十一話
ダンジョン攻略の後、訓練を繰り返す日々を送っていた。そんなある日、ガルシアがクラスメイト全員を訓練場に集めた。
「今日ここに集めたのは他でもない。当面訓練を中止し、お前達にやってもらいたい仕事があるのだ」
クラスメイトはざわざわとした。
「仕事、まさか戦争か…?」
「まだ死にたくないぞ、俺は」
ガルシアはその雰囲気に気づいたのか、説明を始めた。
「今回の仕事というのは戦いではない、軽い護衛だ。」
ガルシアが言う事には、もうすぐ国が運営する王立学園という学校に、沢山の人々が入学してくるらしい。その中にはこの国の王子や主要貴族の子息子女が含まれており、平民も入れる学校のため護衛の人間がいるそうだ。
「あの、何で私たちなんですか?」
学級委員長の今田は質問した。
「私達のような騎士が学校にいては、学徒らが落ち着かないからな。お前達のような若いものならば生徒としてお偉方の側にいられるだろう」
なるほどもっともだ。それはともかく…
「金持ちの子守ってか…めんどくせぇな」
「大和田氏、失礼ですぞ。」
「ガルシア様、仕事の期間はどのくらいだ?」
伊澄は皆が気になっていたことを質問した。
「貴族の方々の生活リズムや人間関係が安定するまでだ。学校は三年制だが、まあ一年ほどだな」
「「一年!?」」
「俺達はいつ向こうの世界に帰れるんだよ、早く遺物を探したいのに! 」
口々にクラスメイトたちは糾弾した。
「私もそれには同意だ。なぜなら私が仕組んだことではないからな。ただ、お前達にも利点はある」
ガルシアの声はよく通る。皆黙って聞き始める。
「あまり言い方はよろしくないが、貴族は金を持て余しているものだ。お前達の世界に戻るための遺物探しをするにも金が入り用だろう?何か見返りを提示してくるだろうが、投資してもらう好機になるではないか。」
それぞれ何か話し合い始める皆。
「おい、なんか言いくるめられてねぇか…?」
「投資してくれる保証などありませんぞ。まぁ…」
「やる価値はあるな」
伊澄が言葉を続けた。
すると、金宮が近づいてきた。
「大和田、伊澄さん、どう思う?」
(僕は完全無視ですぞ…なぜ?)
「勝手にしろ」
「勝海、そんな言い方はやめろ。私達は流れに身を任せる。そっちで決めてくれて構わない。こう見えて大和田は協調性はあるからな、決めたことに私達も従おう」
伊澄は大和田のかわりに答えた。
「わかったよ、ありがとう。じゃあ前向きに検討するから、よろしく」
そんなこんなで、先生を除くクラスメイト全員で王立学園に入ることにした。不本意にも、学生生活を再開する運びになるのだった。
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グレンダール王国の貴族街の大きな屋敷の一室に、一人の女性が佇んでいた。
「お嬢様、学校に共に行く異世界人の護衛が挨拶に参りました」
「ついに、ついに勇者様が!すぐに行くわ!」
「あ、えっと…」
側近の言葉を聞かずに彼女は部屋から出ていった。
高鳴る心を抑えつつ、女性は応接間に入る。
「ごきげんよう、勇者様?」
「チッ…勇者じゃなくて悪かったな」
いたのは、なんとなく調和の取れない三人組だった。
「スカーレット様、来たのは義賊の一行です!」
スカーレット公爵令嬢は露骨に嫌な顔をした。
ーーーーー
一週間が経ち、大和田達は制服を身にまとっていた。
「異世界の服って感じですな」
「アニキ、かっこよすぎ…」
「窮屈だな、この服はよ」
「そういえば大和田氏、髪が伸びてますな。学校まではあと三時間ほどあるし、切ってはどうです?」
「アタシが切ってあげる」
パチコはハサミを取り出した。髪を集めやすいよう床を工夫してから大和田は黙ってイスに座った。
「え…」
「なんだ輪田。アタシの親は美容院経営してるけど、なんか文句ある?」
「へえ…だからいつもパチコ氏の髪はキレイに整っていたんですな」
「お前、アタシに向かってキレイって、ド直球だな。恥ずかしくないのか?」
「勿論、推しの良い所を見つめるのがヲタクというものですからな!それの応用ですぞ。」
輪田はドヤ顔でそう言った。
「へえ…じゃあアタシはアニキの髪に集中するから黙ってろよ」
「冷たいですなぁ…」
髪を切り終えると、次は伊澄が訪ねてきた。
「遅刻するなよ、お前達。スカーレット様に恥をかかせるな…よ…」
制服を着て、髪をさっぱりと切った大和田は一国の王子のような風貌になっていた。
「なんだよ、俺の顔にゴミでもついてんのか?」
「あ…いや、なんでもない」
大和田は伊澄の様子をみて、不思議そうに近づく。
「えーっと…先行ってるから遅刻するなよ!」
早口でそう叫び、伊澄は走っていった。
「はァ?なんなんだよ、あいつ」
輪田とパチコは大和田を生暖かい目で眺めていた。
「パチコ氏、アレって…」
「アニキかっこよすぎるよね、まじ達成感やばい 。伊澄のやつ、見惚れてたぞ絶対!」
「鈍感ですな、ただそれはそれでイイ…これぞリアルラブコメ!」
「え、それはダメ。アニキはアタシのだから」
「ええ…」
そして今日も会話がかみ合わない二人だった。
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護衛を担当する貴族の屋敷に行くと、屋敷の前に馬車が止まっている。
伊澄と雇い主であるスカーレット公爵令嬢が中に座っていた。
「ごきげんよう。男の方は外の護衛をお願いしますわ。私、人気ですからしっかり人払いしてくださいね」
「まさか顔すら見せずに命令とは…我々嫌われてますな、大和田氏」
「フン、仕事だからな。関係ねぇよ」
二人は周りを見ながらヒソヒソと話した。
「おい、来たやつは手荒く追っ払っていいのか?」
「よろしくてよ。予約のない求婚は非常識ですわ」
「あっそ」
馬車は町なのでゆっくり進む。
「その馬車、公爵令嬢のものと見受ける。お嬢様、私と婚約を…」
「あァ?」
「ヒィ、スミマセン…!」
自信ありげな男は大和田のメンチに血相を変えて逃げていった。
「その感じでメンチ切るのなんか新鮮ですな」
「…そうか?」
その後も何回か人が来たが、ことごとく逃げていった。馬車の中では伊澄とスカーレットが雑談をしていた。
「まったく美しいのも罪ですわね」
悔しいが、スカーレットの容貌は確かに美しい。
「ふふふ、スカーレット様がどなたかと婚約すれば誰も寄り付かないのでは?」
「そうですわね…一応王子殿下を狙ってはいますわ」
「へえ…恋慕していらっしゃるのですか?」
「いいえ、権力よ。この国の王子殿下たちは私の好みではないの。もっとがっしりした頼りになる殿方の方が…」
(がっしりか…そういえば大和田はがっしりしてるよな。私もがっしりは嫌いじゃないし、今朝だって…)
きっちりとした制服を着こなし、それに見合う髪型になっていた大和田をふと伊澄は思い出した。
「伊澄さん?」
「うあっ!?」
「貴方こそ誰かを慕っていそうですわね」
「そんなことはありません!」
「まあ貴方の仲間ではなさそうですわ。だってあんなに…え、誰?」
馬車のカーテンを開け、外を流し見したスカーレットは大和田を見て驚愕した。
「え、大和田ですよ」
「あのボサボサ頭がああなったんですの!?原石でしたのね…中々男前じゃあありませんか」
「そうですよね」
「そうですよね?」
「あっ!いや…なんでもないですよ!」
「本当ですの、それ。ふ〜〜ん…」
伊澄がスカーレットに弄ばれているうちに、学園に到着した。
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入学式は、諸々のお偉方がひとしきり式辞を述べて、懇親会へと移った。高そうな食事が並び、平民出の生徒も貴族出の生徒も混ざり、話を始めた。
「ここからは貴族が多いので暴力行為は禁止ですわ、しっかり人払いなさい」
「まるで雑用だぜ…」
「そうですか?あ、このローストビーフ美味しいですぞ」
「呑気だな。私はあちらを対応するから、頼んだぞ」
「わかりましたぞ、では僕はあちらを…って大和田氏!?」
大和田は何故か人だかりの中にいた。
「お名前を聞いてもよろしいですか!」
「私は知ってるわ、どきなさい!大和田様、訓練の映像見ました、凛々しく戦う姿に感動いたしましたわ!」
「オイ、寄るな!なんなんだテメェら!?」
仲間二人が離れたタイミングで懇親会に出ていた女性達が大和田を囲み始めていたのだ。
「ここは私の顔を立てなさい、伯爵令嬢よ。平民はお呼びでないわ」
「うるせ…全員お呼びじゃねぇよ!!」
伊澄が周りを見ると、他の貴族の護衛に周っていた金宮の周りにも人の渦ができている。
「ちょ…落ち着いて…落ち着いて…!」
伊澄は二人の様子をみて、色々と考えを巡らせた。
「スカーレット様、何故あんなに人気なんです?」
「あ…そういえば最近異世界人の戦闘訓練を記録した水晶が流行ってましたわね…そのせいでは?まあ私は興味なかったのであまり知らないですわ。アレのおかげで人が来にくいし、ほっときなさい」
「そうですか…」
一方、輪田の方では、スカーレットに会いたい男が輪田を詰問していた。
「早く通せ!私はスカーレット様にご挨拶いたしたいのだ!」
「ではあちらの列に…」
「私は貴族だぞ!待たせるつもりが!?」
「スカーレット様はそう何人もいませんが逃げたりしませんぞ、どうかお並びください…」
頑なに譲らない貴族。しかし、後ろからやってきた高貴な様子の男が一喝する。
「おい、何をしている」
「なんだと?誰だ貴様は…って第ニ王子殿下!?」
「公衆の面前で恥をかきたいのか?いい加減にしろ。異界の方も困っておられるだろう」
悔しそうに、男は去っていった。
「ど、どうもありがとうございます。助かりましたぞ」
「構わない。それより、スカーレットの列はここか?」
「はい、ここですぞ。懇親会をお楽しみください」
冷淡に礼を流し、自分の用件を聞いたら、第ニ王子も人の波に消えた 。
ーーーーー
「今度のお茶会に…」
「行かねぇ」
「私の屋敷でのパーティはいかがですか?」
「断る」
「私の付き人にしてあげてもよろしくてよ」
「黙れ」
疲れた様子の大和田。
(ったく、意味がわかんねぇ、護衛どころの騒ぎじゃねぇよ…なんでこんな冷たく返してんのにこいつらは食い下がってくんだよ…)
「私、貴方をお慕いしております。ぜひ縁談を…」
「悪い、こっちが慕ってねぇからあきらめてくれ」
「そうですか…!」
「「キャーッ!冷たいのに振り方は優しい!」」
「ウルセェ、ダマレーーッ!」
不慣れな大和田は限界を迎えそうになった。
(マジでウゼェ… )
『最後に、ダンスの時間を設けたいと思います。相手を見つけて、ダンスはいかがですか?』
魔法会場にアナウンスが入る。中央の机が片付けられ、流れていた音楽がダンス用にテイストが変わった。
「いけない、相手を見つけないと!」
誰かがそうつぶやくと、大和田に視線が集まった。
「「「………」」」
「えっと、断わ…」
迫る女性達に、困惑する大和田。睨む男の貴族たち。
「大変そうだな、勝海。」
伊澄がやってきた。
「おい、灯香」
「なんだ?はやくスカーレット様の所に」
「俺と踊れや」
「……は…?」
大和田は周りを見た。すると、スカーレットが第二王子とまるで舞踏会の如く踊っているのを見た。
「お、おい、お前踊れるのか?ひゃっ!?」
「黙ってろ」
見たまんまに足と手を動かす。
そして大和田は無意識に"義賊のテクニック"が発動した。少しぎこちなかったが、見苦しくは感じない美しい動き。
「助かったわ。あの女ども、鬱陶しいったらありゃしねぇ」
「ソ、ソウカ。ソレハヨカッタ…」
(近い…近い近い近い近い!何だコレ…何だコレぇーーー!)
突然の出来事に伊澄は頭がうまく回らなかった。
しかし熟練の腕前のように大和田にリードされて、なぜか踊れていた。
曲が止まると、二人は喝采の拍手を受けるのだった。
こんにちは、一介です。今回の話は面白かったですか?
この物語が好き、このキャラが好きという方は是非いいねや感想、ブックマークをお待ちしています。有識者や先輩ユーザーの方々もアドバイスお願いします!では、また次回お会いしましょう。




