十話
宝箱から出てきた黒い物体が、伊澄の中に入り込み、突然意識を失った。
「一体何が起きてやがる」
「えーっと…どうすれば…!」
金宮達もこちらに駆け寄って、心配そうに見ている。
「灯香っち…!」
「何があった?大和田、何かしたのか!」
金宮は声を荒らげた。
「はぁ?んなわけねぇだろ。そんなことして何の意味があんだよ。馬鹿か?」
「なんだと…?じゃあ何で!」
「貴様ら、落ち着け。これは外部からのスキル獲得だ。黒い何かが入っていったのだろう?それは使い魔系列のスキル獲得の兆候だから、心配しなくていい。そこに寝かせておけ」
ガルシアは金宮を制し、そう説明した。
「そうか…すまない大和田」
「チッ…」
やはりコイツは好かねぇ、と大和田は思った。
「心配しましたな…では、最後の一つを開けても?」
輪田はソワソワしたように聞いた。
「はよ開けろ」
輪田が開けた宝箱には、指輪が入っていた。
「錬金術士専用ですぞ…これは神引き!圧倒的勝利!」
後で聞くに、鉱石類限定だが、とんでもない量を管理
・収納できる魔法の指輪だそうだ。
しかも自分の周りならどこからでも出せるらしい。
「よかったな。」
「あ〜あ、あーしも頑張ったのに杖とか出なかったわけ?残りは刀と両手斧とかマジないわ〜」
金宮班の魔法使い本田奈子はガックリ、という表情を浮かべた。
そこに、大和田は話しかける。
「おい、てめぇ。杖使えんのか?」
「え、あーし?使えるけど…」
「やるよ」
大和田は、さっき宝箱からでた賢者の杖をわたした。
「なにこれ、杖じゃん。宝箱から出たの?」
「あぁ、俺の班にはいらねぇし、国に取られんのはムカつくからやる」
「マ?がち優しい〜。ありがとう、もらうねぇ。大和田っち」
「なんだその呼び方、ナメてんのか」
「ナメてないよ、馴れ合ってんの〜。てか改造学ランまじ似合うね!うける」
「うけてんじゃねぇよ!ったく、調子狂うな…」
二人の会話に、金宮が首を突っ込む。
「じゃあこの刀は伊澄さんにあげてくれよ」
「はァ?」
「いや、その、もらってばかりじゃ悪いし…それにキミが使えなくても伊澄さんが使えばキミの力になるだろう?」
「あっそ、じゃあ貰う」
大和田は貰った刀をもって去っていく、と思うと立ち止まった。
「まあ、感謝はしとくわ」
そう言って再び歩き出した大和田に金宮は少し驚いた。
「大和田っち、素直じゃないね〜。うける」
「そうだね、僕も最近アイツへの見方が変わったよ」
「それな、てか結構イケメンぢゃね?」
「…そういう話ではないよ、本田」
クラスメイト達との距離が縮まるのも時間の問題かもしれない。
ーーーーー
「おはよう!」
「テメェは訓練の日寝てる内から部屋にくるのやめろや!」
「やめないぞ、そうでもしないとお前はたまにサボるだろ、勝海」
「あァ?」
いきなり下の名前で呼ばれて大和田は面食らった。
「なんだ、変なところでも?」
しかし伊澄の顔を見て、大和田は余裕を取り戻した。
「ハッ、テメェはよく顔色が変わるなァ、灯香」
仕掛けたはずの自分が赤くなっていた。
「うう、何でだ。負けた感じがする…!」
「おはようございます、伊澄氏。毎朝元気ですな」
「ああ輪田。新しいスキルを試したいんだ。二人とも訓練場に来てくれるか?」
伊澄はこの前の宝箱で新しいスキルを獲得していた。
「勿論ですぞ。支度したら行くので、先に行っていて大丈夫ですぞ」
「わかった、また後で!」
伊澄は走っていった。
ーーーーー
訓練場に着くと、伊澄は剣の訓練をしながら待っていた。
「待ってたぞ。試してみよう!」
装備を着けて、二人は伊澄を見据えた。
「いくぞ、出てこい!」
頭に勝手に浮かんだ掌印を指で結ぶと出てきたのは、白銀色の毛を身にまとった虎、白虎であった。
「すげぇな」
「かっこいいですぞ…!」
白虎は伊澄になついている。猫のように喉をゴロゴロ鳴らしながら近づいてきた。
「白虎か。この能力、気に入ったぞ。」
「能力の詳細はどうなんですか?」
「式神使役と書いてあったぞ。これのほかにスキルが進化すると何体か増えるようだな」
伊澄は軽くそういった。
「へえ、頼もしいじゃねぇか。で、強さはどんなもんだ?」
大和田は首を鳴らしながら質問する。
「戦ってみていいか?」
「いいぜ。かかってこいよ」
訓練場に出た虎は、四足で走り出した。
スピードは伊澄以上。申し分ない膂力だ。
「速えな…!」
勢いのある走りから繰り出された爪撃。
大和田は軽く白虎の腕を横に流し、回避した。
「大和田氏がカウンターではなく回避を選択しましたぞ。パワーも高いようですな」
大和田は距離を取り、改造学ランのような装備を身に纏った。
「俺もこいつを試してみるか!」
義賊の正装
等級:EX(進化型)
効果:想像変化、超防刃、超衝撃吸収、防汚、空間収納、ステータス補助
輪田に貰った紙にはそう書いてある。
「すげぇな、全然効かねぇ」
再び白虎が攻撃するが、それは防がずとも装備に勢いを殺され、有効打にならなかった。
しかし、大和田の攻撃は通る。
義賊の正装に補助されたステータス"カッコよさ"によって大和田のスキル"覇道"が発動し、攻撃威力が増す。
正面から重い一撃を浴びせると、白虎は後ろに下がった。
「白虎、なかなか使えそうだな。」
「あァ、思ったより強かったわ」
伊澄は白虎の首元を撫でた。やはり猫のように喉を鳴らす。
「毛並みも綺麗ですな」
輪田は怖いのか、少し遠くからそうつぶやく。
「今日は白虎も組み込んだ戦闘訓練をするか、勝海」
「いいんじゃねーの?やろうぜ」
新たな仲間を手に入れた三人は、嬉々として訓練に向かうのだった。
ーーーーー
「今日は一対一での戦闘訓練を行うぞ。前やったのは私が来る前だそうだな?今度は私が見て指導してやろう」
「「「………」」」
「どうした大和田班、何か不満でも?」
「…いいえ、何も」
くじ引きを引くと、出たのは…輪田。
「胸を借りますぞ、大和田氏!」
訓練用結界に入るなり、輪田はそういった。
「借りるまでもねぇだろ、テメェの強さならよ」
「……お見通しですか」
二人の間に沈黙が走る。
「始め!」
端から見たらヤンキーに睨まれたオタク、といった構図だが、実際は違う。
大和田は始め攻めようとしていたが、輪田が魔法を仕掛けているのを確認し、警戒を強めた。
「フフフ、大和田氏。僕を警戒しているようで嬉しいですぞ」
「めんどくせぇ相手だよ…」
大和田は戦闘の面でいえばそこまでバカではない。
しかし、ここは攻めの一手。これ以上の準備を許すことなく、大和田は慎重に周りを見極めながら走る。
(罠魔法か、俺には通じね…)
「そこですぞ!」
罠を回避した先に突然細い拳のような岩が生えた。
罠で行き先を誘導し、確実に顎を狙った攻撃。
「勿論大和田氏の特性は理解してますぞ。
その一、小細工は無効
その二、行動は単純。しかし脅威。」
「バカが、ここがガラ空きだぜ!」
その攻撃は届かない。
既に輪田は空間魔法で別の場所である。
「最後に、隙は絶対に見逃さない。その隙はダミーですぞ、大和田氏」
「はァ?」
「それとそこ、危ないのでは?」
そう言った瞬間、地が爆ぜる。
「これは僕のオリジナル錬金魔法、名付けて"即席地雷"!」
罠魔法と錬金術を組み合わせ作った地雷を自ら踏み、空間魔法で移動する。その炸裂は大和田にクリーンヒットした。
「効かねぇよ、それも小細工だろうが!」
大和田は止まらない。なぜなら衝撃吸収によって爆発は効かなかったからだ。
「あ、そこですぞ」
再び襲う岩の攻撃。腕で複数で多段攻撃を仕掛け、押し返す。その隙に色んなところから魔法が発動していく。
「チッ…ムカつくな、輪田ァ!」
「そのへんは滑りますぞ」
突然ぬかるむ地面。大和田はコケた。すると、カッコよさのパラメーターが下がり、大和田の上がっていた攻撃力がもとに戻る。
「………」
「おっと、マジギレですな?ほら、冷静、冷静に!」
輪田はここぞとばかりに大和田を煽り散らす。
(こいつ、想像の百倍強え…このままじゃ負けるぞ、クソ、どこでこんな技術を練習してやがった!こんな小細工ばっかり…小細工?)
「そういえば、俺も得意だぜ」
「…?」
大和田は飛び上がる。そして…
「これが俺の小細工だ!」
「うわ、目が!?」
魔法で地面に散らばった砂利を力任せに浴びせた。
「戦略、小細工、構わねぇよ。それがテメェの持ち味じゃねぇか、輪田!だけどよ…」
輪田が焦り、力任せに伸ばした岩触手に乗り、大和田は一気に距離を詰める。
「ムカつくから俺にはやるんじゃねぇ!」
衝撃の発言とともに、輪田の腹に拳がめり込んだ。元の防御力の低い輪田は、一撃で倒された。
「グフゥ…めちゃくちゃですぞ…」
「まァ、俺の仲間としちゃ最高だな。頼りにしてるぜ、輪田」
大和田は心の中で反省した。
(油断してたな、もう少しで負けてた。俺はもっと強くならねぇとあいつらに越されちまいそうだ。もうちょっと本気で修行するか。)
輪田の持ち味が策略ならば、大和田は才能を余すことのない努力だ。
ーーーーー
次の試合、伊澄は金宮と対峙していた。
「伊澄さん、一つお願いがあるんだ」
「…?」
「僕が勝ったら、僕と付き合ってほしい!」
訓練場がざわつく。主に女子。金宮はかなりと言っていいほどモテるのだ。
「断る」
が、この一言で凍りついた。
「え…」
「勝てると踏んで挑んできてるのが気に入らないしダサい。まあ、私に勝てたら一日くらい遊びには付き合ってやる」
金宮は顔を若干赤くしたが、取り直した。
「確かに…それは盲点だった。じゃあ、その権利を勝ち取るよ」
伊澄は緊張を高める。
「おい」
そう後ろから呼んだのは…大和田。大和田は何かを伊澄に投げ渡した。
「ブチのめせ、灯香」
それは、刀。今使っている模造剣の数倍は手になじむ。
「ああ、そこで見ていろ。勝海」
伊澄灯香は綻ぶように笑いかけた。
「始め!」
ガルシアの掛け声とともに、両者は動きだす。
金宮は練習でやったように、ガルシアに習った剣術を扱って、伊澄に迫る。
対する伊澄は流麗に構えをとった。今まで剣道で学んだ武の心得を自分の中で昇華させた実践的な剣術。
「これが僕の力だ!」
勇者専用スキルである"剣の舞"が発動し、金宮のスピードは人の限界に限りなく近づく。その制御は大和田戦の比ではなく訓練により卓越したものへと変わっていた。
「早く動けるで勝てると思っているなら、それは間違いだ」
攻撃を仕掛けた金宮の小手を正確に剣先で狙った。
金宮は無理やり体を曲げ、ダンジョンで手に入れた勇者の盾で防御する。
「そうだね、でも僕はそれだけじゃない」
剣の舞から繰り出される高速で鋭い攻撃。
それを刀一本でいなしきる伊澄の受け身。
実力は拮抗していた。
そうなると、勝つのは地力のある方だ。
「食らえ、天下撃・改!」
その技は、伊澄を吹き飛ばすには充分過ぎる威力だ。
しかし…
「護符:衝撃吸収!」
腕に貼られた護符が、その衝撃を吸い取る。
「来い、白虎!」
刀を飛ばされた伊澄はその手で掌印を結んだ。
「何で急に…虎!?」
突然現れた白虎に面を食らう金宮。
「獣の前だぞ、呆けるな」
白虎と伊澄の両面攻撃。攻めに転じた伊澄は剣のバランスが崩れる場所を的確に狙い、無理やり隙をつくりだす。
金宮はかろうじて白虎の攻撃を防ぐものの、反撃の隙がなくなった。しかし、距離を取り体勢を整える。
「一度で効かないならもう一回だ、天下撃・改!」
恐るべき基礎能力。奥義を何度も放つその姿は、悪を滅する勇者そのものだった。白虎は斬り捨てられてしまう。
「よし、次は…」
「次はない」
既に背後に回った伊澄の刃が金宮の首を刈る峰打ちを放つ。
「ま…じか…」
金宮は倒れた。
「強いな。白虎がいなければ負けていたのは私だっただろう、金宮。」
訓練を見ていた騎士たちも騒然とした。
「カナミヤが負けたぞ…?」
「またか、勇者であんなに強いってのに、オオワダの班は異常だな」
騎士たちは金宮の実力を知っていた。だからこんなに驚いているのだ。
そんなこんなでその日の訓練は幕を閉じた。
義賊、退魔師、錬金術士。この歪なチームは一人一人に向上心があり、謎の結束力で強さを発揮している。
しかし、その強さが厄介事を招くことになる…
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