十三話
「このままだと、この国に内乱が起きる」
「「はぁ!?」」
伊澄がとんでもない爆弾を投下した。
「唐突だな」
「り、理由を伺っても?」
「さっきパチコが言ってた謎の襲撃者達だが、地方貴族の手の者とのことだ。王都で騒ぎを起こして内乱のきっかけにしようとしているらしい」
この国の貴族は大きく分けて三派閥に分かれている。
一つは王家派閥。国王、公爵などを中心とした最も有力な勢力だ。
二つ目は、宮廷貴族派閥だ。中流階級や成り上がりの貴族が集まったグループで、結束力こそ低いが王家に匹敵する影響力がある。
最後に、地方貴族派閥。こちらは国の辺境を治め、防衛にあたっている者たちで、めったに王都に来ないのであまり発言力はないが、軍事力があるため無視できない勢力だ。
「今回は王子殿下暗殺未遂事件が起きた。これをきっかけに宮廷貴族が色々ないちゃもんまがいの責任追及を始めている。」
地方貴族は宮廷貴族が要人の跡継ぎが集まる学園の警備を怠ったとして会議で糾弾しているという。それも用意周到に偽造した証拠まで用意していたらしい。
「なるほど…そうなってくると我々は宮廷貴族側として戦争に駆り出される、ということもあり得る話ですぞ」
「うぇ…面倒くさいっすね、それ」
怪訝な表情を浮かべる二人。
「政治で蚊帳の外だったのが気に入らなかったってとこか?」
「おそらくその通りだろう。少し調べたが、近年王都での政治は地方を蔑ろにするものもかなり多かった。これを機に王位を狙うものまで現れるかもしれない。そうなれば、本当に大戦争だぞ」
大和田も少しづつ状況を理解し、伊澄は頭を悩ませた。
「一応各班のリーダーにはそれとなくその旨を伝えたほうがいいかもしれませんな?」
「ああ、既にこの寮の近くにも密偵がうろついている。気付いているクラスメイトもいるし、混乱を防ぐために適度な情報共有をしておく必要がありそうだな。」
少しづつ進む話し合い。
「お前ら、本当に高校生か?この状況に順応しすぎじゃね?」
大和田は軽く疑問を抱いた。
「「…?」」
軽く流されてしまった。
そんなこんなで夜の会議は終わった。
ファンタジーな異世界に、現実的な戦争。
いまいち状況が飲み込みきれない自分に、当然のように対策を練る仲間。
色々な考えが頭の中を渦巻きながら、大和田は眠った。
ーーーーー
本田奈子は異世界にやってきてから魔法使いをしている。今日も今日とて魔法の本をめくりめくりしていたが…?
「あ…飽きた…マジ飽きたぁ〜。魔導書読むのもうムリなんですけど!」
そんなことを一人言いながら女子寮の共有スペースで机に突っ伏した。他の生徒は仕事や訓練に出ており、声が広い部屋で響いた。
「ん…なにこれ、状態調査の魔法?」
魔導書のページの間に、何やら紙が挟まっている。対象の状態異常を検査する魔法について書いてある。妙に興味を引かれた奈子は使ってみることにした。
「えーっと呪文は…これか。」
発動すると、一枚の紙が現れた。
「え…何、この結果?」
そこに書いてあったのは…精神支配の四文字。
『まさか見抜いたのか。異界からきたひよっこの魔法使いがここまで優秀だとは思わなかった。ついてきて貰おう』
突然頭に響く低い声。そして立ちこめる煙。
「ーッ!?」
(何これ!?もしかしてあーし、『お前は知り過ぎた…』とかいう感じで消される?マジヤバじゃね?!)
煙には何らかの毒が含まれていたようで、本田の意識は薄れていった。
『悪いな』
その夜、本田奈子の失踪がクラスに報告された。
ーーーーー
「ふざけるな!」
会議室に金宮の声が響く。
「金宮くん、気持ちは分かるけど落ち着いて!」
学級委員長の今田がその怒りを必死に抑える。
本田奈子の失踪報告はクラスに大きな衝撃を与えた。
「奈子ちゃん…何で…?」
「やばくね?誘拐だぞ」
ざわざわとする室内。
「あの女、消えたのか?」
「どうやらそうみたいですぞ。僕も魔法関係はかなりお世話になったし、不安ですな…」
「本田か、異世界に来てからクラスでは皆を精神面で明るくさせていたというのに。現場はかなり荒らされていたぞ。」
女子寮は、共用スペースだけでなく、廊下までくまなく催眠ガスが流れていたという。
「輪田、お前はどう思うよ」
「う〜む、荒らされ具合、魔法の規模、発見までの時間から予想するに、そこまで計画的な犯行ではないのでは?」
魔法を雑に放ったような魔力の残滓や、割られた窓。逃走経路をあまり用意してはなさそうだったことから、輪田はそう推理した。
「本田はいつもつまんなそうに魔導書を読んでたが、そこから何か不都合なことが見つかったのかもな。」
「なんだ、俺らは見張られてたってのか?」
三人がそんなことを話していると、気づけば視線が集まっていた。
「お前ら、冷静なんだな。」
金宮が呟いた。
「焦っても消えた奴は出てこねーだろ。バカは声がでけぇが、何も考えちゃいねぇのか?」
「くっ、嫌なことを普通に言ってくるなよ!」
「あ?本当のことだろうが」
金宮と大和田が言い争いを始めそうになった時、クラス担任の小堂が皆をまとめる。
「全員一回静かにしろ。本田が消えたのは確かに問題だが、大和田の言う通りここで騒いだところであいつが見つかったりはしない。俺達がやるべきことはなんだ?」
「俺達がやるべきこと…?」
「対策を考えンだろ。何で疑問符がついてやがんだ、アホ勇者さんがよ」
「それくらいわかってるよ!」
「どうだか。でだ、輪田。おまえの超絶頭脳の力を見せてやれ。」
大和田はドヤ顔でそう言った。
「大和田氏、偉そうにしといて結局僕任せじゃないですか。まあそれはそれとして、一旦仕事の体制を見直して捜索班を組んではいかがです?」
貴族護衛を一班につき一人づつ外して、本田捜索班を作ることにした。
「じゃあ金宮・輪田・今田・鈴木。そして俺。このメンバーで本田の捜索を行うから、他の生徒は仕事に戻れ」
「「はい!」」
小堂は担任として本田が攫われたことを悔いているようだった。
ーーーーー
会議の後。伊澄を呼び出した大和田は話し始めた。
「なんか変じゃねぇか?これ。」
「何がだ?」
「この状況だよ。なんでこんなに皆冷静なんだろうな。」
「慣れたのかもな」
何気ない会話だと思い、流そうとする伊澄。
「モヤモヤするから俺は調べる。だから伊澄、お前に公爵令嬢の護衛を任せたい。」
「だが…」
「大丈夫だ。お前も強いし、俺もやられたりするほど弱くねぇから。でもクラスには黙っとけよ。伝えるなら輪田とパチコだけな。言いたいことはそれだけだ。」
「…わかった。くれぐれも先走らず、冷静に行動しろ」
大和田は頭の中で考えを巡らした。
自国の利益のために異世界人を召喚し、利用する。そしてすんなりそれを受け入れるクラスメイト。
そこに大和田の直感は異常を訴えていた。
(ずっとケンカしてた俺でも危機感を抱いたってのに、何が起きてやがるんだ。思えば最初から違和感しかねぇじゃねぇか…!)
明くる日から、大和田の調査活動が始まったのだった
。
ーーーーー
城下町のはずれの屋敷の仄暗い一室で、男二人が会話をしている。
「本田奈子が支配の秘術に気づいたため、拉致しました。現在は魔力を封じ、王城某所に抵抗不能にしてあります。しかし、寮内の異世界人が自ら巡回・索敵を始めており、これ以上の監視は不可能です。 」
「そうか、中々に厄介だな。監視活動は遠くからの偵察程度に留めて続行しろ。」
「了解いたしました。」
「…計画を実行する、心して備えよ。」
「遂に、我々の悲願が叶うのですね」
「その通りだ。厄介な英雄はすでに手の中、異界の民など取るに足らん。必ず成功させるぞ」
「御意に」
暗黙に包まれた。
王都に潜む陰謀は、大和田達を取り巻こうと動き出した。
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早朝、調査に出ようとする大和田を輪田が引き留めた。
「大和田氏、こんなものを作りましたぞ。」
差し出したのは、円錐形の先に取っ手の付いた道具。
「なんだそりゃ。メガホンか?」
「まあ認識は合ってますぞ。マジックスピーカーと言って、僕のシミュレーションでは込めた魔力によれば王都中に聞こえる音量が出る代物ですぞ。」
「すげぇな…で、どんくらい魔力がいるんだよ?」
「大和田氏三人分くらいですぞ」
「無理じゃねぇか。まあ、持っとくわ」
大和田はコートの空間収納にそれを入れた。
「…ご用心ですぞ」
「わーってるよ、じゃあな」
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