広がっていますぞ」
「そんな時に国を助けてもらった俺たちに国王がぞんざいな態度をとれば…」
大和田も少しづつ考えを巡らせる。
「異界の強者の裏切りという不安を民に植え付け、混乱が起きるでしょうな」
二人がそんな話をひそひそとしていると、小堂が提案を始めた。
「これは俺の一存では決められない。交渉をどういう方向に持っていくかだ。帰還方法の調査にさらなる支援を求めるか、一度独立するかだな。三十分ほど考える時間を作るから、自由に話し合ってくれ。この際、席を変えても構わないぞ」
すると真っ先に伊澄が大和田の隣にやってきた。
「勝海、元気か?看病してくれてありがとう」
「なんのことだか。ま、元気になったのは何よりだ、灯香」
「…そういうことにしとこう。で、今回の二択はどちらを選ぶんだ?」
「伊澄氏、我々はどちらも選びませんぞ。いや、どっちも選ぶといっても遜色はないかと」
「はぁ…?」
「まぁ、こいつに任せとけ。俺も話はさっき聞いたけどよ、正直…」
大和田はため息を付いた後、突然にやりと笑った。
「天才だと思うぜ」
「お褒めにあずかり恐悦至極ですぞ!では伊澄氏に僕の叡智をお授けしましょうか…!」
話し合いの時間、三人は輪田の妙案について語り合う。
「お前、どこでこんなことを勉強してるんだ?」
「付け焼き刃ですが、推し活の一環でストーリー考察の為に政治とか勉強してた時期がありまして…」
「「どんな推し活なんだよ!?」」
そんなツッコミはさておき、話し合いの時間が終わった。
「じゃあお前たち、決を採るぞ!」
「異議あり!!」
「輪田、言ってみろ」
「我々の最善策は…!」
皆の前で不慣れながらも輪田は自分の策を語った。
「なるほど…確かにそれならうまく行きそうだな」
小堂先生は感心した。
「いいんじゃね?よくわかんないけど、ナイスアイデア!」
「…本田、理解してないなら発言しないほうがいい。でも、僕も賛成だ。何か役に立とうと勉強したつもりだったが、まだまだ僕は足りなかったようだね」
クラスで人気の高い本田と金宮が賛成したことで、他の生徒達も賛成の意を示しだした。
「すごいね、輪田くん。こんなに賢いなんて知らなかったよ」
「大和田の腰巾着じゃなかったんだ…!」
少し腹が立つ発言もあったが、すごい勢いで輪田の評価が上方修正されていった。
そのまま案は採用され、次の議題に移る。
「次に…これも輪田たちが言いたいことがあるそうだ。なんだ?」
輪田は少し緊張した。
「実は、皆さんに隠してたことがあります。それは、もう1人僕達の他に転移に巻き込まれた人がいるということですぞ!」
「本当なのか!?何で黙ってたんだ!」
あまりにも想像の斜め上の告白に小堂は驚愕した。
「じゃあ、出て来てください!」
窓に向かって手を向け、注目を集めた。…が、誰も入ってこない。
「おい、輪田に恥をかかせるなよ」
「もうここにいるし、何で窓から入って来なきゃいけないんスか?」
そう発言し、前に立っていた小堂の後ろに突如パチコが現れた。
「き、気づかなかった…!」
鈴木は感嘆して呟いた。傀儡師の力で人形を使い周囲を警戒していたにも関わらず侵入されていたからだ。
「こんにちは、あたしは蜜蜂映子。勝海さんの妹分ッス。どうぞよろしく」
「大和田班は知っていたんですが、諸々の事情がありまして…彼女は一個下なので、パチコって呼んで仲良くしてあげて下さいですぞ!!」
「ハァ?誰がそんなこと…」
「すご〜。ここまで見つかんなかったんだ。パチコっち、よろしくね〜」
本田はギャル特有のコミュ力でパチコに話しかけた。
「…フン」
「よろしく、蜜蜂さん!」
いきなり両手を掴んで握手したのは金宮だった。が、振り払われてしまう。
「あたしに気安く触るな」
そんな感じで、パチコはクラスメイトに受け入れられ、晴れて仲間入り
するのだった。
ーーーーー
「此度の戦い、大義であった。そして申し訳ない、あのような危険因子が国に紛れていたとは…!なにか望むものを教えたまえ、褒美として遣わそう」
グレンダールの王は玉座に座り、そう言った。そしてリーダーとして小堂がそれに答えた。
「私どもが望むのは、国から独立する権利です」
周りの貴族がざわつき出した。
「ぶ、無礼な!王から離反するだと!?」
「貴様らを召喚するためにどれだけの費用がかかっているか分かっているのか!!」
それに同調し、王も発言する。
「そ、その通りだ。それに、私の支援なくして君たちは生きていけるのかね?もう少し他の…」
独立を止めようとする王と貴族たちが言葉を続けようとした。
「ごちゃごちゃうるせぇンだよ…!!」
大和田の意を決した一喝で窓ガラスにひびが入る。
衛兵に緊張感が走り、騎士隊長が不敬だと叫び拘束にかかった。
「悪いな、離してくれるか?俺は手加減しねぇからな」
(なんだこの威圧感は…!)
騎士隊長は背筋に殺意を感じ、咄嗟に離れてしまった。
「思ったよりも状況がわかってねぇみたいだな。そもそも俺達は別世界の住民なんだよ、誘拐まがいの召喚、戦争のためとほぼ無理矢理みてぇな訓練。舐め過ぎじゃねぇか?」
「その通りですぞ。先生に変わりまして僕が要求をお伝えしましょう。」
一つ、クラス全員の国からの独立、自由行動の容認。
二つ、身分の保障。
三つ、新しい支援体制の確立。
簡潔に、この三つを伝えた。
「少々欲張り過ぎではないかね?」
「そもそも貴様らを召喚するために莫大な費用がかかっているのだぞ、独立は許されないだろう。」
それに対し、輪田は理性的に、かつ圧をかけながら対応する。
「欲張り過ぎではありませんぞ。なぜなら我々は前提として国とは全く無関係の人間なのです。むしろ、望まない召喚を強制された被害者ですぞ。それなのに国の反乱分子と積極的に戦い、勝ちました。相応の報酬だと思いますが?」
交渉力の高い輪田に驚愕しつつ、貴族達を意見をぶつけた。
「ぐっ、しかし…!」
「ふ、ふざけるな!国民はどうなる!?戦争に負ければ、どうなるか分からんのだぞ!」
それに対して大和田が怒鳴る。
「俺等を呼ぶ莫大な費用で兵や武器でも揃えれば良かったんじゃねぇのか?しかしもクソもねぇよ!だいたい…」
貴族たちは気圧されたが、そこで輪田がとめた。
「まあまあ大和田氏、おち着いて。本題はここからですぞ。支援体制の確立とは、何もあなたがたからの一方的な支援を求めているわけではないのです。」
広間の口論の声がそこで消え、輪田が話し始める。
「我々は傭兵団"帰路の群星"としてグレンダールから名実ともに独立し、改めてグレンダール王国との協力関係を結ぶ。我々としてもあなたがたの国が滅ぶのを望んではいません。どうですかな?」
王国側は防衛上、情勢の上でもこの提案を断ることができない。異界の兵の大量召喚という大きな武器を背景に他国に対しても強気に出ていたグレンダール王国は、それを失ったとなれば敵意が集中するだろう。貴族の中の聡い者もそれを悟ったが、対抗策が浮かぶ者はいなかった。力で従えようにも、一騎当千の英雄ガルシアは不本意に謀反者として幽閉されている。そもそも、ガルシアは大和田に敗れているのだ。
「…あいわかった。その方向で話を進めるしか道はあるまい」
王は決断した。
その頃側で話を聞いていた公爵令嬢のスカーレットは思考を巡らせた。
(大和田を使った恫喝を織り交ぜ、相手が冷静になる前に自分達の案を提示し、飲ませる。輪田っていう錬金術師だったかしら、食えない男ね。これがただの学生の手腕なの…?ふざけてるわ、まったく)
今後のグレンダール王国にとって、この出来事は明白な転機になるのだった。
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