十六話
ガルシアと大和田の戦いが終結する数刻前。
大和田が去った王城では、勇者が戦っていた。
輝く盾を手に、金宮は黒尽くめを狩り続ける。
「人を殺すのはしんどいな…」
「それな…」
殺したくないのは山々だが、そんな余裕もない。
「なかなかやるようだが…私は国庫から大量の魔法秘具を持ってきてあるからな。これらに蓄積された魔力を利用すれば、駒は幾らでも蘇る!」
その台詞の通り、倒れたはずの戦士は起き上がり、際限なく襲いかかってきた。
「何度魔法を破壊してもいたちごっこだな…!」
「ハハハ…ついにこの国を手中に収められるぞ、最高の気分だ!王の独断で異世界人を召喚された時はヒヤヒヤしたが…この程度なら問題にもならん」
黒い外套を外した男は、この国の宰相、モリアだった。
「この国を獲って何を企んでいる?」
「それは貴様の知る必要のないことだ…主力である貴様らを結界に封じ込めた。後はガルシアを使って外の異世界人連中を皆殺しにすればこっちのものよ」
事態は逼迫していく。刻々とダメージを重ねられる。
金宮はふと考えた。
(大和田は僕が思ったより凄いやつだったな。表に見せないが真っ直ぐで、強い。勇者か…僕はいきなり与えられた肩書きに囚われすぎていたようだ。)
容姿や育ちに恵まれた彼は、意識せず呆然と生きていた自分の薄っぺらさを痛感した。
「同じクラスメイトだ、やっぱり負けられないよ。大和田」
その眼には闘志が宿る。
【勇者に必要な条件を満たしました。これより隠された権能の封印を解除します。】
ーーー勇者専用スキル"悲願の剣"ーーー
自らの願いが金宮の剣に力を与えた。
「何だ、その剣の力は…!?」
剣は闇を灼いて消し去ってしまいそうな光を纏った。
「それはあなたの知る必要のないことだ…なんてね。勝たせて貰うよ!」
金宮は敵兵の頭を踏み越え、跳ぶ。それに合わせて、本田も最後の魔力を振り絞り、敵兵を牽制した。
「ふざけるな、私が集めた力が…道具が…計画が…こんなところで帳消し!?」
「そんなこと僕が知るか!」
肩から袈裟懸けに切り裂かれたモリアは、身体を真っ二つにされた。
すると、身体と一緒に切れたモリアの心臓が音を立て、兵を復活させるために自らの心臓に仕込んでいた魔法装置が破壊された。兵士たちは動かなくなり、そのまま命を落とす。
「惨いな…」
「ひどすぎじゃんね…最初からこの人たち、捨て駒だったってこと?」
一際屈強だった男が何かを虫の息でつぶやいた。
「生きてるのか…!?」
「あ……う…」
「喋らず安静にしろ!まだ、助かるかもしれないから…!」
「ありがとう…」
最後にはっきりとそうつぶやき、最後の一人もこと切れた。
二人はしばらく、黙り込んでしまった。
(僕がもう少し強かったら、この人たちは助かったのだろうか)
そう思わずにはいられない。
「チッ…間に合わなかったのか。お前ら、何辛気くせー顔してんだ?って…なんだこの死体の山は?外傷もほとんどねぇし、何で死んでんだ?」
後ろからそんなセリフが聞こえた。
「大和田か、ガルシアは?」
「勝ったよ。で、こいつらは?」
「黒幕だったモリアを倒したら取り巻きまで死んでしまった」
大和田はそれを聞いて少し考えてから、口を開いた。
「お前のせいとか思ってねぇよな?」
「…少し」
「俺達が助かったのも、お前のお陰だからな、忘れんなよ。俺は、人を呼んでくる。おい本田、てめーもついてこい」
「え、わかったけど、なんで?」
「お前、攫われてたんだよな?」
「あ、そっか…みんな心配してくれてたんだね?もしかして、大和田っちも?」
「黙って歩け…」
「ねぇねぇ…大和田っちも心配してたの〜?」
「お前がそんな感じじゃなきゃな、うるせぇよ!」
騒ぎながら大和田と本田はその場を立ち去った。
それが、彼が取れる最大の配慮なのかもしれない。
自分の弱さを知った勇者は人知れず涙を落としたのだった。
ーーーーー
事件から三日が過ぎ、民衆も事件の詳細を知った頃の昼、伊澄は目覚めた。
「ガルシアは、奴は倒したのか…?」
「俺がな。ハァ…やっと起きたか。お前は高位の治癒魔法の副作用で寝てたよ。まぁまぁ危険だったらしいぞ、生きててよかった…な…」
そう言ってベッドの横の椅子に座っていた大和田は死んだように気を失った。伊澄の足元に覆いかぶさるように倒れて動かない。
「勝海!って…え?」
困惑していると、病室に今田が入ってきた。
「えっと、お邪魔したかな…?」
「いやいやいやいやいや!待って、この状態で行かないでくれ」
今田は大和田を診て、微笑んだ。
「大丈夫、多分疲れてるだけだよ」
「は、はぁ。何故だ?三日経ったんだろう?」
「さ、さぁね。輪田くんを呼んでくる。大和田君を運んで貰おうか」
今田が去り、ふとベッド横の机を見ると、水の入ったタライとタオル。
タオルにはイマバリ(笑)と刺繍してある。
「勝海、まさかこの三日ずっと…?」
膝の上に乗ったその頭をそっと触れてみた。久しぶりに学校に行く前に気合を入れるために染めた金髪は根元に元の黒色が見える。
「……ありがとう」
なるつもりのない不良になった大和田。その背中にはどこか優しい空気をまとっていた。
「お前は不器用だな。いや、私も同じか…」
伊澄は事情も知らず軽蔑していたことを少し恥ずかしく思った。




